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クローズアップ ホースマン達の勝負に懸ける熱き想い

2018年

クローズアップ

 
「いい馬を一番多く乗ったのがぼくやった、と思うんです。
ぼくにいい馬を乗せてくれる人がまわりにいっぱいいた。
それに尽きるんじゃないですか。ぼくがとくに変わったことをしたってことではないですし、
昔からやってることは変わらないんで、ハイ」
 
変わらないといえば朝の調教、午前0時の一番乗りはいまも変わらない。
「最近は0時半ですかね(笑)。それを見てくれている人が昔からいるんで。
そういう人たちがぼくを押しあげてくれた。それも幸運だったと思ってます」
どんなレースであっても勝ちたいという思いは年々、強くなっている。
いい馬に乗ることで、馬から教えられることも多いのだという。
「勝つレベルの馬に乗せてもらわないと勝てないじゃないですか。
質の高い馬に乗ると(自分の)技術の確認もできるし、馬が動いてくれるということは、
ちゃんと技術を身につけたということかもしれません。
独りでリーディング獲るなんて絶対に無理ですからね。
乗せてくれる人がいないと、乗り役なんてただの小っちゃいおっさんじゃないですか」
 

陰と陽、絶妙のコンビネーション

シャイで口数のすくない飯田師に対し、吉村はよく喋る。
気性はストレートで、天真爛漫。
まわりからは「喋りすぎ」「いつもひとこと多い」などと言われるが、
本人は平気の平左で気にもとめない。屈託のなさが彼の持ち味である。
片や、飯田師は寡黙で感情的にならないタイプ。
 
自制心が利いていて吉村とは正反対の気質なのだが、
この二人の陰と陽(あるいは静と動)が絶妙のコンビネーションを醸し出すからおもしろい。
吉村は飯田師のことを「先生」でも「ボス」でもなく「親分」と呼ぶ。
レースで負けて戻ってくると「親分、怒ってるのがわかるんですよ。
怒ってるテンションが明らかにわかる。親分、メッチャ怖いですから」。
それに対して、終始笑っている飯田師がポツリ…。
「そう感じてるんなら、多分…(笑)」。
吉村のツッコミを鷹揚に受けとめる。
 
リーディングが決まった直後、自宅に祝いの花が届いたという話を飯田師がぼそっと言う。
すかさず吉村がちゃちゃをいれる。
「狭い部屋に胡蝶蘭をいっぱい飾るとよくないみたいですよ」。
こっちは何のことかよくわからない。
「胡蝶蘭って花が酸素を吸うので、息苦しくなるんですって」。
話の要旨と関係ないことで口をはさむ。話が脱線する。困った男だ。
けれど憎めないやつだ。
 
おっとり型の飯田師は、ただただ笑っている。
両者の関係はじつにおもしろいのだが、紙面で再現するのはむずかしい。
なんとも奇妙で愉快な師弟である。
 

クローズアップ

チャレンジャー精神、変わらず

話は飯田師の戦略に戻る。
相手関係を見ながら勝てる確率の高い馬をぶつける戦法は、
人によってはずるいとみる向きもあるだろう。
ルール上まったく問題はないとしても、たしかに正攻法とはいえない。
目の前の勝ちをひとつひとつ拾っていく作戦であり、奇抜な戦略である。
「その点、新子くんなんかはいつも真っ向勝負で、ローテーションもばっちり決めて、
それできっちり結果を出すという正攻法のスタイル。
ぼくの場合は正攻法でないのは間違いないです」
 
そういう戦法を真似する廐舎が出てくることも飯田師は覚悟のうえだ。
「番組選びの投票は2回に分かれてるんですけど、
最近は1回目の投票と2回目ではちょっと違ったメンバーになったりする傾向がある。
ほかの廐舎も相手関係を見てレースを選んでるのかなと思います」
 
一転、追われる立場になった飯田廐舎だが、チャレンジャーとしての意識は変わることはない。
「一度獲ったからといって、そこであぐらかいて怠けてしまったらダメなので、
不断の努力が大事。勝ち負けの世界ですから、それはずっとついてまわるんじゃないですか。
ただ、去年はなにもかもがうまくいきすぎたので、今年はそこまでの幸運は期待していない」と、
飯田師の言葉には”傲り”のかけらも感じられない。
むしろ、これからが挑戦者だ、という謙虚な姿勢が見てとれた。
 
一方の吉村は受ける立場になって俄然、燃えている。
「(田中)学さんにしろ(下原)理さんにしろ、2年連続は獲らせへんぞと思ってくるでしょうしね。
そうでないと(ぼくの)勝ち星も上がっていかないと思うんですよ。
ぼく個人のタイトルも廐舎のリーディングも、ほんとのところ諦めてないですよ」。
今年は吉村のディフェンディング・チャンピオンの意地が試される1年となるだろう。
 
同世代の調教師が群雄割拠する現在の状況についても、飯田師は冷静に見ている。
「新子くんは抜けてるかなと思いますけど、2位以下は大差ないと思ってます。
今年は順当に新子くんが獲り戻すというイメージもありますし、
ただ、ぼくのところも馬房がふえてる(現在28頭)というのもあるんで、
勝ち鞍だけをみたらそれなりの数字は出せるんじゃないかなと思いますね」
勝ち星にこだわる戦法を押し進めながら、インターネットオークションで
有望な馬を見つけ戦力アップをめざすといった新しい戦略を今年は考えているという飯田師。
廐舎の親分とジョッキー、陰と陽が互いにスパークすればどんな火花が飛び出すか。
たったひとつの椅子を賭けた熾烈な闘いはすでにはじまっている。
 
 

文 :大山健輔
写真:斎藤寿一

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