「ぼくがつねに考えているのは“ファンの人たちは何を要望しているのか”を知りたいということ。
ファンとのつながりを深める意味でもそれは大事なことなんです。競馬場に行けばこんなイベントがあって
こんなグッズが貰えるよ…… たとえば、ナイター初日に行けば限定品が貰えるとなれば
ファンも初日を目指して来てくれるんです。それがネットで流れたら、
あそこに行ったらこんな限定グッズがあって……というように話題になる。
話題にならんと認知されへんと思う。何にもせんでも馬券が売れる。人がいっぱい来る、
いまはそんな時代やない。だから、ファンの人が何がほしいのかということを聞きたい」
開口一番、田中範雄調教師(以下、範雄師)は、園田競馬への提言ととれる熱い思いを語る。
危機感を抱いている関係者の一人として、ファンの要望を探り、そこから展開できるあらゆる手段、
改善策を模索すべきだと力説する。ファンサービスに関して範雄師の意見はつづく。
「ぼくも以前、帽子(限定キャップ)を作って配ったし、三野君(元騎手、騎手会広告事業部代表)が
面白いグッズを作ったり、ファンの人たちを楽しませる企画を考えてくれたりしてる。
今後、ファンの人がこんな園田の限定品があったらいいのにというものがあれば教えてほしい。
それを調教師会はもちろんのこと、できれば馬主会にも協力してもらって、
騎手会も厩務員会もみんなで協力して盛り上げるという、
お金をかけてでも実現しようという意識を持ってほしいと思っています。
すべてを競馬組合に依存するという姿勢は、ぼくは嫌いなんです。
自分らの競馬場を盛り上げるために自分らもお金をかけてね。こっち側は何もせずに、
あれしてくれ、これしてくれと言うのは子供が駄々こねてるようなものやしね。じゃなくて、
自分らの競馬場を広く認知してもらうにはどうしたらいいかをもっと真剣に考えてほしいから、
みんなに自覚を持ってほしいんです。
で、ぼくが必要な経費のための寄付を募ったら(調教師会の)みんなが怒るんです(笑)。
そうやないんですよ、園田で働いてるみんなが自覚を持ってね、
自分の仕事に誇りを持てるような競馬場にせなあかん」
範雄師は早口で淀みなく話す。物言いに飾りがなく、小気味いい。発言を聞いて分かるように、
園田のオピニオンリーダー的存在で、これまでも率先垂範、
自厩舎の記念キャップやジャンパーなどを作りファンサービスに力を入れてきた。
現在の通算勝ち鞍は1624勝(2月16日現在)で、節目の1700勝達成時には関係者やファンに
記念キャップを配る予定でいる。
各競馬場が運営面で苦境にあるのは周知のとおりだが、範師はそうした状況にいち早く危機感を抱いていた一人だ。
そういう時期に「ぼくがまっ先に考えたのは馬主さんの気持ちになって物事を考えようということ」と言う。
それは競走馬の維持費に関する説明をこまめに、丁寧にするというのものだった。
「なんでお金がかかるのかを、まず説明しました。血の検査を月1回したら血のデータが出る。その結果、
こんな注射がしたい、こんな治療がしたいと馬主さんと連絡を取って、させてほしいと言えば、
あかんと言う人は少ない。いくらお金がかかりますよと説明して事前に了解を得る。
ぼく、まずそこからやと思うんです。結果、馬も良くなって成績に表れてくる。
馬が追い切ったらショートメールで必ず追い切り時計をその日のうちに送ります。
異常はなかったか、いついつレースを予定していますよ、と追い切り毎にメールを入れます。
要は馬主さんの立場になって考える。これは馬主さんに対する当然のサービスやと思っています」
こうした馬主への細やかな報告を、当時まだ出回り始めたばかりのファックスを使って知らせたのは
範雄師が最初だった。
相手の立場に立って考えると、やることはいっぱいある。
そこから新たな完全策が見えてくる――範雄師の提言は明解だ!