当人の意志とは関係なく、まわりからは“橋本ブランド”の後継者という眼で
見られるのは仕方のないこと。
三代目としては、これまで積み上げてきたブランド力を低下させるわけにはいかない。
その想いは当人が十分に感じている。
後継者であることの重みをどう捉えているのか――。
「とくに感じてないですね。父親のことをぼくが好きだったんで。
男としてもカッコいいなと見てますし。
まあ、祖父の代からつづいてる橋本の名に恥じぬよう頑張ろうと。
仕方ないですよ、生まれたときから橋本なんで(笑)……もう頑張るしかない」
助手のころから携わってきたエーシンクリアーは2歳時から重賞を勝ち、
昨年まで連続5年間重賞を制覇。今年6年連続に期待がふくらむ。
そしてもう1頭、忠男厩舎の最後のとなった新春賞を勝ったエイシンニシパ。
「年代表馬を狙える一番の候補がこの馬じゃないですか」と、
今年4歳になったニシパに注ぐ視線は熱い。
父親の有終の美を飾ったニシパを、今年は息子が1年間活躍させ、
年代表馬に押し上げるドラマチックなシナリオだ。
「賢い馬なんで、どれだけ成長してゆくか楽しみです」
厩舎運営では馬主とのつきあいはもちろんのこと、厩舎管理から経営面まですべてをこなしている。
仕事の全体像を把握するため営業も厩舎仕事も経理も一人でやる。
そこまでかかえこむと大変だろうと思うが「そうしないと(仕事の)全容が見えないんで…。
別にしんどいことはないです。勝つためにやってることですから。
しんどいなと思っても一つ勝つことで苦労が報われる。そのくりかえしですね」
現在スタッフは7人。
忠明師より年下が2人、あとは全員年上という構成で、年間60勝の目標を立て
全員の意思統一をはかっている。
「いい馬を入れていただいてますし、スタッフのレベルも高いですし。
管理体制には満足しています。あと、やっぱり結果がほしい」 勝負師の本音が出た。
自分のことをポジティヴで楽天的な性格、と忠明師は言う。
若い騎手たちとお互いタメグチで話し「こんな調教師はじめてや」と笑われたりする。
そんなフランクな関係を自身も望んでいるようだ。
父親が好き、父親を尊敬している、と素直に言えるピュアな心根も、そうした同じ目線で
人と向き合う彼の人柄からくるものだろう。
取材していても接し方はきわめて謙虚で、人柄のよさが感じられる。
これも“橋本ブランド”の良さか。
調教師の資質で大事なものはなにか、という質問に、忠明師は人間関係を育てる力だと答えた。
「馬に携わる仕事ですけど、結局は人間関係なんですね。
ジョッキーもそうですけど、いくら技術があってもいい馬に乗れないと勝てない。
そこで大事なのは人間関係ですよね。
調教師も同じで、オーナーから馬を預かる、信頼を勝ちとる、そこで人間関係がそだってゆく。
スタッフとの関係もまったく同じ。肝心かなめの部分は人間性を磨くことだと思います」。
それに尽きるようだ。
いま忠明師が漠然と考えているビジョン――それは
「重賞を一つでも多く勝ちたい、リーディングを1回だけでも獲りたい」ということ。
父親が成し得なかったリーディングトレーナーの称号、さらには「南関東で勝つこと、
JRAで勝つこと」にも並々ならぬ意欲をみせる。
24歳で橋本忠男厩舎に入門して16年。
競馬のたのしさ、むずかしさを肌で感じ、視野を広げ、調教師としての生き方を身につけた。
開業5年目の今年は、あらゆる意味で調教師人生のひと区切りになる年なのかもしれない。
今後どうステップアップしてゆくべきか、
忠明師の胸のなかにはすでにたしかな青写真が描かれているように思う。
橋本ブランドの重責に屈せず、自らの感性を信じて忠明流の厩舎運営をめざしてほしいものだ。
「園田競馬で育ったので、自分のことも大事ですけど、
やっぱり園田競馬場を長くつづけていけるように調教師みんなで協力して頑張っていきたい」
最後は律儀に、謙虚に、言葉を結んだ。