腕達者揃いの兵庫県競馬。
これまで多くの若手騎手がトップジョッキーの壁に
跳ね返されてきた。
猛者達と同じ斤量で戦うとなると一筋縄ではいかない。
石堂騎手も一般騎手の壁にぶち当たると
騎乗数も勝ち星が減少していった。
苦しい時期に声を掛けてくれたのは同期の落合玄太騎手だった。
「4月末ぐらいに期間限定の話を頂きました。
長南先生と相談して決まりました。
騎手人生の分岐点を作ってくれた田中淳司先生、
同期の玄太に感謝しています。」
6月17日の園田開催を終えると、
すぐに北海道へ旅立った。
「遠征の許可が下りたので早めに北海道入りしました。
期間限定が始まる前の週から調教に乗らせて頂きました。
西脇は馬場での追切りが中心ですが、
門別の調教は基本坂路。
馬場で乗る事は少なかったですね。」
馬産地にあるホッカイドウ競馬は全国で
最も早く新馬戦が組まれる。
4月から始まる2歳戦に向け、
あどけない表情をみせる仔馬に競馬を教える。
馬によっても癖が異なり、扱いが大変な馬も多い。
2歳馬は人間の年齢でいうと13歳ぐらい。
思春期に入るお年頃だ。
兵庫や他地区の場合は、2歳馬がある程度
競馬を覚えた状態で転入してくるが、
北海道では一から競走馬を育成する。
「何をするか分からない馬が多く、
道営の調教は想像を絶するくらい大変でした。
自分がいかに楽していたのかが分かりましたね(笑)。
非開催日にはセリや牧場に行かせて頂き、
馬の扱いが上手い道営のライダーさんを間近で見て
勉強させて頂きました。」
期間限定中に所属したのは桧森邦夫厩舎。
結果に関係なく温かく見守ってくれた。
「桧森先生は日本一優しい調教師さんです。
騎手を信頼して下さりレースで怒られた事もなかったです。
仏様のような方でした。」
桧森厩舎での仕事が終わると他厩舎の手伝いに向かう。
田中淳司厩舎、安田武広厩舎、米川昇厩舎、
佐久間雅貴厩舎、森山雄大厩舎など自ら厩舎に出向いた。
その積極的な姿勢が評価され有力馬の騎乗依頼が入る。
8月終了時点では3勝だったが、
9月に入ると勝ち星を積み重ねた。
「有力馬に数多く乗せて頂きましたが勝ち切れなくて
歯がゆい日々が続いていました。
9月に入ってようやく結果を残せました。」
9月21日の門別10Rはドドーニサンサンで勝利。
果敢にハナを奪うと後続を寄せ付けず快勝。
「期間中ずっと乗せて頂いた馬だったので
何としても勝ちたかった。
桧森先生の馬で勝てて嬉しかったです。」
期間限定最終日には重賞のウポポイオータムスプリントに騎乗。
昨年覇者のジャスパーシャインに跨った。
「昨年の勝ち馬に乗せてもらえるとは思っていなかったです。
主戦騎手の阿部龍さんが、重賞を追い込みで勝っている
石堂騎手に合うかもと進言してくれて機会を頂けました。
3ヶ月の短い間でしたが、道営関係者の皆様には
大変お世話になりました。
門別競馬場のスタッフさんも優しい方ばかりで、
家族のように接してくれました。」
勝負の厳しさと人の温かさに触れた3ヶ月間だった。
夏の北海道で自分の甘さを痛感する事もあったが、
得たものも多かった。
「道営では乗り難しい馬に跨る機会が多くて大変でした。
そういう馬を数多く乗る事で
馬の性質を学ぶことができました。
経験を積み重ねていくと馬に対する恐怖心も無くなりました。
今まで長い鐙で乗っていました。
兵庫にいる馬は経験豊富で
余計な事はしないだろうと思えるようになり、
西脇に戻って鐙をつめて乗れるようになりました。」
取材日の10月18日。
第6Rで石堂響騎手はノーブルオリンピアに騎乗し勝利。
期間限定から戻ってきて最初の勝ち鞍となった。
道中は最後方からとなったが、
3角過ぎから上昇すると大外から豪快に差し切った。
栄冠賞のリプレイを見ているかのようだった。
翌日の1Rも9番人気のエイシンイチラクで勝利。
中団の内でロスなく立ち回る落ち着いたレース運びだった。
伏兵馬で波乱を演出するなど、
限られた騎乗機会で結果を残している。
「これまでは出遅れたりすると慌てて前に行ってしまい、
勝負どころで余力が無くなる事がよくありました。
無駄な動作も多かったです。
期間限定を経験して肝が据わったというか、
自己自制が出来るようになりました。
位置取りだけでなく馬のリズム、
気分良く走らせてあげる事を意識して今後は
1鞍1鞍を大事に乗っていきます。
北海道に行って成長した姿をアピールしていきたい。
重賞の騎乗依頼を頂けるよう地道に頑張ります。」
兵庫に戻って結果を残すことが
お世話になった皆様への恩返しになる。
恵まれた環境での経験は今後の糧になるはずだ。