「結果を残してなくても派手な騎手はほかにもいっぱいいる。その点で真吾は損してるんや。
そうや、お前、服変えろ!勝負服!」
「イヤ、それはイヤですよ!」
「そんなことから自分の殻を破るのって大事やと思うぞ。まわりの見方って勝負服を変えただけでめっちゃ変わるからな」
「勝負服だけは変える気はないです!」
このときばかりは、きっぱりと自己を主張した。デビュー当時にお世話になった師匠の薮田勝也元調教師との
思いが込められているからだと言う。
「これまでは数字にこだわるといいことないなと思ってたんです。慌てるというか焦るというか、
それが馬に伝わってしまうなと思ってたんで…」
「もう10何年もやってきたら、そんなことぐらいで動じないメンタルを持ち合わせてるやろ。
そんなことを理由にしてたらアカンわ」
「メンタル強いのかな、ぼく…。あんまり緊張するほうではないですけど…」
「いや、緊張してないと自分では思ってるやろけど、それは覇気がないねん。
緊張するというのは、その場で何かをしようとするから緊張するんや。
例えば何かのセレモニーで舞台に上げられたとき、場をなごまそうとか自分をアピールしようとか思うからこそ、
ちゃんと出来るかなと思って緊張する。
何もする意思がなくて、ただその場に呼ばれて何もしないですむなら誰だって緊張なんかしない。
自分はこうするんだというものをまず持つことが大事なんや。そのとき、おのずと緊張してしまう。
その緊張のなかでちゃんとしたパフォーマンスが出来るようになっていく。
真吾はそういう試練をつくってないんやと思う。だから、数字にこだわることにしてもそうやし、
人前に立ったときでも『何を言うてええのか分からへん』じゃなくて、自分というものを
しっかり持っていたら喋ることも出てくるし、それに対して緊張もきっと湧いてくる。
そういうところから真吾はどこか逃げてきたように思うなぁ」
「そうかぁ…。いあや、いままでそういうこと言うてくれる人がいなかったですからね」
説教を垂れる竹之上アナと素直に耳を傾ける真吾。その図がほほえましくあり、ユーモラスでもある。
取材する側がこれほど一方的に喋るインタビューも珍しい。まるで自己啓発セミナーだ。
「今後は数字にこだわっていくというのが一つの課題やし、緊張しないというのは
何も考えてなかったというだけのことやからな。
真吾ぐらいの技量があって体力があるんやったら、もっと成績を伸ばしてほしい思う」
「技量も体力もありますか?」
「なかったら100勝超えを3年もつづけられへんで。
これからはさらに体力を鍛えて『おお、真吾変わったな』と、まわりに思わせるようなレースを見せなアカン。
真吾のことはデビューの頃から見てるし、可愛いヤツやし。もっと飛躍してほしいと思うから。
あんまり過度な期待をかけたら酷かなと思ってたけど、ここまで来ると、もう押し付けんとアカンて感じてきた。
ええ加減変わらなアカンときや。いろいろ言うたけど、真吾、分かってるか!?」(笑)
大山真吾をこのまま終わらせたくない、という竹之上アナの親ごころ。果たして思いは届いたか。
今年は通算1000勝を達成するメモリアルの年になる。
それを機に、新しい大山真吾を、表現者として生まれ変わる真吾の未来形を示してほしいものだ。
文:大山健輔
写真:斎藤寿一