兵庫ダービーを優勝したスマイルサルファーの次走は
8/18の黒潮盃(大井ダート2000m)とすぐに決まった。
渡瀬師にとって黒潮盃は、心に残るレースでもある。
橋本忠男厩舎時代、重賞8勝したエーシンクリアーで大井へ遠征。
「勝ち負けまでは厳しいかもしれないけど、
善戦はできる自信があった」中での8着だった。
「すごく悔しい思いをして機会があったら
また行きたいと思っていたので、
その時がついに来たって感じですね。
エーシンクリアーのおかげでもっと重賞を勝ちたいと
思うようになりましたし、そのために勉強してきましたから。」
様々なことを積み上げた8年間の成長を
今月大井でぶつけるつもりだ。
厩務員・調教師補佐時代には、黒潮盃だけではなく、
様々な遠征競馬を経験したことで考え方が変わっていったという。
「遠征先で、他の厩務員さんと交流する中で、
飼い葉とか調教とか分からない事を訊いたら教えてもらえます。
重賞に出てくる厩務員さんは達者な人ばかりなので、
かなり勉強になりましたね。」
他地区の優秀な人と意見交換をして知識が増え、
経験を積むことで大舞台にも動じない精神力が身につくのだ。
遠征での経験を積めば積むほど、どんどん馬も人も育っていく、
それが渡瀬師の考えだ。
黒潮盃を使うことで、「9~10時間かかる輸送で精神面が鍛えられます。
あと、大井は1コーナーまでの流れが速いので、
それについていった後で使う最後の脚が磨かれます」と、
馬の強化に繋がる。
また、「普段馬って厩務員しか頼れないんですよね。
その厩務員がオドオドしていたら絶対馬にも伝わるので、
色んな環境で仕事をしてどこ行っても落ち着いてレースに
臨めるようになることが大事なんです」
と遠征によって人も磨かれていくのだ。
「もっと上目指したい、JRAも含めてもっと華やかな舞台に行きたい。
遠征に行かない事には何も始まらないですから」
と常に貪欲な姿勢を見せている。
今、渡瀬厩舎には4人の厩務員がいる。
以前在籍したベテラン厩務員の移籍もあって、
今は最年長が27歳で、ほかはみんな23歳以下という若手ばかり。
その中に息子の敦さんもいる。
「今回のダービーはチームで戦うということを意識しました」
と初めて厩舎スタッフ全員が園田競馬場へ応援に駆け付け、
松野オーナーの勝負服に使われている青と水色のネクタイを
皆で着けてレースに臨んだ。
「厩舎一丸となって臨んだ分のハナ差かなと思う」
とチーム一丸でもぎ取ったダービーだった。
ダービーの後、厩舎でお祝いのBBQをやり、
記念グッズを作り、さらに休みを作って
皆でUSJへ優勝旅行にも行ったそうだ。
「『ダービーを獲ったんで、なんかあるんですか?』って、
みんなお金を使わせようとばっかりするんですよ(笑)
でも、大きい所を勝ったらこういうことがあるんだと、
今後のモチベーションに繋がってくれたら」
とダービートレーナーの大盤振る舞いで、
厩舎の士気が上がったことは間違いないだろう。
渡瀬厩舎には、厩務員全員が自分で馬に
乗ることができるという強みがある。
騎手に追い切りを依頼することもあるが、
「基本的に自分で乗れ」と渡瀬師は言っているそうだ。
「常に馬の気持ちになって考えなさい」と
“馬ファースト”を厩舎のポリシーとして掲げる中で、
自分で毎日乗ることによって馬の状態を詳細に把握でき、
しっかりと馬のことを考えられるというのだ。
そして、渡瀬師は調教にもこだわりを持っている。
「調教でしっかり馬に負荷をかけることは意識していますね。
馬へ負荷は人のしんどさと比例すると思っているので、
楽乗りは許さないです。
人がフゥフゥ言っていたら馬にも負荷がかかっている証拠なので」
と、人がしんどい思いをしてこそ、
馬にいい負荷がかけられるという信念だ。
40歳は調教師としては若手の部類だが、
20代の若い厩務員とは少なからず
ジェネレーションギャップが存在する。
そんな若者たちと渡瀬師を繋ぐ役目は息子の敦さんが担っており、
「息子に対してだからきつく言えることもあるし、
息子を通して他の厩務員の考えが伝えられることもある」という。
今、敦さんは父を追って「調教師を目指したい」
という夢を持ち始めたようで、
スマイルサルファーを通して経験し成長する姿を、
師匠でもある父は厳しくも温かい目で見つめている。
今年はダービーこそ勝ったが、
上半期の勝利数が13勝と伸び悩んだ。
一昨年の年間45勝がキャリアハイだから思わぬ失速である。
「理由は色々とあるんですが不甲斐ないですね。
でも後半戦は頑張ります!」
そう取材で話した週に3日で4勝と固め勝ちをして、
巻き返す態勢は整った。ダービー勝利が大きな潮目になったはずだ。
「若い厩務員の成長が進めばまた変わってくるだろうな
という節もありますが、人を育てるのは大変ですね。
調教師になって数年は自分のことに必死でしたけど、
重賞も勝って余裕も出てきて、今新たな壁に差し掛かったところですね。
これを超えたらまたガツンと来ると思っています。」
若いスタッフばかりの厩舎に、
この秋さらに若い乗り役が加わる予定だ。
「一度ジョッキーを育ててみたいというのもあった」という思いから、
青海大樹(おおみだいき)騎手候補生を預かっており、
騎手免許試験に合格すれば今年10月にデビューを迎えることになる。
さらにヤングマンパワーが加わる渡瀬厩舎の今後の目標は、
「まず成績としてはトップ10に絶対入りたいですし、
そこにずっといられるように。
それだけの馬を預からせて貰ってるんで」と話す。
「やっぱり重賞は格別ですね。
そしてグレードレースやJRAでも勝ちたいですね。
ゆくゆくはコスモバルクみたいに海外も行ってみたい
という思いがあるんですよ。
例えば、全日本2歳優駿を勝てばドバイ(UAEダービー)に
だって行けますからね」
と、常に目標を高く設定し、
自分にノルマを課してモチベーションを上げる渡瀬寛彰調教師。
若きチャレンジャーは、
飽くなき探求心で輝かしい未来を切り拓いていく。