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クローズアップ ホースマン達の勝負に懸ける熱き想い

夢を叶えたダービージョッキーが目指す未来とは…

 

悩みから救ってくれるもの

 とにかく明るく元気で快活。
ストレスを抱え悩み苦しむということとは無縁のような男だと思えていた。
が、実際は円形脱毛症ができるほど悩み、精神科を受診するまで気を病んだ。
 
「自分にはないと思っていたけど、そうなってしまいました。
調教師となって責任感がのしかかってツラかったですね。
頑張るしかないというのがプレッシャーになっていたのだと思います。
ぼく自身スーパーポジティブなんですけど、それでもだめでした(笑)」
 
ストレス解消となる趣味がないと坂本師は言う。
 
「お酒もそんなに飲まないし、馬のことばっかり考えています。
暇があれば厩舎に行く。
オーナーさんと密に連絡をとって馬づくりをしていますが、
理解あるオーナーさんが多いので恵まれていると思う。
いただいたチャンスを活かそうと思うからこそ、
必死になって、プレッシャーを自分で作り出していたこともあったのだと思います」
 
それでも「まさか自分が円形脱毛症になるとは思っていませんでした。
精神科も受診していましたし…」
 
筆者を含む彼を知る誰もが「うそやろ?」と言うことが現実では起こっていた。
そんな彼の悩み、苦しみを和らげてくれるものがある。
 
「勝利が薬とは言うが、そんな生易しいものではない。
ただ、厩務員さんが喜んでいる姿を見るのが一番嬉しい。
そんなことは実際口にはしないけど、これかな。
一番嬉しい。喜んでいる厩務員さんの笑顔が“何気に”好き」
 
「一生懸命ぼくのうるさいことを聴きながら付き合ってくれているわけだし、
その中で勝ったときの喜びの顔を見ると嬉しくなる」
 
「こんなこと書かんといてくださいね」とクギを刺されたが、書く!
 
恥ずかしいのもあるけど、若手の厩務員が調子に乗るのも抑えたい狙いがあるらしい。
でも、若い人たちは調子に乗らせよう!と勧めた。
 
「そうですね、調子に乗って頭打つのも経験になりますもんね」と切り替えも速い!

 

クローズアップ

 

今後のビジョン

「とりあえず、どんな状況であってもベストを尽くしたい。
人とのつながりを大切にしたい。
そして最後は園田競馬場に貢献できるように頑張る。
いま弟子をひとり抱えていますけど、
いい騎手を育てて行くことも園田競馬に貢献することになりますから」
 
来年デビューを迎える大山龍太郎騎手候補生は、
現在は競馬場や厩舎の実習に勤しんでいる。
 
「技術面は頭数を乗ればできていく。
でもプロになるにはまだまだハートが弱い。
だからいまはハートを鍛えています。
雑用でもしっかりさせる。ぼくは雑用が得意だったんですよ。
例えば草抜きひとつとっても、どのタイミングでするのかというのが大事。
実は雨のあとが最適なんですよ(笑)」
 
坂本イズムを継承していく騎手がデビューすることが楽しみだ。
そう言えば、坂本騎手は調子ノリの典型のような騎手だったなぁ。
 
現在リーディング争いで2位に浮上している坂本厩舎。
それでもトップを目指すということはないのだと言う。
 
「馬づくりはどこまでいっても満足はない。
馬は一頭一頭違うんだから。
最終的にはこれだけ勝ったんだと振り返る一年間。
順位はそれほど重要じゃないんですよ。
いまやっていることは、いつか花開くときのために水やりをしているという感じ。
確かに勝利だけにこだわれば数字は伸びると思います。
でも、いい加減な仕事をして達成しても達成感なんてないんです」
と確かな信念を滲ませた。
 
「騎手時代の晩年からひしひしと感じるのは、
周りの人のお陰だということ。
いろんな経験させていただいて、ホントに思うことがある。
とにかく周りの人のお陰だなと。
良くも悪くもいろんな人がいたから成長できた。
人に対する教え方も分かった」
 
最後に、いま思うことは…
「常に進化したい。常に吸収したい。
成長に終わりはない」

 
取材を終えても、まだまだ喋り足りなさそうな表情を浮かべた坂本師。
なぜこれほど喋るのか?
それは、いろんな書物を読み、いろんな人から話を訊き、多くを吸収しているから。
インプットしたものをアウトプットして確認しているのだ。
そして自分の仕事に活かしている。
 
そんな彼の一番の本音は、
厩務員さんたちの笑顔を“何気に好き”と言ったひと言。
 
あの言葉には表も裏もなく、
子を持つ親が見せるような笑みをたたえて優しく漏れた言葉だった。
 
坂本厩舎は立派な家族になっている。

 

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文 :竹之上次男
写真:斎藤寿一

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