デビュー14年目を迎えた吉村智洋は一昨年、はじめて100勝超え(101勝)を果たした。
ランキングでは3年連続で5位をキープし、中堅実力派ジョッキーとしての能力は存分に発揮している。
そんな彼の欠点をあえて挙げるとすれば、好不調の波がこれまで激しかった、ということだろうか。
周囲からそう指摘されるのをむろん本人も承知のうえだが、しかし最近はそうしたバラつきがなくなり、
コンスタントに勝ち星を重ねられるようになった。
今年は3月11日現在で32勝。例年になく順調な滑り出しをみせている。
「ここ何年か、はじまりは良くないんで。ラッキーじゃないですか、今年は」。まるで他人事のように言い放つ。
「とくに何かを変えたとか精神面で変化があったとかはないです。
いつも通り、朝しっかり仕事をして…ハイ」と、心境に変化はなさそうだ。
なにはともあれ「朝しっかり仕事をする」ことが彼にとって何より大事なのである。
吉村が馬場に姿をみせるのは午前0時。馬場一番乗りである。すぐさま1頭目の攻め馬にかかる。
調教はマックスで25、6頭。中堅ジョッキーでは最多かもしれない。
そうして、7時過ぎまでたっぷり汗を流す。
このルーティーンはデビュー以来十年一日のごとく、変わることはない。
朝の調教こそが騎手生活の要諦であることを肝に銘じているからだろう。
「毎年毎年、ちょっとずつ朝は早くなってますね」と吉村は言う。
もっと多く乗りたいという気持ちが強いからだ。
「(騎乗依頼を)待ってるより自分から攻め馬をふやしたほうがいいと思ってます。
ぼくが攻め馬を一所懸命しているのをまわりが見てくれて、あいつに乗せたろか、と思ってもらえるじゃないですか。
乗り鞍がふえないと数字は上がらないですからね」
調教のある前日は夜7時すぎに寝て、4時間ほど睡眠をとり午後11時半に起きる。
ふつうの人はまだテレビを見ている時間帯だ。「家にいるときは家族は困りますよね。
7時すぎに一人だけ寝るというのは。こどもがいるんで。だから嫁さんには感謝しています」
デビュー以来、ストイックに続けてきた午前0時の馬場の一番乗り。
その自負が彼を今日まで支えてきたといえる。真面目さ、一所懸命さは誰からも認められるものだ。
吉村の不断の努力が、ここ数年乗り鞍に反映しているのはまぎれもない事実である。
上位に川原、田中、木村(年齢順)のトップ3と、4位につける下原がいる。
この牙城に割って入りたいという思いは当然強い。
一昨年同様、昨年も100勝超えを目安にしてきたが、結果は99勝で終わった。
その悔しさがあるだけに、今年は最低でも100勝ラインをクリアしなければならない。ところがどっこい、
「今年の目標は200です」吉村はケロッと言う。
今年の目標200勝!?彼流のユーモアなのか、それとも大風呂敷を広げて自らを鼓舞しようという狙いがあるのか。
どうも真意がつかめない。ただ、勝負事のおもしろさは最後にどんな目が出るか誰にもわからないとこにある。
「本気で200勝狙ってると書いてもいい?」と訊くと「いいですよ、マジで200勝狙ってますから。
実は去年も200勝を目標にしてたんですよ。
だから周りからは(100勝まで)あと1足りなかったと言われるんですけど、ホントは101足りなかったんですよ(笑)」
と少しも動じない。おもしろい男だ。
「もしぼくが200勝したら、単純な話、上の4人から20ずつでも勝ち鞍をとることになるでしょ。
そうすると差が詰まるし、逆転もあり得る。200勝したいってことは上位の騎手を逆転したいってことですよね。
簡単にいえば…」そういう言ったあとで「でもまぁ、無理ですけどね(笑)」。
ポロリ本音を吐く。ホントおもしろい男だ