前回(2014年12月)の坂本調教師の稿でも伝えられていたが、
自分の行動目標を言葉にして確認するのが好きなのだ。
「数字を追いかけると、無理をする。そうならないようにしている」
現在の好調ぶりについて水を向けるとこのような答えが返って来た。
「数字を追いかけても、それがかなうかどうかは分からない。
勝率がいらないわけじゃないけど、こだわると考えがブレる。
大事なのは馬づくり。それだけを求める」
「厩舎というのは、スタッフは家族だということ。
それは立ち上げ当初から変わりません。
ただ、家族だからといって甘やかすのではなく、馬に重点を置く。
スタッフも働きやすい環境にすることを心掛けています」
開業前に掲げた『スタッフは家族』はときに甘えを生んでしまい、
和が乱れかけたことがあった。
方向性を見失いかけたが、それでも立て直し、
スタッフは家族だと改めて強調する。
開業初年度の成績は26勝。
「与えられた仕事で挙げた結果が26勝。
数字は追わないけど去年よりも今年、
今年よりも来年をというように段階的に上に行きたい。
実際そうなっていますもんね」
※坂本厩舎の成績 2015年~2020年。
( )内は兵庫リーディング順位
26勝(26位)→42勝(12位)→41勝(13位)→45勝(9位)→
71勝(4位)→56勝(2位)※8月末現在
いつも心に刻んでいる言葉がある。
『努力は結果を約束されてはいないけど、成長は約束されている』
努力=結果ではない。が、成長は必ずする。
たとえ失敗したとしても、たとえ結果がついてこなかったとしても、
成長は約束されているのだからと厩務員やスタッフを励ますのだそうだ。
そして自分も励ます。
さらに「最後に困ったときは、
運すら引き寄せられるものを見つけろと言っている」
その言葉を体現できた出来事があった。
重賞を初めて獲得した管理馬、
スウォナーレ(9番人気で園田QSを制覇)に教えられたと言う。
「あのときは新子厩舎のショコラパフェが人気で、
他にも速い馬が揃っていました。
かなりハイペースになって、差し馬の流れになって追い込みが届いた。
相手は強いけど、諦めずにベストを尽くしていたから、
運をも引き寄せることができたんだと思う。
途中で諦めていたら、運からも見放されていた。
仕上げの部分でもそう、乗っていた大山騎手もそう。
諦めなかったから運を引き寄せることができた」
そう確信している坂本師。そして思い至った言葉が、
「諦めから何も生まれない」
坂本厩舎を代表するスターホースが現れた。
現在重賞を含め、4連勝中のナリタミニスター(牡5)だ。
「馬が変わったわけではなく、自分の形ができてきた。
スタイルができあがった感じです。
前々で競馬したら、馬が力強く走る。
下げたら、気を遣って走る。
強引でもいいから前々で動かしたほうが走る馬なんです」
金沢の『金沢スプリント』は本当に強かった。
坂本師の言う通り、強引と思えるほどの先行競馬で、
速い流れを作り差し馬の追い上げを呼び込んだ。
しかし、そこからもうひと伸びして抑え込むのだから本当に強い。
いまや兵庫の短距離界のトップクラスに君臨するほどの実力を身につけた。
当然、今後のローテーションが気になる。
「ぼくはあまり先のビジョンは持ちません。
ひとつひとつの課題をクリアしていく。
先に照準を合わせると、馬のかすかな変化に気付かないかも知れない。
いまの状態を大事にして目標に向かっていくというスタンス。
そういう意味で9月11日の『園田チャレンジカップ』が
ちょうどいいところにある。だから目指す」
金沢での重賞勝ちで歓喜に酔ったのかと思いきや…。
「ジョッキーを乗せれば、あとは見守るだけ。
正直、あまり興奮しない。無事に出走させたいという思いだけ。
結果がついてくれば嬉しい。
吉村騎手が馬の性質を生かした乗り方をしてくれたから嬉しかった。
結果がどうあれ満足できたレースでした。
そういう意味では出走までの過程の方が楽しいのかも知れない」
結果は約束されていないから、見守るしかないということだ。
エイシントロピコ(牝4)が現在9連勝中。
JRAデビューした同馬は17頭立ての11着のあと、
すぐさま兵庫に移籍した。
「初戦は1400mで道中前が詰まり、
最後は伸びて来たけど2着でした。
JRAのデビュー戦でも、11着でしたが上がり時計は3番目だったんです。
能力はあると感じていました」
その後は1700mか1870mを使われ、
9連勝まで到達。表彰対象となる10連勝まであとひとつに迫っている。
「10連勝はさすがに意識する。
ただそれだけには囚われていない。
レースに万全で出られるかどうかが大事。
これまで※挫跖(ざせき)が2度あった。
だからじっくり調整して臨みます」
※走行中に後肢の蹄の先端を前肢の蹄底にぶつけた時、
あるいは石などの硬いものを踏んだ時などに、
蹄底におきる炎症(内出血)をいう。
肢勢の悪い馬、蹄底の浅い馬、時として踏み込みの良い馬に発症しやすい。
一般に前蹄に多く発症し、蹄に熱をもち、
重度の跛行を呈することもある。
出典:JRA競馬用語辞典
「プレッシャーというのはないですね、
ただ重賞はいつでも挑戦できるけど、
10連勝は今回しかないチャンスですからね」
狙うところは、負けていない1700m以上の距離。
これまでずっと手綱を取る鴨宮祥行騎手とともに、
連勝街道をひた走るつもりだ。
「馬が成長しているというのは、ぼくらも成長しているという感覚。
いつも課題を持って取り組んでいます。どんな馬でも勉強になる。
基本、馬の変化を見定めてレースを使っていく。
ここを目標とプランを考えて進むと、うまくいかない方が多い。
いまはほとんどがBクラス以上ばっかり。
出走馬が重なってしまうので、嬉しいことやけど難しい」