2025 六甲盃 レポート
2025年06月05日(木)
兵庫県競馬の春シーズンを締めくくる重賞という位置づけとなった「六甲盃」。かつては地方でも稀有な2400mで行われる長距離重賞だったが、3月から6月への開催時期変更に続き、昨年から1870mへと距離が短縮。これにより、春の中距離王決定戦としての性格が色濃くなった。
今年も全国交流として行われ、船橋から2頭、大井から1頭の計3頭の遠征馬が参戦。重賞ホースも6頭出走するなど、実力拮抗のメンバーが揃った。

1番人気は、単勝2.1倍でゴールドレガシー(大井)。
元JRAオープン馬で、大井転入後はA2クラスで好走を続けて、着実に地力を蓄えてきた。そして前走、川崎の“幸オープン”で完勝し、ついに地方オープン初勝利を挙げた。今回7歳にして重賞初挑戦。鞍上には金沢の名手・吉原寛人を迎えて、勝負気配も十分。前走の勝ちっぷりと安定感が評価され、堂々の1番人気に推された。
2番人気は、単勝3.3倍でマルカイグアス。
昨年の兵庫クラシック二冠馬で、古馬との初対決となった園田金盃でも勝利。堂々と中距離戦線の主役に名乗りを挙げた。ただ、調整が難しかった冬場の新春賞、白鷺賞と連敗。4歳となってからまだ勝てていない中、リフレッシュ放牧に出された。今回は4ヶ月の休養明けで迎える春の中距離王者決定戦。今回は正念場の一戦となる。
3番人気は、単勝6.8倍でメイショウハクサン。
A1クラスで長く上位争いを続けている堅実派。昨年の六甲盃は前哨戦で並み居る強豪を破ったため期待されたが、結果は9着。それ以降も重賞では苦戦が続く。しかし、前走で-25kgと大幅馬体減が奏功して勝利。馬群でもまれる展開の中で勝ち切り、内容面でも大きな収穫となった。昨年同様にトライアル快勝から本番に臨む今年こそ、無念を晴らせるか。
4番人気は、単勝9.2倍でラッキードリーム。
昨年の六甲盃優勝馬でここまで重賞12勝と実績は抜群。ただ、前走の大井からの復帰初戦が3着と案外な内容に終わってしまった。好調時と比べて息遣いがもう一つ良くなってこない点に、戦前は陣営も不安の色を隠せなかった。強めの追い切りで負荷をかけてどのくらい状態が上向くかがカギとなった。
さらに、2023年の新春賞馬で、近走復調してきたアキュートガールが5番人気(単勝13.6倍)、昨年のイヌワシ賞(金沢)をレコードで圧勝したヒロイックテイル(船橋)が6番人気(22.5倍)で続いた。
出走馬












レース













ゴールイン
馬場状態は週初めの雨の影響が残り、稍重の発表。気温は30℃を超え、強い日差しが照り付ける初夏の陽気の中、六甲盃のスタートが切られた。
まず主導権を握ったのは、アキュートガール。外からサンライズホープが並びかけると、一列後ろの内にテーオーターナー、外にはラッキードリームが並び、中央にいたマルカイグアスは少し下げて5番手を取った。
その外にヒロイックテイルが並びかけ、ツムタイザンは中団のインコース。メイショウハクサンが馬群の中にいて、その後ろからフラフ。後方からノットリグレット、ゴールドレガシー、ベストオブラックの3頭が続き、全馬が折り合いをつけながらスタンド前を通過していった。
馬群全長10馬身程度で向正面へ入ると、各馬がペースアップ。
3コーナー手前で逃げるアキュートガールをサンライズホープが捉えて先頭がチェンジ。しかし、向正面半ばで鞭が入り加速したマルカイグアスがラストスパートをかけると、残り400m地点ではもう先頭の外に並び、そのまま抜け出す。
その後ろは3馬身離れて、テーオーターナー、ラッキードリーム、メイショウハクサンが3番手集団を形成しながら前を追う。人気のゴールドレガシーはようやく中団。さらに大外へノットリグレットが持ち出されて、各馬が直線へ向いた。
直線に入るところで既に3馬身のリードを取っていたマルカイグアスが、直線では独壇場。4頭が横に広がった2着争いを尻目に、最後は後続を9馬身ちぎって優勝し、重賞5勝目を挙げた。
2着は、大外から一気に伸びたノットリグレット。そして、最後に馬群の間から急伸したベストオブラックが3着に食い込んだ。前でレースを進め、直線でもしぶとく粘ったサンライズホープが4着、テーオーターナーは5着だった。2着争いは最終的に、クビ・クビ・アタマ差の接戦となった。
重賞2度目の挑戦だったフラフは、新春賞に続いて今回も6着。連覇を狙ったラッキードリームは、好位追走から伸び切れず7着。向正面で早めスパートから一旦は前に迫ろうとしたメイショウハクサンだったが、伸びを欠いて8着。後方追走となった1番人気のゴールドレガシーは、見せ場を作れず9着に敗れた。

◆マルカイグアスはこれで13戦6勝となり、重賞5勝目。獲得賞金は9655万0000円となり、大台の1億円が見えてきた。
今回2着につけた9馬身差は、2009年マイエンブレムが記録した8馬身差を上回る同レース最大着差(サラブレッド導入後)となった。
獲得タイトル
2023 園田ジュニアカップ
2024 兵庫優駿、園田オータムトロフィー、園田金盃
2025 六甲盃


◆鴨宮祥行騎手は重賞通算11勝目。オーストラリアでの修行から戻ってきて初めての重賞制覇となった。六甲盃は初制覇。
◆橋本忠明厩舎は重賞通算46勝目。六甲盃は2022年のジンギでの勝利に続く2勝目。これで11年連続重賞制覇となり、父の忠男師を抜いて連続重賞勝利記録の歴代4位に。
<調教師 連続重賞勝利記録>
1.田中範雄 2007-2019年 13年連続
1.新子雅司 2013-2025年 13年連続 継続中
3.曾和直榮 1998-2009年 12年連続
4.橋本忠明 2015-2025年 11年連続 継続中 ←New!
5.橋本忠男 2008-2017年 10年連続
◆鴨宮祥行騎手 優勝インタビュー◆
(そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)

半年ぶりのコンビ復活となったマルカイグアスと鴨宮祥行騎手が、9馬身差という抜群のパフォーマンスを披露し、春の中距離王に輝いた。
「また強いマルカイグアスを皆さんに見せられて良かったです!」と鴨宮騎手は笑顔。
牧場から戻ってきてすぐはピリッとしていないところがあったそうだが、「最終追い切りを併せ馬で消化したことで気合が入ったので大丈夫かなと思いました」と自信を持ってレースに臨んでいた。

「いつもよりは内枠でしたので、まずはスタートだけは遅れないように。2番手の後ろが最高のポジションかなと思って乗っていました」との言葉の通り、好スタートを決めると少し気合をつけて前へ。想定通りの位置を取ることに成功した。
道中は流れの中で5番手に控え、馬群に囲まれる形に。
「スタンド前や向正面で他の馬が動くかなと思っていて、それならその後ろで(ついて行っても)良いかなと思っていたんですが、動く雰囲気がなかったので理さん(下原騎手/ラッキードリーム)の外に切り替えてスパートしていこうと思いました」と向正面では自ら外に進路を見つけて動いた。
「反応は最高でした」と話した通り、一気に3コーナーで先頭の外に並びかけるとそこからはもう独壇場。最後は9馬身差というサラブレッド導入後の六甲盃最大着差での勝利を演じた。

4ヶ月にわたるオーストラリアでの武者修行中、新春賞と白鷺賞の2戦は騎乗が叶わず。
「オーストラリアから帰ってきて、またマルカイグアスに乗せてもらえて本当に感謝です。手応えがすごく気持ちの良い馬なので、レースを見ていて乗りたいなと思っていました」とコンビ復活を喜んだ。
「今日みたいに馬群の中でもしっかり競馬ができます。(背が)大きくなったというのは厩務員さんとも話していて、その分トモ(後肢)もしっかりしてきたので、まだまだ良くなると思います。他場に行ってもう少し揉まれた時に自分の競馬ができない時にどれだけ動けるかだと思いますが、現状はそういうことを考えずに自分のレースをしていきたいです」
昨年の二冠馬にしてグランプリホース。栗毛の馬体が輝きを取り戻した。
「去年も現役最強だと思ってやってきました」と話したが、その言葉が偽りではなかったことを改めて証明して見せた。
復活した名コンビの今後がさらに楽しみになった。

総評

牧場から戻ってくると、背が伸びて馬体重も20kgくらい増えていたというが、レース時にはきっちりそこから絞れて前走比-7kg。園田金盃の時と同じ518kgでの出走だった。
レースについては、「向正面から捌けたら良いなと思っていたんですが、スムーズに出てこられたので良かったです。4コーナー先頭でも我慢してほしいなと思っていましたが、強かったですね」と話した。

馬場や距離の適正については、「3~4コーナーを器用に回ってくるので小回りもいいですけど、大きい馬場の方が合うんじゃないかなという感じはあります。左回りはやってみないと分かりません。スタミナはあるので、距離はもうちょっと長くてもいいと思うし、2000m超えても対応できると思います」と話した。
次走については未定とのこと。もともと秋には姫山菊花賞や園田金盃へというローテーションを漠然と考えていたというが、「これだけ強かったらまた考えも変わりますよね。今後はもちろん外(他地区)も含めて考えます。やっぱり調子の良い時に挑戦したいですね。そこで勝負できるんなら、またその上も目指していきたいと思います」と、ダートグレードを含めた他地区への遠征が視野に入ってきた。
今後9月までの古馬中距離のダートグレード(G3/Jpn3)となると、
・7/21(祝月) マーキュリーカップ(Jpn3 盛岡2000m)
・8/9(土) エルムステークス (G3 札幌1700m)
・9/27(土) シリウスステークス (G3 阪神2000m)
・9/30(火) 白山大賞典 (Jpn3 金沢2100m)
この4レースがあるが、取材の中では白山大賞典の名前が挙がっていた。
どこを目指すかはこれから思案することになるが、より強い相手を求めて外へ出ていくことは確実だ。
近年はイグナイターなどの活躍により、兵庫勢によるダートグレード制覇が毎年のように見られるようになってきたが、“兵庫生え抜き馬”の優勝となると、2008年の佐賀記念を制したチャンストウライ以来、実に17年ぶりとなる。
橋本忠明調教師にとって、生え抜き馬によるダートグレード制覇は長年の悲願。
父・橋本忠男調教師のもとで調教師補佐を務めていた頃には、名馬オオエライジンに携わり、
その後、自身の厩舎を代表する存在となったジンギを育て上げたが、いずれもあと一歩届かなかった。
今度こそ、この馬で――。
その背に夢を乗せて、マルカイグアスは走り続ける。
次なる戦場に、熱視線が注がれる。
文:三宅きみひと
写真:齋藤寿一