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クローズアップ ホースマン達の勝負に懸ける熱き想い

18年目に咲いた大輪

 

悲願の初重賞制覇

 5月13日、園田競馬場でグランダムジャパン2021
3歳シーズンの第6戦「のじぎく賞」が行われた。
今年は名古屋から2頭の重賞ウィナーを迎えての12頭立て。
 ニジイロ(名古屋)、パールプレミアという2頭の重賞ウィナーを
抑えて1番人気の支持を受けたのは、過去に道営で3勝し、
前走3歳A特別で逃げ切り勝ちを収めていたエイシンウィンク。
前走でそのエイシンウィンクの2着だった長倉功厩舎のクレモナは、
6番人気の評価でスタートを迎えた。
 
クレモナを送り出した長倉師は、「これまでAクラスの男馬相手に、
スローペースでかかる苦しい競馬をずっとしていて、
その中でも結果が出ていた。使いつつ強くなっているし、
競馬も上手くなっていて、牝馬同士なら他の馬より揉まれ込んできた分、
展開的にも十分勝利を狙える」と感じていたようだ。
 
「ここを目標に、間隔を十分開けてしっかり体調整えて
出走させられたので、具合は本当に良かった」というクレモナは、
五分のスタートから中団7番手で脚をためる競馬。
 
「ここ3走スローペースでずっとかかって苦しい競馬だったが、
今回は我慢も利いていた」中で、田中学騎手のゴーサインに応えて
2周目の向正面からじわじわ進出。
下がってくる馬を避けるために一旦外に出たが、
3コーナーで再び内へと入っていった。
 
「3コーナーで内から上がっていった瞬間にオッと思った」
という長倉師の声援に応えるように、
逃げるパールプレミアとの差をみるみる詰めていった。
 
そして、4コーナー出口でスッとパールプレミアの外に出ると、
残り150mで先頭に立ち、そのまま1着でゴールを駆け抜けた。
終わって見れば3馬身差の完勝だった。
 
開業18年目の長倉師に、悲願の重賞初制覇の瞬間がついに訪れた。
 
「ゴールの瞬間はホッとしたというか嬉しいというか・・・。
あの時はそこまで実感が湧かなかったけれど、
色々みんなが声をかけてくれて、勝ったんだなぁと
気持ちがどんどん湧いてきましたね。」

 

クローズアップ

5年前の忘れ物

 
遡ること5年前の菊水賞。長倉師が手塩にかけた
1頭の牡馬がクラシックへと駒を進めた。
その名はタケマルビクター、エイシンニシパに次ぐ
2番人気の支持を受けての出走だった。
 
初タイトルへの大きな期待を持ちながらのレース、
雨が降る中、泥を跳ね上げながらタケマルビクターは
抜群の手応えで直線に向いてきた。
満を持してタケマルビクターを追い出した田中学騎手。
「いける!」と思ったその刹那、シュエットが外から並びかけてきた。
残り100mは馬体を合わせての熾烈な追い比べとなったが、
最後はこちらも初重賞制覇を狙っていた
笹田知宏騎手の執念がほんのわずかに優った。
 
ハナ差の2着。
重賞初制覇の夢が、長倉師の手からスルリとこぼれ落ちてしまった。
 
「あの差なので運かなとも思ったりして、
日に日に悔しさが倍増していったね。
重賞はもう勝てないかなと思っていた」というが、
あの日の忘れ物をクレモナと田中騎手が5年越しに届けてくれた。
 
ゴール後、珍しく田中騎手は手をあげて喜びを表現したが、
「菊水賞の2着があったからやろね。
僕が結構落ち込んでたのを見てたからかな」と笑った。
 
実は、長倉師の調教師としての開業初勝利も田中騎手の手綱だった。
そして今回の重賞初制覇。田中騎手とは何かと縁がある。

 

15歳で飛び込んだ競馬の世界

実家は姫路競馬場のすぐ近くにあり、
野里地区で喫茶店を営んでいた。
そのお客さんに元競馬関係者がいたという。
のちに師匠となる稲田礎調教師の友人だったというその方から、
「体も小さいし、ジョッキーにならないか?」
と声を掛けられたのが競馬界に足を踏み入れたきっかけだった。
 
元々血縁には競馬関係者がいない中、
長倉少年は通っていた高校を半年で辞め、
思い切って競馬の世界へと飛び込んだ。
騎手学校への入学試験を待つまでの半年間、
厩務員としての下積みをした後、騎手学校に合格。
水野貴史現調教師(浦和)や櫻井拓章現調教師(浦和)などの
同期生と共に、騎手になるための厳しい訓練を重ねた。
そして、18歳となった1990年春に騎手デビューを果たした。
 
実家から競馬場が近かったため、
レースを見に行ったことは何度もあったそうだが、
実際に競馬の世界に入ってみると、
「思っていたのと全然違った」という。
 
「入ったらもう厳しすぎて人間扱いされんかったようなことも・・・。
仕事は厳しかったけど、それ以外はなにせ色んな事が楽しかったですよ。
調教師になってからは、気を遣うことばっかりだから・・・。
今は常に馬のことを考えていて頭から離れないないけど、
当時はそんなことなかったからね」と、騎手時代を懐かしんだ。

 

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