2025 のじぎく賞 レポート
2025年05月22日(木)
地方競馬において牝馬競走の振興や入厩促進を図るために創設されたグランダム・ジャパンは2025年で16年目。グランダム・ジャパン2025 3歳シーズンの第6戦として「のじぎく賞」が今年も地方競馬全国交流の重賞競走として園田競馬場1700mを舞台に行われた。
2025年の3歳牝馬はどの地域でも中心となるような馬が不在で、このシリーズにおいても複数勝利を挙げた馬はおらず混線ムード。南関東の各地域から1頭ずつの計4頭、名古屋から1頭、地元兵庫所属の馬が7頭、フルゲート12頭がエントリーした。

混線ムードが漂う中で単勝1番人気となったのは浦和のエスカティアで2.1倍。
デビューの地門別でフローラルカップ2着、ブロッサムカップ3着という重賞成績もさることながら、浦和・小久保智厩舎へ転入後も準重賞’25アヴニール賞を勝って牡馬相手の東京湾カップでも3着に粘りここに駒を進めてきた。そして鞍上には心強いパートナー、兵庫においても実績抜群の金沢・吉原寛人騎手を迎えその点も評価されたものと思われる。
2番人気には愛知から参戦のコパノエミリアで単勝4.0倍。
この馬も競走馬としてのデビューの地は北海道であった。ブロッサムカップ2着にフローラルカップ3着とエスカティアと肉薄し、笠松のラブミーチャン記念3着後に笠松へ。ライデンリーダー記念で3着となった後にJRAへ転出するも結果が出ず、2走前から名古屋の宇都英樹厩舎のもとへ。その初戦、重賞の東海クイーンカップを制すると、牡馬相手の駿蹄賞も不利がありながら3着と好走し、ここへの臨戦となった。鞍上には地元兵庫の吉村智洋騎手。これまで直線は外から伸びてくるイメージの強いこの馬を2番枠からどうさばいてくるのか注目が集まった。
3番人気は大井競馬から参戦のフリーダムで5.1倍。前走の留守杯日高賞を制してグランダム・ジャパンのポイントを15点持っており、鞍上には高知の赤岡修次騎手を配してきた。いかにも本気度が窺える参戦で小回りでも先行できることが大きな武器となりそうだ。
4番人気は単勝5.5倍で西脇・田村彰啓厩舎所属、地元のオモチチャン。前走、佐賀のル・プランタン賞で強敵である高知のドライブアウェイを競り落として重賞初制覇。遠方への長距離輸送や距離延長など初物尽くしの中で大きな成果を上げ、デビュー以来7戦すべて馬券圏内をはずさない安定味も買われた。
以降は単勝10倍を越えて船橋のリヴェルベロが24.4倍、地元のウイングスオールが27.0倍、川崎のハナノウタゲが41.4倍で続いた。単勝オッズとしてはやや開きがあったが伏兵陣も虎視眈々と上位を狙える布陣で「のじぎく賞」のファンファーレを待った。
出走馬












レース

スタート

1周目3~4コーナー

1周目スタンド前①

1周目スタンド前②

1周目スタンド前③

2コーナー~向正面

2周目3コーナー手前

2周目3~4コーナー

4コーナー~最後の直線

最後の直線①

最後の直線②

最後の直線③

ゴールイン
前日夜から当日朝まで雨が降ったこともあり、当日は1レースから馬場状態「稍重」でレースが進んでいた。のじぎく賞スタートの時間帯は天候の発表は曇りながらも、ときおり強く吹く突風が雲を動かし太陽も顔を覗かせていた。向正面で枠入りが進み、いよいよゲートが開く。
きれいに揃ったスタートからまず飛び出したのは浦和のエスカティア。先行経験もあるこの馬が二の脚のダッシュも効かせて先頭に出て最初の3コーナーを迎えた。これに半馬身まで迫ってきたのが船橋のリヴェルベロ。しかし先頭に並びかけるところまでで折り合いに専念。3番手の外側には大井のフリーダムが今日も先行。そして3番手の内側には1番枠から発馬したレイナボニータの姿があった。前から5頭目、好位のすぐ後ろのポジションをとったのがコパノエミリア。兵庫期待のオモチチャンは少し砂を被るのを嫌がったか少し外に膨れ加減で1周目の3、4コーナーを回る。中団の内に重賞初挑戦のツキムスビ。後方グループはほぼ一団となって、川崎のハナノウタゲ、ウイングスオール、チョッパスニーが並走、1列後ろフセノオーロラ、レイチェルペガサスが追走して正面スタンド前を通過していった。
馬群の全長は正面スタンド前に入る頃は10馬身ちょっとだったが、先行集団がややペースを上げたのか1コーナーへ入る頃には15馬身近くにやや拡がっていった。南関東勢の3頭が先団を固め、レイナボニータ、コパノエミリアが続く形で向正面へ。逃げるエスカティアは軽快にラップを刻む中、フリーダムとレイナボニータが前の集団から後退し始める。オモチチャンも必死に前を追いかけようとするが前走のル・プランタン賞で見せたような伸びやかさがない。後方集団も一気にばらけていく。
3、4コーナーに入って浦和のエスカティアが盤石のリードを保つかと思われたその後ろからついてくる馬がただ一頭。愛知のコパノエミリアだ。吉村騎手のゴーサインに合わせて内からスルスルと進出、もう先頭の座を奪いそうな勢いで4コーナーを回る。この2頭が後続に大きな差をつけて直線に入った。
あと200メートルの標識を過ぎて逃げるエスカティアの離れた外、馬場のど真ん中を通ってコパノエミリアは吉村智洋騎手の叱咤激励に応えて独走態勢を築く。あっという間に差を拡げ8馬身差で優勝のゴールポストへ飛び込んだ。実況としては「快勝」という言葉が咄嗟に出てきたものだが、いや「圧勝」や「楽勝」などという表現の方が適切であったかもしれない。いや、これほどまでに強いのか… 度肝を抜かれる勝利であった。
逃げた浦和のエスカティアはコパノエミリアには捕らえられたものの、それ以上追い込み馬に屈することはなかった。3着馬には7馬身差をつける2着をキープした。今回ばかりは相手が悪かったということであろう。グランダム・ジャパンにおいては9ポイントを獲得して地元へ戻ることになる。
そして大混戦となった3着争いは後方から最後の直線で大外を回った地元組が台頭、単勝9番人気フセノオーロラと、単勝オッズは実に566.0倍で12番人気だったチョッパスニーが脚を伸ばし鼻面を揃えてゴールを通過し、写真判定の末、3着は同着となった。常に相手なりに走って今回外枠ながら道中内側を突いて立ち回ってきたウイングスオールが5着、そのあと「砂を被るのがイヤだったのか、最初のコーナーからすでに嫌気をさして走っているようなところがあった」と永井騎手がレース後に語っていたオモチチャンは6着に敗れ、重賞連勝の夢が今回に関しては儚くしぼんだ。

◆コパノエミリアは重賞2勝目
門別、笠松、JRA、名古屋と渡り歩いてきたコパノエミリアは名古屋に転入初戦の東海クイーンカップを制し、牡馬相手の駿蹄賞で3着となった後にのじぎく賞を制覇し重賞2勝目。これで名古屋へ移ってきてからは3戦2勝となった。
獲得タイトル
2025 東海クイーンカップ(名古屋)
2025 のじぎく賞


◆吉村智洋騎手は節目となる重賞50勝目(今年初勝利)。
怪我から復帰後初の重賞優勝となった。のじぎく賞は2018年(トゥリパ)、2023年(スマイルミーシャ)で勝っており、3度目の制覇。
◆宇都英樹厩舎は重賞11勝目(今年3勝目)。
東海三冠馬フークピグマリオンで重賞9勝を果たしているが、この春コパノエミリアにより重賞2勝目を積み重ねた。園田での重賞は初制覇。
◆吉村智洋騎手 優勝インタビュー◆
(そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)
「正直に言えば地元の馬に乗って勝つのが一番いいんでしょうけど…」と前置きした上で「僕は任された仕事、しっかり勝たすということが自分の使命だと思っているので、今日はそれを全うできてよかった」と吉村智洋騎手。乗り慣れない他地区の所属馬でも園田を知り尽くした剛腕は落ち着いた様子で語った。
追い込む競馬や直線は外から伸びてくる印象もあるコパノエミリア、しかし今回はフルゲートの1周半する競馬で内枠に当たった。
「名古屋に比べると園田は直線も短いし小回りだから、ある程度の位置につけていないと差し遅れてしまうということを頭に入れて、あの位置を取りにいきました」と、好位の直後というポジショニングはレースプランにあったようだ。
「手応えは本当によかった。久々の感触でこれは直線突き放すなという手応えはありました」と満足した表情で話してくれた。
逃げたエスカティアを捕らえることができたのはこの馬だけ。そして最後は8馬身という決定的な差をつけている。このコパノエミリアが2着馬につけた「8馬身差」は2007年にエンタノメガミが記録した「6馬身差」を上回る、サラ導入後「のじぎく賞」の最大着差となる歴史的圧勝となった。
「牝馬ではあるけど、非常におとなしくてしっかりと調教されているという感じが出ていた。操縦性はかなり良いので距離に関してはもっと長くても大丈夫だと思う。今日も前付けをすることができて新たな引き出しを作れたのでこれからもどんどん伸びていく馬だと思います」
伸びしろもまだまだありそうだ。

吉村智洋騎手はこの勝利で重賞は節目の50勝。今年初の重賞制覇であり、昨年の大晦日に落馬負傷して今年3月25日に戦線復帰してからは初めての重賞制覇となった。息子の吉村誠之助(JRA)はこの春大躍進で重賞2勝を挙げている。「自分のことよりも誠之助のことの方が嬉しい」と話されてはいるが、その剛腕に陰りがないのは復帰後の様子を見ている身としては明らかである。
前の週に開幕したその金ナイター初日で当地での連勝を決めたコパカツ、2日後の日曜日佐賀スプリングカップで勝利を収めたビキニボーイに続き、勝負運の風が吹き続いている小林祥晃オーナーの黄色と赤の勝負服がますます照り輝いて見えた。

総評

「小回りがどうかなぁ、コーナーで置いていかれないかと危惧していたけど吉村騎手が上手に乗ってくれた。思った以上の走りだった。私はゲートに行っていたのでチラッと見えるようになったのは最後の直線半ばだったけどエライ離れているなと驚いた」と目を細めていた。
「極端にペースが上がらなければ距離は長くても対応はできると思っている。これからオーナーさんとも相談しますが関東オークスの予備登録は済んでいます」と見通しは明るい。

今回同じく出走していた大井のフリーダムが16ポイントで次位、兵庫のオモチチャンが15ポイントで続いている。最終の第7戦は6月18日(水)に川崎で行われるダートグレード競走、関東オークス。JRA所属馬も出走してくるレースではあるが地方馬としての最先着だけでも15ポイントが加算されるだけにシリーズ優勝を決める意味でも大きな注目を集める一戦となる。
「のじぎく賞」の歴史としては名古屋所属馬は2勝目となったが昨年のニジイロハーピーに続いての2年連続勝利となった。
そして馬券という意味では今年は3着に最低人気馬が飛び込み3着同着でありながら複勝が4,000円を超える大波乱となった。ときおり高配当が演出される「のじぎく賞」、これからも馬券圏内に飛び込む穴馬を探す予想の一工夫が必要になりそうである。
文:井関隼
写真:齋藤寿一