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クローズアップ ホースマン達の勝負に懸ける熱き想い
大柿騎手インタビュー01高松さん、2016年の俺を見てくれ!

ケガにも負けず、悔しさにも負けず、持ち前のポジティヴ精神で活路を切り拓く。

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    大柿 一真プロフィール

 

1年に二度の落馬骨折、苦境の先に見えたもの。

 取材前、緊張をほぐす意味で「いつもどおり、気楽に…」と声をかけると――
「テキトーじゃないですか、いつものぼくやったら…」そう言って、大柿はケラケラ笑った。
テキトーにされては困るのだが。そんなふうに照れ笑いで茶化すところをみると、
彼自身「マジメに自分を語る」のが苦手なのだろう。自分のマジメな部分を晒すのが恥ずかしい、
ぼくの柄じゃない、そう言いたげだ。
そういう意味では幼さが残る25歳なのだが、明るく、屈託のない青年というのが率直な印象である。
その屈託のなさが、良くも悪くも大柿一真の競馬にあらわれているのではないか。

 

 デビューした年(2008年)に、16勝だった勝ち鞍が、翌年には51勝(ランキング12位)をマークしている。
デビュー当初はどの騎手も怖いもの知らずで、ただガムシャラに突っ走る。
その結果が2年目の51勝に結びついた。「2年目に入ってすぐ減量もとれて、
その年の成績が悪かったら『やっぱり減量があったからや』って言われる。
だから頑張れたんやと思います」。3年目が23勝、4年目29勝と低迷したのは、
徐々に競馬のむずかしさがわかってきて、ガムシャラ感が失速したせいだろう。
そういう気分を払しょくするために大柿は南関東へのチャレンジを志すわけだが、
武者修行に出かける直前、不運が彼を襲う。2012年5月、レース中の落馬で足を骨折。
4ヶ月間のリタイア。その後、復帰して3ヶ月後にまたしても落馬骨折。
こんどは腰椎を損傷し、騎手生命が危ぶまれるほどの大ケガを負う。
誕生したばかりの長男の成長を見ることもかなわず、2ヶ月間をすごした。
無事に手術は成功したものの治療とリハビリを経て復帰できたのは翌年の9月だった。
結局1年3ヶ月ほどを棒にふった。

 

 1年に二度の大ケガはキツかっただろうと想像するが、本人はいたってポジティヴに受け止めている。
「手術が成功したと聞いてからは、もうヘコまなかった。あまり深刻に考えるタイプじゃないから」。
そのあたりは屈託のなさがプラスに作用している。
自分を取り巻く状況が悪くても深刻に考えないのは彼の生来の明るさ、楽天的な気質によるものだ。
一方、ケガの影響が成績にひびいたのは当然のことで、復帰してからの2年間はともに15勝どまり。
苦境からぬけだす手がかりを見つけられずにいた。

 

 「ぼくのなかでは2年目の51勝という数字がすごく大きかった。
デビュー2年目ですぐにバーンと勝たせてもらって。だから、まわりの騎手たちや勝ち鞍の
プレッシャーよりも、自分は2年目であれだけ勝てたのにいまそれができないという
悔しさとジレンマがずっとあって、自分自身を追い込んでた。
あのとき51勝できたのになんでうまいこといかへんねんやろと。ずっとそれを考えてましたね」

 

 そんなモヤモヤ感を吹きとばすきっかけになったのは、ある騎手との出会いだった。

高松亮騎手との出会いが上昇機運の引き金に…。

 取材したのは昨年(2015年)の12月3日だった。その時点で勝ち鞍は42勝。
夏以降、大柿は順調に数字を伸ばし、それまでの不調が嘘のように40勝を超えるまで勝ち鞍を押し上げていた。
あと残り10日ほどの開催で、51勝をクリアできるか(この項が読者の目にふれる頃にはすでに結果は出ているが、
取材時はわからない)微妙な時期であった。
好調に転じた要因として2015年の1月~2月に期間限定でやってきた
岩手競馬の高松亮騎手(2015年岩手リーディング4位)の存在が大きかった、と大柿は言う。

 

 ケガで遠征チャンスを失い、モヤモヤ感を抱えていた日々。
風穴をあけるきっかけになったのが高松騎手との出会いだった。

 

 「高松さんのレースに向けての準備とかレースに対する想いとか、
見たり聞いたりしてて、すごい刺激を受けました。具体的にアドバイスされたわけではないんですけど、
ふつうに話をしてて伝わってくるものがぼくの心に残ってます」。
高松騎手とはその後もLINEでやりとりがつづき、交流を重ねるなかで「ぼくももっと頑張れる、
と思えるようになったんです」

 

 高松騎手との交流が大柿に勇気をあたえた。高松騎手の競馬に対する姿勢に触発され、
大柿がはじめたのは木馬の練習だった。それにしても、なぜ木馬なのか。

 

 「姿勢の確認ですね。基本に返りたかったんです。実際に高松さんがそれをやってたわけじゃなくて、
ほかに誰もやってないこと、しかも大事な基本的な運動。筋トレやっても三日坊主でやめてしまうタイプなんで、
人と違うことをやらんとつづかんかなと思ったんです」

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