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クローズアップ ホースマン達の勝負に懸ける熱き想い

18年目に咲いた大輪

 

最年少調教師誕生

騎手は2000年秋、28歳で引退した。
「仕事はきつくても耐えられたが、
減量はもう本当に耐えられなかった。
膝の怪我もあったし、乗り役自体は早く辞めたくて仕方なかった」
という中で、調教助手へ転身したのは自然な流れだった。
 
騎手時代に佐々木勝彦調教師の娘と結婚し、
引退時に所属していた佐々木厩舎でそのまま調教助手となった。
2年間の助手時代には、重賞4勝のミスターサックスなどを担当し、
馬づくりのノウハウを学んでいった。
 
そんな中、義父の定年が近づいていたこともあって、
調教師試験を受けることになった。
“受けさせられた”と言った方が正しいのだろうか、
「もっと助手でゆっくりしたかったんやけどね。
調教師にはなりたくなかったんやけど・・・
受かってもうた(笑)」というのが本音だそうだ。
 
調教師試験に30歳という若さで合格。
「あの時は最年少って言われていましたね。
最初は分からないことばかり」だったというが、
「昔から知っている馬主さんが馬を預けてくれたし、
若いので逆に何をやっても怒られないというか、
若いがゆえの苦労は特になかった」そうだ。
 
そして今も、「オーナーさんの馬をとにかく大事にする、
結果よりもまずは馬を大事に」をモットーに日々取り組んでいる。
 
長倉厩舎に所属する厩務員は現在4人。
「今いるメンバーは、みんな若くて
キャリア1~2年の人ばかりなので、
まだまだ仕事を教えていかないといけない。
教えようと思うとキツイことも言わないといけないし、
それを嫌がって辞めてしまった人もいるから難しい」と話す。
 
何百、何千万円という価値のあるオーナーの財産を預かっている以上、
いい加減な気持ちで接してもらっては困るし、
人間の何倍ものサイズがある生き物を扱う以上、
気を抜けば自分自身はもとより周りにも命の危険が伴うことがある。
だからこそ、指導も厳しくなって当然だ。
しかし、若い人にその想いがなかなか伝わり切らない
もどかしさも感じているようだ。
 
「馬が走るかどうかは、日々接する厩務員さんが本当に大事。
若い人がしっかり育っていったら厩舎ももっと良くなると思う。
それまで辞めずに頑張ってくれるかどうか・・・」と、
馬の育成だけではなく、“馬を一番大事に”という想いを伝えるべく、
人の育成にも心血を注いでいる。
 

クローズアップ

 

元騎手だからこそ分かる想い

 
攻め馬ができる厩務員が1人しかいないということもあり、
厩舎の馬の半分くらいは騎手に攻め馬を手伝ってもらっている。
高畑、鴨宮、大柿、竹村の各騎手が主に
長倉厩舎の調教に跨っているという。
 
「調教で乗ってくれるジョッキーには、
レースでも乗ってもらいたい」というのが長倉師の想いだ。
 
若手騎手が地道に成績を上げ、ついに迎えた大一番。
そこで有力騎手にスイッチ・・・。
競馬の世界ではよく見られる光景だし、
オーナーから乗せ替えの要望が出ることもある。
 
それでも、「頑張っている騎手を応援したいのが一番。
頑張ってくれている子には絶対にレースでも乗せたい。
自分がやられて嫌やったことはやりたくない、
自分が現役時代そうやったから。
ジョッキーの気持ちが一番分かるんよね」
と元騎手だからこその想いも吐露する。
 
「妻にはそれがあかんのや」と言われるけど・・・。(笑)

 

今後に向けて

 
最後に、長倉厩舎の目標を訊いた。
 
「預けてくださるのは、地元の馬主さんで2歳から最後まで
大事に持たれる方ばかりなので、そういう古い付き合いの人に
結果出してあげたい気持ちが強いです。」
そのためにも、まずは「2歳戦で結果を出していく」ことが目標だという。
早い段階から結果を出すことで、オーナーさんにより長く
楽しんでいただきたいということだろう。
そして、「表彰台上がったことないというオーナーさんもいるので、
一緒に立ちたい」と大きな舞台も見据えている。
 
厩舎の看板馬となったクレモナの今後も楽しみだ。
次走はオーナーと相談した結果、兵庫ダービーをパスして、
6/20(日)に行われる高知優駿(高知1900m)を目指すことになった。
「距離はちょっと長いような気もするけど、
1800mでもいいレースはできていたので、なんとか持つとは思う。
使うごとに怯まずにどんな競馬でもできるようになっている。
勝負根性もあるし、長く脚を使うレースが合う」
というクレモナの更なる飛躍にも期待したい。
 
長倉厩舎に4人いる厩務員の一人は、長倉師の長男だ。
「子供の頃から競馬に興味があるのかないのか分からなかったし、
22歳くらいまで別の仕事やっていたけど、
馬の勉強がしたいと社台に一度行ってから厩務員として戻って来た。
息子にばかりガンガン厳しく指導していたのもあってか
1年近くやったあと一回辞めたんだけど、
また半年前に厩務員に戻ってきたんですよ。」
 
将来的に助手を目指すのか、
さらに父を継いで調教師を目指そうとしているのか、
父はまだ知らないという。
 
「今回重賞を勝ったことで、家族や周りが一番喜んでくれたね。」
 
クレモナがもたらした大きな1勝は、
厩舎の結束力を高め、士気を高めることにも繋がる。
息子も、今度は自分の担当する馬で
重賞を勝ってみたいと思ったはずだ。
 
「自分の息子の担当馬で結果が出たとなれば
もっと最高だろうね」と父子タッグで目指す未来もある。
 
開業18年目に咲いた大輪。
馬を大事に、人と人との繋がりを大切に、次なるステージへと進む。

 

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文 :三宅きみひと
写真:斎藤寿一

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