logo

クローズアップ ホースマン達の勝負に懸ける熱き想い
大柿騎手インタビュー02高松さん、2016年の俺を見てくれ!

ケガにも負けず、悔しさにも負けず、持ち前のポジティヴ精神で活路を切り拓く。

  • image

 

 開催中、レースが終わって西脇の調整ルームに戻り、みんなが寝るころ(午後8時ごろ)を見計らって10分程度。
そのポーズを見せてくれた。木馬にまたがり、まず通常の姿勢で鏡を見て確認し。
つぎに低い体勢をとり、胸が鞍に付くぐらいまで低くして追う動作に入る。
このとき手を前方に伸ばす運動を100回くりかえす。むろん尻は上げたままだ。
5分もつづけると汗だくで腿(もも)はパンパンになる。
木馬の練習だけで勝ち鞍がふえるわけではないだろうが、何をやっても三日坊主の男が
基本の反復運動の大事さを認識し、継続できているところは大いに評価できる。

 

 大柿の騎乗フォームが良くなった、と関係者は言う。木馬の成果だろう。
本人も「アブミ履いて馬に乗ったときにピシッとハマった感覚――
以前の良かったときの感覚が戻ってきた」と言う。
「レース中の馬に対するバランスが良くなってきたから、いざ行け!ってなったときに
馬にGoサインが送れる。それに馬が反応してくれるようになったから、
自分で動かせるようなレースができていると思います」

 

 木馬の練習をつづけることで下半身が安定し、同時に体力もついてきた。
“継続は力なり”のお手本のようだ。「高松さんが来て急に成績が上がったわではないんで、
これからですよね。高松さん、2016年の俺を見てくれ!」。
照れながらそんなふうに表現する大柿が、頼もしくみえた。
上昇気運の引き金になった高松騎手との出会いを彼はいま、重く受けとめている。

 
 

「俺、もっと頑張ったんねん!」

 取材日に行われた重賞『園田金盃』では、悔しい思いがあった。
大柿の乗り馬サウスウインドがホッカイドウ競馬の五十嵐冬樹騎手に乗り替わったのだ。
結果は好走してエーシンサルサの2着。大柿のなかにいろんな思いがあったと思うが、
レースを外側から見て「勉強になりました」と素直に言う。

 

 「ぼくが乗るよりかは1周目の直線から1、2コーナー、馬は明らかにラクしてた」と、
五十嵐騎手の折り合いの上手さに敬意を示す。
悔しさはないはずなのだが「これをバネに…」と自分に言い聞かせていたにちがいない。

 

 昨年からツイッターをはじめた。ファンは自分のことをどう見てくれているのか、
意識できるようになったことでそれが励みになり競馬にも好影響が出ている。

 

「ツイッターでファンとの関わりを確認できるようになって、
レースに対する姿勢がかわったということがありますね。
めっちゃきびしいことを書く人もいるんですよ。でも、そういうファンの声ってすごい大事やなと。
ツイッターを通してわかりました」

 

 ライバル視している騎手はとくにないという。ただ「自分より下の騎手には絶対負けたくない」という思いは強い。
若手が伸びてきている状況は彼は彼なりに奮起の好材料ととらえ、それをバネに「俺、もっと頑張ったんねん!」。
それが大柿流のプラス志向だ。彼のポジティヴな面は騎手にとって貴重で不可欠な条件だろう。
そういう適性を備えているのが大柿の強みである。

 

 2016年は「好不調の波を最小限におさえたい」という目標を掲げている。
成績が下がってもガクッと極端に落ちない、すぐに這い上がれる程度の安定した波を。
「数字を意識し頑張れば順位も自然と上がっていく。それが昨年後半、勝ちだしてわかりました」。
リーディング順位の意識よりも勝ち鞍を意識する。勝ち鞍を考えるときも月単位より週単位で考える。
「一週間単位で気持ちのほうもリセットしてるって感じですかね。
週イチで勝ち鞍を重ねていけば年間51勝はクリアできますもんね。毎週勝てるジョッキーになるというのがテーマです」

 

「ぼく取材に向いてないですから…」

 

「テキトーやわ、オレ。もう汗だくっスよ」

 

「ぼくなんかの話でまとまるんスか」

 

 取材のあいだ、大柿は何度も照れくさそうに言っていたが、質問には精いっぱい答えてくれた。
一見ちゃらんぽらんに見えて、けっしてそうではない。照れ屋なだけだ。自分を語るのが苦手なだけだ。

 

 技術面に関していえば、以前は焦りを感じて早めに動いてしまっていたのが、
最近は後方で我慢ができる競馬を覚えた。ワンテンポ追い出しをおくらせる技術も身につけた。
彼の評価は日に日に高まっている。それだけに、もう少しの踏んばり(粘着力)と
自分をいじめ抜く力(克己心)を身につければ、まだまだ伸びシロは拡がるだろうし、上位をおびやかす存在になれるはずだ。
彼の持ち味であるポジティヴ精神でもって――2016年、大いに暴れまわってほしい。

 
 

文:大山健輔
写真:斎藤寿一

クローズアップbacknumber