職人軍団のチーム力を武器に
人間、勢いに乗ったときは、いい顔をしているものだ。端正な顔立ちに黒いスーツが似合っている。
取材のための正装かと思っていたら、そうではなかった。レースのある日はいつもスーツを着用する。
競馬関係者にふさわしい服装、勝負の場に臨むマナーを守っているにすぎない。
これも角居厩舎の研修で身につけた心構えのひとつだ。
厩舎が成長を続けている要因をたずねると、第一に馬主さんに恵まれている点、第二にスタッフとの結束力を挙げた。
「ぼくが感じているのはスタッフのレベルがどんどん上がっている点です。技術も意識もね。
つまり、チームとして成長しているのが大きい。
スタッフが一番困ることというのは、厩舎内でコミュニケーションがとれてないことだと思うんです。
それぞれの思いや考えを伝えたけれども全然聞いてくれないのが、スタッフが一番困る。
だから、ぼくはなるべくみんなの意見を尊重しますし、ぼくの考えも言います」
一見クールにみえる新子だが、自分の仕事の本質を見失わず、締めるところは締め、
リーダーに不可欠な骨太の包容力も備えているようだ。そんなところにスタッフとの信頼関係も深まるのだろう。
タガノジンガロを筆頭に、移籍馬再生能力は周囲も認めるところ。
その秘訣をたずねると「移籍馬の結果を出せるのが厩舎力でしょ」とさらっと言ってのける。
強気な発言、自身に満ちたコメントは彼の持ち味でもある。
「やってることに自信があるというよりも、厩舎で一番大事なのはスタッフの力ですから。いい馬を入れても
スタッフがダメなら走らないですし。その点、ぼくのところは充実したメンバーが揃っていると思うんです。
そこから生まれる自信ですよね。逆に、ぼくが弱気な発言をすると、頑張ってくれているスタッフに失礼だと思うんです」
あえて強気な発言をすることで自分自身とスタッフを鼓舞する手法は、サッカー日本代表の本田圭祐選手を思い起こさせる。
「個」の力を高めるために自信に満ちた発言をくりかえす本田とどこか似ていて、
ともに求道者の厳しさを内包しているように思えるのである。
と同時に、馬を鍛え強く育てあげる厩舎の連携作業というのは、サッカーと同じチームスポーツのようなものだと感じた。