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クローズアップ ホースマン達の勝負に懸ける熱き想い

紆余曲折を経て見つけた場所

 

 

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4年前との比較

以前に取材したのが2017年。
当時は言葉に出来なかったところが多かった。
上手く表現できなかった。
なぜ勝っているのが分からないといった風情だった。
 
当時との違いを訊くと
「そうですね、道中で我慢ができるようになったり、
周りがよく見えたり余裕が出ましたね。
4年前と比較しても断然違うと思います」と自己分析する。
 
「それから、スタートも良くなったかな。
園田競馬は発馬が命だと思っています。
発馬さえ決められれば、全部組み立てられる。楽チンに」
 
レースの組み立ての巧さも心得てきた。
経験すればするほど、上達したという。
 
「騎手にとって経験値はデカいですね」と、
これまでの苦労が無駄ではなかったことを実感している。
 
その後にケガで戦列を離れたときも、
復帰してから乗り馬がすぐに戻って来た。
信頼を勝ち得たこと、上位の騎手として誰からも
認識されたことの証明だった。
 
「いまでも一頭ずつを大事にしている。
乗り馬の少なかった昔があるので、
しっかり乗ろうという思いが常にあります」
とレースに対する誠実さが広瀬のウリだ。
 
調教は、午前0時から乗っている。
苦しかったころも早かったが、
さらに年々早くなっているらしい。
重賞を勝った次の日も、馬場に入るのが一人目だったそうだ。
 
「これで正しいのか、
重賞勝った次の日やぞ、と思いましたよ(笑)。
勝ったあとは寝られなくて、ご飯も喉を通らなかったんです。
前日は普通に眠れたのに、
終わってからの方がなぜかキツかったです」
 
プレッシャーから解放され、
晴れやかな気持ちになるかと思いきや、
長年の苦労がそうさせるのか、
大役を果たした事実を上手く受け入れられない。
気が付けば仕事場に一番乗りしていた。
 
インタビューのときの、
涙ではない大汗の訳はこういうことだったのだ。
 
「ぼくらの仕事は、調教に行きたくなけりゃ
行かなくてもいいんです。
ぼくの場合は乗れない時期が長すぎて不安があるんです。
乗っておかないと怖い…。
自厩舎の馬をこなすことはもちろん、
12頭を捌いて、さらに他厩舎の12頭に乗って
全部で24頭ほどに乗っています。
新人よりも乗ってますよ(笑)」
と明るく言うが、並大抵のことではない。
 
11時40分起きで、0時から8時までの調教。
そのあとに本番のレースが待っている。
恐ろしいほど労働時間が長く、
ハードで危険も付きまとう仕事だ。
 
「これをやり続けたらからと言って出世できるとは限らない。
だから誰にも勧めません。
使う方にとってもたぶん、ぼくはちょうどいいんですよ。
それなりのキャリアと技術があってすべてにおいて
ちょうどいいんでしょ」
 
明るく話す広瀬に疲労感も悲壮感もなく、
仕事自体を楽しんでいる様子が窺える。
ますますワタルさん人気に拍車がかかりそうだ。

 

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ガリバーストームと歩む重賞ロード

ガリバーストームは最初はそれほど注目度は高くなかったらしい。
ところが「発走検査のあとの能力検査で、
余裕で古馬について行ったんです。
そこでこれは走るかもしれないなと思っていたら、
その能力通り新馬戦でも大差勝ちしたんです」
とにわかに関係者がざわつき始めた。
 
新馬勝ち後に尾林師に話を伺うと
「いい馬が当たりました」
と思っていた以上に走ったという口ぶり。
例えるなら「今年の阪神の助っ人外国人、
当たりやったなぁ」ぐらいの感じだった。
 
「乗り味が決して良い方ではないんですよ。
硬い感じの走りで、不安になることがある。
トビが大きいからスピード感を得られないのかも知れないですね」
 
走る馬が必ずしも乗り味が良いかというと
そうでもないというのを、トップジョッキーからも
よく聞く話。広瀬も同馬のことをそのように感じていた。
 
「ただ、今回は返し馬でめちゃめちゃ良くて、
ぶっちぎるんじゃないかなと思うぐらいでした」
と、状態には絶対の自信も持っていた。
 
実際のレースでは接戦となった。
「せっかく突き放した相手がまた迫ってきた。
それでも凌いだ。勝ったことが大きいですよね」
 
「馬の力を信じて乗りました」
とよく騎手たちから聞く言葉だが、
そう言える馬に乗ることができる立場に立ったことが
何より素晴らしい。
そこへようやく至ったベテラン広瀬航。
自ら築き上げて辿り着いた境地だ。
 
「尾林先生の馬に乗ることは、
みんなスキルアップに繋がると思う。
求められることが多いですから」。
元1000勝騎手の尾林師、さすがに厳しい。
 
「よく分かっていますよね。
少し下手に乗ってしまったと感じたら、絶対怒られる。
それぐらい細かいところまで、
キッチリ見られていて指摘される。
毎回いい緊張感がありますよ」
と、ここでも厳しさをポジティブに捉える。
 
いまでは尾林厩舎の主戦を務めるほど騎乗依頼が多い。
その始めは自ら営業に行って開拓した。
下積みが長かっただけに、頭を下げることは苦にならなかった。
 
尾林師にとっても、開業16年目にしての嬉しい初重賞制覇。
ガリバーストームは次走で『兵庫ジュニアグランプリ(JpnⅡ)』
に挑戦する。
そして年末の『園田ジュニアカップ』や
来年の3歳馬の重賞戦線へと向かう。期待は膨らむばかりだ。

 

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見えてきた年間100勝

10月終了時点で85勝をマーク。
キャリアハイ更新は間違いなく、
それどころか年間100勝にも手が届きそうな勢いだ。
 
「年間100勝というのは凄く意識しています。
100勝ですよ!!
若いころは考えたことなかったですもん。
重賞は巡り会わせが大きいと思いますけど、
100勝はそう簡単にできるものではないですから」。
決してフロックではない地道な積み重ね。
上位の5人ほどしか辿りつけない領域にいよいよ足を踏み入れる。
 
もちろん、重賞を勝てたことは大きい。
念願の重賞制覇を達成して、さらにキャリアに厚みが増す。
 
「でも、ひとつだけ寂しい気持ちもあります。
泣いたり喚いたりして、勝った喜びを発散できるのは
一度だけですから。次も同じことやったらアホですね(笑)」
 
いや、ワタルさんだったら、何度喚いても、
何度泣いても周りは受け入れてくれると思うから、
そんなシーンが度々訪れることを期待する。
 
「人気になるような馬に乗れるようになったんやと
いまでも思いますもんね。
いちいち感動してます。
ありがたいなぁと。乗ったら乗ったで気負い過ぎますけど(笑)」
 
おそらく年間100勝を達成した喜びは、
既に想像して涙ぐんでいることだろう。
さて、その次に何を想像して泣くのか?
まだまだ登り詰める先はいくらでもあるよ、ワタルさん♪

 
 

文 :竹之上次男
写真:斎藤寿一

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