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クローズアップ ホースマン達の勝負に懸ける熱き想い

18年目のリスタート。/板野 央 騎手

PROFILE

板野央(いたの ひさし)
1982年3月23日、高知県生まれ。
高校時代は馬術競技で国体に出場
するほどの活躍を見せた。
大学の推薦入学への進路を蹴って
競馬界に入る。
 
母方の祖父は高知競馬で調教師をしていた。
 
2001年春のデビューで、
同期には竹村騎手、広瀬騎手がいる。
その中では勝ち頭で、
通算741勝(10月30日現在)。
ただ、近年のリーディング争いでは、
このふたりに遅れを取ってしまっている。
 
今年は年初から好調だったが、
調教中のケガで長期離脱を余儀なくされた。
この秋は新規開業、木村健厩舎に移籍して、
心機一転再びの躍進が期待される。
 
好きなお酒は芋焼酎。
家族構成は妻、二女一男。

写真

フェアな競馬を信条に、自己アピールをめざす

板野は高知出身。気骨があって豪快で、
信念を曲げないことで知られる土佐の”いごっそう”である。
中学1年から乗馬クラブに通いはじめた彼は、
高校時代に高知代表として国体に出場した経験があり、
障害馬術の大会ではつねに入賞を逃さない実力を備えていた。
高校卒業時に大学から推薦入学の話もあったが、
騎手の道へ進路を変える。
「勝ち負けを競う世界で自分をためしたい」という思いが強かったようだ。
母方の祖父が高知競馬で通算813勝をあげた
梶原喜造調教師だったことも多少は起因しているのかもしれない。
 
「馬は小さいころから身近にいたので親しんでました。
祖父は、ぼくが騎手になるとはまったく考えてなかったですね」。
騎手学校を卒業後、園田でデビューしたのは2001年4月。
西脇時代(野田忍廐舎所属のころ)に知り合った妻の千裕(ちひろ)さんとのあいだに
9才を頭に3人の子どもがいる。
 
「だから、まだまだ頑張っていいレースをして結果を残したい」。
一家を支える父親の責任は重いのだ。
 
木村廐舎のオープニングスタッフの一員として板野の心を掻き立てるものがある。
それは、木村廐舎の馬で重賞を勝ちたいという思いだ。
 
「いずれ強い馬が現れてくると思うので、主戦で乗って勝ちたいです。
重賞を勝って家族みんなで記念写真をね…いいですね(笑)」。
アグレッシヴ競馬で鳴らした木村師の不屈の精神と情熱をもってすれば、
その日もそう遠くはないはずだ。
 
ちょうど、この日に行われた「兵庫若駒賞」で、
渡瀬和幸が騎乗したテンマダイウェーヴが見事に重賞を制した。
渡瀬にとっては20年目にしてようやく勝ち獲ったはじめての重賞制覇。
レースのあとも喜びと興奮を終始押し殺していた姿が印象的だったが、
その想いに寄り添い、板野は自分と重ねあわせていたのかもしれない。
 
「渡瀬ジョッキーが先月(この欄で)やって、きょう重賞を勝ったでしょ
。ぼくもあやかりたいです」。
そう言って笑う。
なにしろ20年目で初の重賞勝ち。
この取材を受けると縁起がいいのだ。
手前味噌ながら、そう言っておこう。
 
現役時代の木村健から学んだのは”フェアな競馬”であるという。
 
「木村さんの競馬を強引な騎乗っていう人もいましたけど、
けっしてそうじゃない。1、2コーナーは(内に)もぐり込ませる。
そのあと動作が大きいから強引に見えるだけなんです」
 
相手を不利な状況に追いこむような強引さではなく、
1、2コーナーは脚をためて極力ロスをなくしたうえで、
目一杯パワーを発揮させる。それが木村健のレースだった。
 
「だから、ぼくも1、2コーナーを一番大事にしてます」と板野は言う。
 
「木村さんから学んだフェアな競馬を大事に、
これから自分をアピールしていきたいですね」。
この言葉は自己の存在感を示す力強い宣言のように聞こえた。
 
板野はこれまで一度もフェアプレー賞を獲ったことがない。
年間を通して一人だけに与えられる賞であり、
騎乗回数の多い上位騎手が対象になりやすいからだ。
新廐舎に移って心機一転、めざすべき目標が今後は必要になってくるだろう。
「受賞はないが、無制裁は何度かある」という板野の指針をそこに定めてはどうか。
少なくとも前年以上の数字を残し、しかも無制裁で1年を終える…
フェアプレー賞に準ずる正々堂々とした騎乗を心がけてほしい。
そうして、木村廐舎の主戦ジョッキーとしての自覚をもち、
おじいさん譲りの”いごっそう魂”でもって
厩舎を大いに盛りあげてほしいものだ。
 
ところで、ケガで入院していた時期、
自宅療養がつづいた期間、献身的につとめてくれた千裕さんには頭が上がらない、
と土佐の男らしからぬことを言う。
 
「ホント、感謝してます。これ、ぜひ書いとってください」
 
なので書くけれど、この”いごっそう”、
案外、尻に敷かれるタイプであるのかもしれない。

 

文 :大山健輔
写真:斎藤寿一

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