174センチという身長は、一般に競馬騎手に不利だといわれている。
一方で、リーチが長いぶん人より馬が抱ける利点にもなり得る。
エイシンハヤテの失敗を境に、彼は長いリーチを生かした騎乗フォームの矯正に取りくんできた。
「以前は馬を動かそうとそればかり考えて乗ってたんで、からだが起き上がってましたね。
いまはだいぶフォームがよくなってきてるかなと」。
自分の背中と馬の背中が平行になって横ブレしなくなったときは馬に負担がかかっていない証拠。
いかに馬の背中に吸いつくように乗るか――。
鴨宮は「結果的に勝てばいいんですけど、できればカッコよく勝ちたい」と、
フォームにこだわりを持っている。
カッコよく勝ちたい、その想いがいい結果を生む。この考え方は大事だ。
カッコよく乗り、カッコよく勝つための体力面と精神面の基礎強化をどう高めていくべきか――
「まだまだですね、甘いですね」と自身に対して物足りなさを感じているようだ。
若いときの苦労は買ってでも……の諺どおり、いまは自らを追いこんで鍛える時期だろう。
「辛抱して力を蓄えるときだと自分に言い聞かせてます。
3年後を見てくれて!と言えるように頑張りたいです」
明るい性格で人当たりがよさそうにみえるが「みんなが思ってるほど、ぼくは社交的じゃない」
と言う。内向的ではないにせよ、人見知りするタイプ。
人とのつきあい方、コミュニケーションのとり方が不得手のようだ。
「だから、みんなとは浅く付き合っちゃうんですよね」
人間関係で悩むのは若者の特権でもあるのだから、一時期大いに悩むのは悪いことではない。
ただ、むずかしく考えないことだ。
「克服せんとアカンぼくの課題だと思うし、そういう悩みから解放される唯一の道は勝ち鞍をあげ、
数字で残すしかないと思ってます」
鴨宮が唯一、胸を開いて話し合える相手が田中学だそうだ。教えられることも多い。
人間関係における悩みも「学さんからは、まわりから嫌われるぐらいにならんとアカンって言われます。
そういうことを教えてくれるからすごく有難いです」。
学騎手からは競馬の話ではなく、騎手としてのあり方、振る舞い方についてよく話を聞く。
「レースを上がってきたとき、学さんは誰とも喋ってない。
レースでどれだけ邪魔されても文句は言わない」。
そうした振る舞いや潔さが鴨宮は好きだし、自分もそうありたいと思う。
騎乗フォームで手本にしているのも学騎手である。
写真からもわかるように甘いマスクが際立っている。当然、女性ファンが多い。
ゴール前、接戦で敗れたときなどは悲鳴にも似た黄色い声が飛び交うことがある。
女性ファンにアピールできる魅力があることは大事だし、園田競馬を盛り上げる要因にもなる。
鴨宮自身もそこは自覚していて、女性客獲得のための広告塔になることに抵抗はない。
「ぼくなんかでよかったら、なんぼでも使ってもらっていいです。ただ実力がね……」
ジョッキーという職業は実力が伴ってこその人気、
あくまで実力先行でなければならないことは彼自身も十分にわきまえている。
「バレンタインデー、チョコはどれくらいもらった?」と訊くと、
ファンからのプレゼントは1個もなかったらしい。
「ホンマはモテないんとちがう?」
「そうなんです。モテたらね、もう付き合って結婚してますよ」
どこまでが本音かしらないが、そういって笑わせる。
ライバル騎手を決めないようにしている。
まわりを意識せず自分だけに集中したいという思いからだ。数字の目標もこの5年間立てたことはない。
「立てないとダメなんでしょうけど、まだ自分には早いかな……」
蕾がふくらみ、花が咲きはじめたときに考えるということか。
目標の数字を設定したときが、十分に力を蓄え、上位に挑んでゆく覚悟をきめたときなのかもしれない。
3年後、5年後の自分をどんなふうに思い描いているのだろうか。
トップ3と言われた川原、田中、木村がリタイアしたあとのポジション、騎手としての存在感を――。
「そのときにどれだけアピールできて、上位におれるかですよね。
そのときのための準備を怠らないように、ここ数年を辛抱づよく大事にしたい。
園田といえば鴨宮、と言ってもらえるぐらいの位置に……」
鴨宮と接してみて感じるのは、人の意見をちゃんと聞ける素直さが彼の魅力だということ、
教えられたことを吸収する能力、柔軟性に富んでいることだ。
多少は浮ついた感じがなくはないが、それは若さゆえの思慮の浅さだと理解できる。
いま彼に必要なのは、強い気持ちをもって日々精進すること。それに尽きる。
今年は年男、24歳のピチピチ男子である。
怖れるな、ためらうな……何度失敗しても、きみにはやり直せる時間がたっぷりある。