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クローズアップ ホースマン達の勝負に懸ける熱き想い

ダービージョッキー誕生秘話

 
 

クローズアップ

 

ゴールの瞬間

 
菊水賞馬シェナキングが二冠を目指して粘るところへ、
2着が4度続くエイシンイナズマが迫り、
さらにスマイルサルファーが大外から強襲する。
横一線の激戦で、誰の目にも勝ち馬が分からなかった。
 
騎乗していたジョッキーたちも誰も勝利を確信できない。
真吾自身も並んでいたエイシンイナズマを捉えたのも分からなかったし、
内にいたシェナキングに至ってはまったく見えていなかった。
 
真吾はゴール後に「理さんどうですか?」
と下原騎手に訊いたが「分からん」としか返って来なかった。
 
1~2コーナー中間地点の外ラチ側に、厩務員だまりがある。
そこで観ていた誰かに馬上から訊ねても、
スマホでスローVTRで確認しながら
「う~ん、ごめん分からん(汗)」との返事。
 
モヤモヤしながら検量に向かっていくと
担当厩務員の(渡瀬師の息子)敦氏が駆け寄ってきて
『勝った!』と言われ、真吾は高々と拳を突き上げた。
 
ところが「そのときでも確信してなくて、
馬を降りてから皆んなにホンマに勝ったん?
訊いて回りましたもん」

確かに真吾は、筆者にも訊いてきた。
では、なぜ勝利をアピールするあのポーズを?
 
「とりあえずやっておこうかなと思って(笑)」
 
実はなかなかに疑り深い性格なのかも知れない…。
 
写真判定が行われている最中、後検量を終えて、
顔を洗っている最中に判定結果がアナウンスされた。
そしてそのときに冒頭の「ヤバーっ!」となる。
 
「寛(ひろ・渡瀬師の愛称)さんのところで勝てて
ホンマに良かったと思います。
厩務員の敦は幼稚園ぐらいのときから知ってるし、
学校から帰ってきたらローソンに行ってお菓子を買ってあげたり
遊んだりしてました」と懐かしさを滲ませる。
 
「寛さんとめっちゃ呑みに行きましたね。
家庭があるのに、一番呑みに行ったと思う。
落馬負傷して開催中に競馬場から出られないときに、
ずっとご飯をご馳走してくれました。
家族と一緒にご飯を食べましたし、めっちゃお世話になった。
重賞、しかもダービーを勝ててホンマに嬉しかったです。
だから勝ったとき、グッとくるものがあって
泣きそうになったんですけど、堪えましたね。
オレは泣くキャラちゃうなと(笑)」
 
デビューから9ヶ月で重賞制覇をやってのけたときの真吾も、
泣くでもなく大喜びするでもなく、あっけらかんとしていた。
だから感情自体がないのかなと思っていたけど、
この度は一応こみ上げてくるものはあったらしい。
 
「お世話になったこの厩舎で重賞を勝ててホンマに良かったです。
馬主さんとも以前から繋がりがありましたけど、
スマイルサルファーで初めて勝ててめちゃめちゃ嬉しかったです。
しかもダービーまで勝たせてもらって、すごく感謝してます」
 
渡瀬厩舎は兵庫ダービー当日、
スタッフ全員が西脇トレセンから競馬場に集結。
一丸となってスマイルサルファーの応援に詰めかけた。
 
「寛さんが『あした厩舎全員で応援に行くぞ』と言ってて、
その心意気は凄いなぁと思いました。
でもちょっと入れ込みすぎやん(笑)」
 
そんな話をしているときに、
渡瀬師から真吾にメールがあった。
 
ダービー優勝記念のブルゾン製作に関する連絡だった。
すかさず筆者も「LL」でオーダーしたが、
渡瀬師には伝わっただろうか?

 

実は緻密な戦略家

 

クローズアップ

 
持てるスタミナを無闇に消費するのではなく、
配分を考え無理な動きを極力避ける。
そしてゴールまでの逆算をして
レースを組み立てる緻密さを持っている大山真吾騎手。
 
このレースぶりは大ベテラン、
62歳の川原正一騎手にスタイルが似ている。
そう言えば、川原騎手がよく言っていた。
「真吾に負けるようやったら騎手をやめるわ」と。
 
2019、20年と真吾が川原騎手の成績を上回って
引導を渡したかに思えたが、去年はまた川原騎手が上位に。
まだまだ負けていないことを証明した。
川原騎手にとっては、違うタイプの騎手に負けようが悔しくないけど、
同じようなスタイルの騎手に後れを取ると、
負けを認めざるを得ないということなのかも知れない。
 
今回じっくりと話を訊いて、真吾を大いに見直した。
というよりただ単にこちらが見抜けていなかったのだろう。
 
ただ、およそ4時間にも及んだこのインタビューの中で、
記事として取り上げた話題のほとんどは
残りの30分ほどに集中していた。
そう、酒が進んで饒舌になっていたから。
うん、やっぱり腹を割って話すのっていいなぁ♪

 

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文 :竹之上次男
写真:斎藤寿一

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