生涯勝ち星3164勝、14年連続リーディングの偉業を成し遂げ園田競馬の一時代を築いた
田中道夫騎手(現調教師)。かたや競馬実況60余年、9万レースを熱く語りギネス記録に認定
された吉田勝彦アナウンサー。園田競馬の歴史に燦然とかがやく2人のレジェンドが、“父を
超える日”をめざしトップジョッキーでありつづける田中学騎手をまじえて語る、珠玉の園田ヒ
ストリー。
吉田 まずは調教師1000勝到達おめでとうございます。
道夫 ありがとうございます。
吉田 道夫くんは……昔からずっと「道夫くん」って呼んでるんで、いまさら田中さんと言い
にくい。道夫くんと呼ばせてもらうけど……調教師になって19年?
道夫 ですね、19年と6ヶ月。
吉田 道夫くんは昔から記憶力がすごいね。ゴルフやってもそうでしょ。
道夫 ゴルフは憶えてるな。1回行ったところはコースも憶えてる。
吉田 他人のカウントまでちゃんと数えてる(笑)。現役の騎手時代もそう、ほかの馬のこと
を全部記憶してるんや。その馬の弱点を心得てるから、あの馬に勝つためにはこうしよ
うと。自分の乗り馬だけやなしにほかの馬の特徴まで全部知ってるというのはすごい。
道夫 昔はね、アラブのときやから同じ馬ばっかりやったからね。同じアラブの馬がメンバー
が替わるだけやもんね。ずっとね。だからクセというのが大体わかった。
吉田 調教師になって19年6ヶ月で1000勝。このことはいまどう感じてる?
道夫 あんまりその感覚はないんやね。1000勝がどうとか1500勝がどうのという……
ああ、1000勝したんやな、1000勝って(他の人は)そんなしてないんかな……という
感じ。
吉田 上には1851勝って森澤憲ちゃん(森澤憲一郎調教師)のレコードがあるけど、まぁ、記録
への挑戦じゃなしに一つ一つを確実にという姿勢が大事なんやろうね。
道夫 勝つためにはどうしたらいいかって、そのことばかりずっと考えてきたからね。
吉田 古い話になるけど、厩務員時代を3年間すごし騎手になったときが21歳。その年に学く
んが生まれたのかな?
道夫 騎手の試験発表の前に生まれたんや。
吉田 学くん、憶えてないか(笑)
道夫 生まれたのが9月25日やから、その3日後ぐらいに発表があったと思う。まわりから
盆と正月がいっぺんに来たなと言われたけど、地獄のはじまりやったな(笑)
吉田 そのときからもう減量してたの?
道夫 もちろんもちろん。試験を受ける前まで54~5kgあったんですよ。
吉田 50kgを切っとかないといかんねやろ。
道夫 だから46.8kgまで落として試験を受けた。その頃はサウナもないじゃないですか。
だからずっと車の中でね、車の中にバスタオルを敷いて寝てましたね。
吉田 そういうふうに減量で苦労して騎手になって、14年連続リーディングジョッキー(19
78年~1991年)。あれはなんといっても凄いよね。それで15年連続だったら佐々
木竹見さん(川崎競馬の7000勝騎手)に並ぶ。15年目の正月に二人で呑んだときに
「今年もう1年頑張ろうな」と言った。そのときに道夫くんが言うたのは「アカン、今
年は勝てん。ちょっとうるさい奴がおる」と。「だれ?」と聞いたら「小牧太」と言っ
た。結局あの年は小牧太がリーディングを獲って、それから8年連続、10回のリーデ
ィングを獲って中央に行くんやけども、それを見抜くというのが凄いなと思った。まさ
に名人、天才を見抜くとはこのことかと。
道夫 乗り替わったときによく分かりますね、自分の乗り馬を。たええば、小牧くんがぼくの
乗り馬に乗ったときなんか、ああ、やっぱり違うというのがね。岩田くんでもそうでし
たもんね。あの馬があんな動きしたことないよって。俺が乗ったときとは違う動きをみ
せた。そう感じたことがあったもんね。
吉田 あれだけ素晴らしい活躍をしてても?
道夫 もう全然。