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クローズアップ ホースマン達の勝負に懸ける熱き想い

父親から息子へ、世代をつなぎ語り継ぐ―「俺たちの時代」前編

PROFILE

田中 道夫 調教師
1951年2月25日 宮崎県出身騎手時代に14年連続リーディングに輝く、通算3164勝(他に中央2勝)を挙げて“園田の帝王”と称された。調教師に転身後、調教師としてもリーディングを獲得。通算1000勝を調教師でも達成する偉業を成し遂げた。
田中 学 騎手
1973年9月25日 兵庫県出身1993年騎手デビュー。2007年にリーディングジョッキーとなり、親子2代で園田の頂点に立った。2014年には、自身最高となる276勝を挙げ、全国の頂点にも輝いた。
4月15日現在で、父の生涯勝利数にあと17勝と迫る。
吉田 勝彦 アナウンサー
1937年2月14日 大阪府出身19歳から競馬実況を開始。2014年、同一競馬場での実況年数がギネス世界記録に認定された。翌年、10月1日で実況歴還暦となる丸60年を迎えた。
79歳となった現在も現役で活躍。ギネス記録は日々更新されている。

写真

吉田 だけどね、あの時代は寺嶋がおり花村がおり保利良次がその下におり、尾原だって乗り
   方は凄かったと思う。そういう凄い連中がいっぱいおるから、そうは勝てない時代やっ
   たよね。年間勝ち星で言うたら、ぼくの記憶に間違いがなければ219勝が一番多かっ
   たと思うんや。

 

道夫 そうやったかな……。

 

吉田 あれっ?記憶力悪いな(笑)

 

学  記憶力じゃなくて、興味がないんですよ。自分の数字とかにね。

 

道夫 興味ないな。なんぼ勝ったとかゆうの、全然興味ない。

 

吉田 学くんもそう?

 

学  ぼくもそうですね。

 

道夫 相手が何勝してるから何勝して追い越さんといかんとか、そういうの興味ないね。ただ
   自分が勝とうというのだけやから。だから人から言われて、ああ、そうなん?という感
   じです。

負けて帰ってきた悔しさを糧に

吉田 学くんは騎手になってから「お父さん」って呼んだことある?

 

道夫 そういえば聞いたことないな(笑)

 

吉田 自分のお父さんに対してずっと「先生」やもんな。

 

学  なんか「お父さん」って言いにくいんです。

 

吉田 いまでも忘れらないのはね、あなたが中学生ぐらいやったと思う。道夫くんが大本命の
   馬で3着になって戻ってきたときに、学くんが父親に向かって「ヘタクソ!」って言っ
   た。憶えてる?それで言われたお父さんはムカッとする表情も何もない。ただ黙って、
   負けて帰ってきた悔しさを噛みしめてた。

 

道夫 なんで負けたのか、あそこであんなことしたからかな……ああ、失敗したって……レー
   スから上がってきたら、もうそんなことばっかり考えてるもんな。

 

学  一馬身差ぐらいなら騎手の力でなんとができる。それを一馬身負けた言うて「しゃあな
   いな…」って上がってくる奴がいる。そうじゃなしに「なんとかなったのになぁ」と悔
   しく思ったらつぎにつながるやろし。アタマとかハナ差で負けてヘラヘラしてる若い騎
   手見たら腹立ってきますね。

 

道夫 ニコッと笑って帰ってくるのおる。俺もそれは腹が立つ。

 

吉田 父親から見て、学騎手をいまどう見てる?乗り役として……。

 

道夫 俺より上やなと思うわ。いやホントに。うまいなと思うよ。こんなこといままで言うた
   ことないんやけど……あそこをあの馬であれだけラクさせるかぁ、そういうことできる
   もんな。最初の頃は、なんでハミを受けさせ行かせるんかなって。なんでハミはずせへ
   んねやって叱っても言うこと聞かなかったんやけどね。それをいまはちゃんとするもん
   な。

 

吉田 ハミをはずすとはどういうことか。ハミをはずすぐらいのこと乗り役やったら誰でもで
   きる。だけど、レースしてるということを馬に記憶させる、馬に伝えていく、そうして
   ハミをはずす。でないと、いざハミを取ってはずしっぱなしやったら馬は走らない。馬
   だって走りたくないもんな。

 

道夫 初めて乗る馬やったら、ちょっと返し馬みて、どういう馬なのかをたしかめるのがふつ
   うなんやけどな。ハミ受けの具合とか、この馬はこうしたらイヤがるなとか。そういう
   のを見る。西脇の人間やったらここ(園田競馬場)で調教してないいやから、なおさら返
   し馬して馬の足あとを見とかんといかんやろ。どこが深いか、そこらもわかってないと
   いかん。俺は最後に返し馬して、ここらが深そうやなとか浅そうやなとかを蹄跡をみて
   必ず確認したもんですよ。

 

学  いまは返し馬で正面を通らずに左へ行くケースが多いでしょ。右に行く馬は少ない。そ
   れもどうなんかなと思います。

 

吉田 馬の蹄跡を見て、深いか浅いかを確認するというのは大事なことなんやね。

 

道夫 雨の翌日なんかは砂が入ってるから、どこが深いか浅いか分からんもんね。

 

父、道夫師の話が中心となった前篇。後篇では学騎手の復帰までの苦悩、心を突き動かしたも
のとは何か――と話は進んでいく。

 

後篇へと続く…。

 

文 :大山健輔
写真:斎藤寿一

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