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クローズアップ ホースマン達の勝負に懸ける熱き想い

足もとをみつめ、一歩、また一歩…。/玉垣光章 調教師

PROFILE

玉垣 光章(たまがき みつあき)調教師
1975年10月8日、岡山県生まれ。
 
地元の高校を卒業後、
1996年4月に兵庫県で騎手デビュー。
20歳と遅咲きの競馬界入りだった。
 
2006年9月までの
10年5ヶ月で230勝を挙げる成績を残した。
その後調教師補佐(助手)として大石厩舎で活動し、
2014年に調教師試験に合格。
 
2015年1月13日に初めて出走馬を送り込み、
見事そのレースで初勝利を収めた。
開業初年度は7勝止まりで、
2年目の昨年は25勝。
 
玉垣師自身が「勝負の年」と語る
今年は、すでに(6月13日時点で)24勝を挙げ、
昨年の倍以上のペースで勝ち鞍を量産している。
 
今後の活躍が期待される若手調教師のひとり。

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先輩調教師から貪欲に学ぶ

騎手を引退したのが2006年。引退後は大石厩舎で調教助手を8年務めた。すでに30代後半。
そもそもが高卒からのスタートだったから、まわりの若手調教師より一歩出遅れた感があり、
早く追いつこうと必死だった。
開業前、アドバイスを求めたのは先輩調教師のなかでも年下の新子雅司であり保利良平であり、
彼らから馬の集め方など初期段階のノウハウを教わった。
 
「新子先生のマネはさすがにできなかったですけど…(新子厩舎が)すぐ突出してしまったんでね。
彼は馬の調子とか感じを掴むのがすごく上手い。
自分で乗って、いま馬がどういう状態であとどれぐらい調教が必要だとか、
これ以上いったらあかんとか、神経を研ぎ澄ましてやってる。あそこまではなかなか…。
リーディング獲って、ホンマやったら仕事も少しセーブするじゃないですか。
でも彼、セーブするどころかいままで以上に努力してるんで、
あの姿を見てたらぼくらも気が抜けない」と、リーディングトレーナーに敬意をはらう。
 
「新子厩舎はオープンなんで、仕事をよく見せてくれます。
うちは全然変わったことしてないよって。彼の馬づくりってホント、初期の考え方に戻ってる。
疲れたら休ませる。カイバも変わったものはやらない。
結局、あれで成績が出てるんで、目新しさを追いかけるんじゃなく原点に戻ってるんですよ。
ああいうやり方を見てたら、馬づくりってどれだけ真剣に馬と向き合えるか、
馬の状態を自分で把握できるかが一番なんだと思いますね」
他厩舎から刺激を受け、良いところはどんどん吸収しようとする貪欲さは旺盛だ。
スタッフ間のスキルアップや意識向上という面においても、先輩調教師から学ぶことは多い。
現在スタッフは4名、少数精鋭で頑張っている。
全員20代で、それぞれ馬づくりに関して豊かな経験があり信頼できるメンバーだという。
ただいま若干名のスタッフ募集中らしい。
「みんな仲がいいんで、なごやかな雰囲気でやってます」とボスはアピールする。
働きやすい職場なので馬が好きな若人よ、来たれ! 素人大歓迎!
 

今年50勝を目標に―
力を貯めて、将来を見据える

第一印象は地味で控えめ、自己表現は苦手なタイプのように見えたが、
話しだすとどうしてどうして、ひたむきに自己を語る。
雄弁ではないけれど、生真面目さが感じられ、篤実な人柄が伝わってくる。
きっと頑固で正直で、コツンと硬い骨っぽさを内に秘めた人なんだろうと思う。
 
厩舎運営のポリシーを訊ねるとー「人と人とのつながりを一番大事にしている」と答えた。
対オーナーとの関係、対スタッフとの関係において、
人間対人間の誠意あるつながりが基本だと考えている。
「もちろん成績を上げることは大事ですけど、それ以上に相手の立場に立ったり、
人の気持ちを察したり、人との接し方が大事だと。
人間同士のつきあいがうまくいったときがすごく楽しいっていうか、達成感がありますね」
 
去年秋から今年にかけて6連勝したドリームポリーニの活躍と呼応するように、
管理馬(18頭)を効率よくまわしてここまで順調に推移しているが、
玉垣師自身「いまは力を貯めるとき」だと自分に言い聞かせている。
いずれは頭数をふやし、看板馬を育て、上位を狙える厩舎に成長したいのは当然だが
「今年はとりあえず50勝」が目標。
それをクリアできたら、もう一段階上の目標に。上級クラスで勝ち鞍を積み重ねることが
次のステップにつながると考えている。地に足をつけた彼流の堅実な計画だ。
 
「はっきり言って勝ち星は上がってるけれど、まだ中身が伴っていない。
表彰式にはまだ1回も上がったことがないんですよ。
その日のメインレースさえも勝ったことがない。勝ってるのは平場の下級条件の馬なんで。
もうちょっと上のレベルの馬を預けてもらって、そこで結果を残すというのが次の段階だと思う。
今年50勝クリアできたら、馬主さんの見る目も変わってくると思うんで、
あそこにもうちょっと上のクラスを預けても大丈夫だとなってくるんで…。
それを頭に入れての50勝なんです」
 
この2年間で下地はできた。開業前に立てたプランに狂いはなかった。
今年50勝すれば世界は広がる―。玉垣師は淡々と、しかし熱く語る。
 
「5年後ですか…そうですね、5年後はつねに上位に名前を連ねていたいですね。
リーディング争いも虎視眈々、狙ってます。まあ、こう言っても結果が残せなかったら、
アイツなに言うてんねんって話なんですけど…
そこそこ数字を残せばまわりの見る目がちがってくる。
そこが大事かなと思います。そういう雰囲気をだしたらうちのスタッフにも必ず伝わる。
上位を狙う厩舎というのは、たとえば新子先生のところはスタッフの意識が全然ちがいます。
でも彼らにしたって最初からそうだったわけではない。
新子先生が意識を変えて、常勝スタッフにつくり変えたわけですよ。
そういうスタッフづくりをめざしたい――」
 
いくらいい馬を連れてきても、スタッフの意識が伴っていなければ厩舎力アップにはつながらない。
勝ちたいという強い思いが厩舎全体を支配しなければ目標は達成できない。
そのことを玉垣師は強く胆に銘じている。
 
「ぼくも頑張っていい馬を探してくるから、なんとかみんなにいい馬をやらせてあげられるよう、
それを励みに頑張っていきたい」。
そう語る玉垣師には、厩舎経営者としての潜在能力がまだまだ眠っているように思えた。

 

文 :大山健輔
写真:斎藤寿一

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