競馬に対する意識変革に影響を与え、成長を後押しした陰の功労者として、
山田は吉村智洋騎手の名を挙げた。
「意識を変えるきっかけを与えてくれたのが、吉村さんです。ぼくの目標であり、
仕事の面でもすごく尊敬しています」と最上級のリスペクトを口にする。
ある馬に山田騎手が騎乗して勝利したとき、吉村から声をかけられた。
「『まぁ、勝ったときやから素直にオメデトウって言うたけど、
あれ、どこが悪かったかわかるか?』って言われて、
『3コーナーから飛ばしすぎましたね』と言ったら、
『そうや、勝ったのはええけど見栄えが悪い』ってはっきり言ってくれた。
そう言ってくれる人は、たぶんホンマにぼくのことを思ってくれているんやと思ったんです」
身近に吉村のような熱く、ストイックな騎手がいることで、山田はいい刺激を受けている。
「吉村さんと競馬の話をくりかえしするうちに、自分の意識が変わっていったと思っています。
勝っても勉強、負けても勉強、それを教えてもらっていますね」
吉村からのアドバイスもあって、最近は「調教が大事」という意識が芽生えてきた。
ただ漫然と義務的に乗るではなく、走らせながら、馬の個性を探りながら、考えて乗るようになった。
馬の特徴を引き出す訓練、つまり「考える調教」を身につけはじめたということだろう。
競馬を深く考えるようになった現在なら、将来のイメージを思い描けるのではいか。
「そうですね、とりあえず今年はベスト10に入れるようになりたい。
課題は騎乗数をふやすこと」だと言う。
自厩舎の馬であれ他厩舎の馬であれ、これまでは叱られないように
乗ろうと思って終わっていたのが、いまはちゃんとアピールできる
意欲的な騎乗に変わってきているところに彼の成長を感じる。
ただ、けっして騎乗機会に恵まれているとはいえない現在の状況を本人は歯がゆく思っている。
やる気に満ちた彼を見ていると、その点が残念で仕方がない。
将来的にはポストトップ3の一番手、二番手あたりに自分の居場所を確保しておきたい、と目標を定めている。
吉村、大山、竹村、後輩の杉浦、田野、鴨宮とライバルは多いが
「5年以内にはトップ5入りを」と意欲的だ。
「トップ3が辞めたときに、すぐ下のランクにいる騎手。その位置にいて、
結果をだして、乗り馬をどんどんふやしていきたいですね。
今年はじめて準メインのレースで表彰台に上がれたので、ちょっとは成長したかなと
自分なりには思っています」と一段階ランクアップした自己を評価する。
自分の性格を〈目立ちたがり屋の恥ずかしがり〉と形容する山田は、準メインの表彰台に立ち
テレビ画面に自分の顔が大映しになったことが、やはりうれしいのである。
騎手にとって自己顕示欲は大事な武器だ。
24歳独身。結婚はまだ早い、と言いきる。「自分のランクが確立するまでしたくないのです。
そうじゃないと集中できない」ときっぱり。その意欲やよし。
いま、山田に必要なのは勝ちグセを付けていくことではないだろうか。
その積み重ねが確固たる自信につながっていくにちがいない。
伸びざかりのこの時期に自ら意識改革につとめ、考える力を蓄え、
競馬をより深くとらえる努力をつづける山田雄大騎手。
その表情からは未来の扉を自分でこじ開ける意欲と熱意が感じ取れ、話を聞いていて痛快な気分になった。
目標とする5年後、トップ5入りを果たした彼の雄姿を園田のダートで頼もしく眺めたいものだ。
文:大山健輔
写真:斎藤寿一