予想会を終えた二人は、そのあとサイン&撮影会があるというのでついていくと、
すでに常連ファンの列ができている。
なかに一人、金髪カツラを被ったファンキーなお兄さんがいる。
競馬場では、ときに極端にはじけたスタイルの若者をみかけることがあるが、
それは非日常をたのしむひとつのツールでもある。
彼に声をかけてみた。毎週金曜は必ず来ているというナイターファン、
というより大のSKNファン。大阪で介護職員の仕事をやっているという。
「ナイター競馬の魅力は何ですか」
「なんといっても夜景がベストやね」
「きょうの成績はどう?」
「聞かないで、それだけは…」
「面白いイベントありました?」
「プロレスは楽しかったな」
先週(6月15日)、第22回大日本プロレスカップに合わせ場内で開催された
グレート小鹿率いるところの大日本プロレスの試合は、
今年で5回目になるが毎回盛況で人気の高いイベントである。
競馬とプロレス、どちらも血気にはやるという点で共通するものがあるのだろう。
そういえば介護職員のお兄さん、
リングに上がってもおかしくない体格の持ち主だった。
「ナイター競馬はお祭りです」。神崎まなみ嬢が言った。
新装オープンしたミュンヘンの店内でSKNの二人がインタビューに答えてくれた。
「フェスティバルですよ、ナイターは。たのしくて、
イルミネーションがきれいで、アットホームな雰囲気があって。
そうそう、照明灯がともりはじめるころの夕陽、とってもきれいですよ。
わたし、あの時間帯が大好きなんです」
「わたしはライトアップされた場内の景色にうっとりします。
パドックで見る馬の姿も照明を浴びてきれいだし、馬券のことわからなくても楽しめる。
カップルやグループでくると盛り上がりますしね」と、
真巳嬢もすっかりハマってる様子だ。
ナイター開催日にはラジオ大阪「ドラマチック競馬」の実況中継が
組まれているのだが、この日は漫才のギャロップを特別ゲストに、
まなみ嬢と真巳嬢も出演する。
まなみ嬢が「ナイターの日は結構荒れるので、放送はにぎやかで、面白いですよ」
というので、のぞいてみたくなった。放送開始は7時だからまだ時間がある。
6時半をすぎ陽が傾いたころ、西の空に目をやった。
まなみ嬢が推称してた赤く染まったきれいな夕焼けである。
この日は心地よい風が吹いていて、あちこちで夕涼み気分をたのしむ人の姿が目立つ。
この時間帯からサラリーマン風の客がふえるのが特徴である。
7時近くになったのでレーシングスタジオにいくと、
サテライト前には20人近くの観客が集まっていた。
多くはSKNの熱烈ファンだと思われる。
金髪ファンキー介護職員のお兄さんもそのなかにいて、しっかり最前列に陣どっている。
OBC西村寿一アナの進行で中継がはじまった。
9レース~11レースまでの3つのレースを予想しながらワイワイ、ガヤガヤ…
なんとも陽気でにぎやかな番組だ。
ギャロップとSKN、そこに大スポのトラックマン瀬藤治人さんの解説が加わって、
予想が当たってもはずれてもサテライト前はにぎやかに盛り上がっていた。
この日は重賞レースはなくメインの10レースは半夏生「明石だこ特別」。
昼間の競馬とちがうところは、メインレースが終わっても帰る客が極端に少ないことだ。
メインが終わった8時をすぎても場内は依然にぎわっている。
きれいなイルミネーションに囲まれ、夜風にあたって、
もうしばらくゆっくりしていたい。
そんなふうな顔つきで、そぞろ歩きをたのしんでいる人たちが多い。
飲食エリアではまぐろ専門店一八が混みあっている。
この店、相当人気があるようで、以前立ち寄ったときも注文がひっきりなしで
窓口に客が並んでいた。日本人ってまぐろが好きなんだ。
仕事や家事でセカセカすごした日の夕暮れに、
自分らしいふつうの時間を取り戻したくてナイター競馬にやってくる人は
きっと多いはずだ。
まぐろを頬ばり、酒を酌み交わしながら、
人それぞれ、開けっ広げの人間らしさで時間をたのしむ。競馬に興奮する。
1週間の締めくくりに金曜ナイターは欠かせないな、と思う。
最終レースがはじまるのでスタンド前に向かった。
なんだかゴール付近が混みあっていて、人の多さに驚く。
これはメインの重賞ではないかと錯覚するほど大勢の観客が集まっている。
極上の時間の最後の一刻をむさぼるかのように。
8時30分。ゲートが開いた。
「スタートしました!」
夜空から実況アナウンスの声が降りてきて、場内を包む。
沸きあがる喚声が夜空ノムコウに吸いこまれてゆく。