その金ナイター/なぜかよく勝つ/シモハラオサム
標語のような語呂のよさだが、ナイター競馬開催日は実際、調子がいい。彼を取材したのは5月22日ナイター初日で、
この日3勝し、今年も順調なスタートを切った。
その金ナイターは4年目に入ったが、昨年こそケガで戦列を離れていて結果を残せなかったが、
そのほかはつねに上位を占め、なかでも2013年は46勝(メインレース7勝、最終レース9勝)を挙げ
川原正一騎手に次ぐ2位の好成績だった。ナイターを制する何か攻略法があるのだろうか。
「とくに意識することはないですけど…」と前置きして「ただ、ナイターの日は朝から乗るときより体が柔らかいような
気がします。それに、気分的に楽なんです」と言う。彼のような西脇所属の騎手は、午前中からレースのある日は忙しい。
園田に着くなりすぐ風呂に入り、1レース目から騎乗する場合は慌てて用意しなければならない。
その点、ナイターは時間に余裕があり、気分的に楽なのだ。それともう一点、ナイターの雰囲気に流されず冷静に乗ることが
肝要なのだという。
「もう4年目なので最初の頃はみんなテンに行きたがるところがあったと思う。お客さんの声援が多いから、
どうしてもいいところを見せようとしてますよね。
ナイターが始まった当初は多分。前つぶれのレースが結構多かったと思います。ぼくはあえてその流れに乗らないように
しました。あぁ、ナイターってこんなふうになるんや、とはじめの頃に気がつきましたから」
ナイターが始まると、騎手たちはどうしても気持ちがはいる。必要以上に意気込む傾向が強い。
そうした精神面の高揚を逆手にとって冷静に闘う。これがナイター攻略法といえるのだろう。
ナイター競馬に限らず、観客席が賑わっている日に下原は強い。そんなイメージがある。
重賞勝ち鞍36勝(地元27勝、地方他地区9勝)を挙げているのは一つの証左といえる。
チャンストウライ、ベストタイザン、カラテチョップ、最近ではエプソムアーロン(高知所属)、
そしてオオエライジン……重賞レースを複数回勝てる馬に騎乗するチャンスに彼は恵まれている。
「重賞のときは、落ち着いて乗りたいというモードに持っていくよう頑張りますね。
前の日に枠順を見ますけど、どの馬が何番手で行くかとか決めつけずに乗るようにしてます。
あとはもう、いかに緊張しないように持っていくか。ゲート裏に行ったときには気持ちをゼロにします」
デビューして12年目の2006年、下原ははじめて年間100勝超え(119勝)を達成した。
以後、左肩脱臼骨折で3ヶ月休んだ2012年(89勝)を除いては、つねに100勝ラインをクリアしつづけ、
ランキングも4位を定位置に順位を落とすことなく現在まで9年間つづいている。
100勝超えを果たした2006年はリーディングの岩田康誠騎手がJRAに移籍した翌年で
「岩田さんが抜けてチャンスをまわしてもらえたというのは大きな要因だった」と言う。
「まわりの厩舎のバックアップが大きいと思います。たしかに勝っていないと乗せてもらえないんですけど、
有難いことにいい馬に乗せてもらえて…。
ケガして復帰した直後でも、すぐその日に勝てるような馬に乗せてもらってましたし、有難いことです」
上位の騎手が抜けてまわってきたチャンスを確実に自分のものにし、各厩舎からの信頼を勝ち取ったのはまぎれもなく
下原理の実力である。ポテンシャルが開花した2006年は、彼にとってのターニングポイントだった。
そうして、そこには技術力もさることながら、彼の実直な人柄と感謝の気持ちを忘れない謙虚さ、律儀な態度、
生き方というものが大いに作用しているように思われる。
ほのぼのとした、あったかみのある話っぷりから彼の人間性が伝わってくるのである。下原理は、折り目正しい男である。
スターホース級の馬をこれまで数多く騎乗してきた下原が、とくに印象深い1頭として挙げたのがチャンストウライ。
重賞7勝をともに勝ち獲ったベストパートナーだ。
重賞勝利数でいえば地元3勝、東海地区で6勝したベストタイザンの派手さが目立つが、
入厩時から手塩にかけて育てたチャンストウライには特別な思いがあるようだ。
「はじめの頃はあの馬、まともに廻れなかったですよ。言うことを全然聞かないですから。
でも、廻るようになったらケタちがいに走るからびっくりしました」
あの当時の強豪馬チャンストウライ、ベストタイザン、アルドラゴンの3頭とも騎乗した経験がるのは下原だけだ。