新子師にとっては、タガノジンガロ、
エイシンヴァラー、エイシンバランサーに続く、
4度目のダートグレード勝利となった。
「理想は逃げた馬の後ろで競馬をして
直線抜け出すイメージでした」とまさに戦前に
描いていた通りのレース展開で、
「3コーナー過ぎくらいで勝てると思った」という。
黒船賞の勝利は2018年のエイシンヴァラーに次いで2度目。
当時は雨の不良馬場というコンディションの中、
3頭の接戦をものにし、単勝23,430円という
高配当を演出しての勝利だった。
「ヴァラーの時も自信はありましたけど、
今回みたいな『勝ちにいくぞ!』という感じではなかった。
馬の状態は良かったのと、雨が降ってくれたので
それも合うかなという感じでした。」
今回のイグナイターについては、
「勝つのはいつでも嬉しいですけど、
グレードとなるとなかなか勝てるレースではないので。
自信を持って調教から馬を作って、
いい状態で挑めて勝てたというのは今後の自信になりますね」
と、仕上げから輸送、そしてレースに至るまで
会心の勝利だったことがうかがえる。
イグナイターは、現役時代にダートG1を9勝した
エスポワールシチーの子供だ。
3歳時に重賞5勝したステラモナーク、
若草賞勝ちのパールプレミア、
今年重賞2勝し菊水賞最有力と目される
バウチェイサーがいて、これら全て新子厩舎に
所属するエスポワールシチー産駒だ。
「エスポ産駒を多くやらせていただいていて、
その特性を自分なりに掴めてきていて、全部重賞を勝てている。
牡馬牝馬で違いはありますが、だいぶ良く似たところがある。
具体的には、気が良いところと、
あまり我慢させすぎるとイライラしてくるところ。
調教でもフワッと乗ってあげると
リラックスして(レースに)行けるというのがある。」
イグナイターについても、
「馬の気性面が成長したというよりは、
上手く馬の特性を理解して、レースで良い面が出るように
うまく調整できている」と話す。
言葉で書くのは簡単だが、日々の馬の状態を見ながら、
馬の気性面を微妙なさじ加減でコントロールして
レースで全能力を発揮させるのは簡単なことではない。
それをきっちりやってのける新子厩舎はやはりすごい。
さらに、1歳年下のエスポワールシチー産駒も、
ダートグレードを狙える素材だ。
バウチェイサーが菊水賞→兵庫チャンピオンシップ→
兵庫ダービーと続く「兵庫三冠」に挑む。
毎年兵庫ダービーを見据えて有力馬が回避することも
多い兵庫チャンピオンシップも「狙います!」と明言した。
菊水賞も目一杯には仕上げず、
兵庫チャンピオンシップにターゲットを絞っているようだ。
「気性面であったり、体の使い方であったり、
まだまだ幼いのでその辺がしっかりしてくれば」
と伸びしろもまだまだあるという。
新子厩舎は、イグナイターとバウチェイサーの2頭で、
さらなるダートグレード優勝を狙う。
普段イグナイターを担当する武田裕次厩務員は、
今回の黒船賞でダートグレード初優勝。
新子厩舎の開業からずっと屋台骨を支える腕利きの厩務員で、
重賞はなんと23勝目となった。
2013年菊水賞を勝利し、
厩舎初の重賞ウイナーとなったユメノアトサキをはじめ、
アクロマティック、シュエットを担当。
近年では、兵庫生え抜きの重賞5勝馬ナチュラリーや、
金沢で悲運の死を遂げたタガノゴールドも手掛けた。
そんなたくさんのタイトルホースと接してきた
武田厩務員でさえ、初めてイグナイターを見た時には、
「すごい体!本当に3歳?中央の古馬オープンと言われても
不思議ではないくらいの体、ケタが違う」と驚いた。
その後、一時体が萎んでしまった時期があったというが、
兵庫で2,3走するごとに良くなっていったという。
昨年楠賞を圧勝したが、
その頃はまだまだ良化途上だったそうで、
「ゴールドトロフィーの時もよしっと思いつつも
思ったほど絞れていなかったし、
自信を持って仕上がったのは黒潮スプリントカップぐらい
からですね」と語った。
昨年は良化途上ながら圧巻のパフォーマンスを
披露していたことになる。
気になる部分をしっかりケアしながら、
次なる戦いへ向けて、日々イグナイターの世話をする
武田厩務員にイグナイターの印象を聞いた。
「性格は、最初まだまだ子供っぽいなと・・・
ん~今もあんまり変わらないかな。
とにかくすごく力が強いんですよ。
えげつないんですよ、味わったことがないくらい。
周りはみんな知ってますが、僕はいつも引きずられて
ジェットスキーみたいになってます(苦笑)」
並大抵のパワーではないらしい。
「我は強いし、かわいいタイプじゃないです・・・」
と笑った。
新子師は、黒船賞優勝直後には、
「次走は地元の1700m戦、かきつばた記念、
東京スプリント、この辺りを視野にオーナーと相談したい」
と話していた。
「地元勝負なら1700mでも、ジンギ相手でも
折り合いがつけば良い勝負できる」と2年連続年度代表馬に
輝いた看板馬を引き合いに出すくらい実力には自信がある。
しかし、「現実的な目標は年末の兵庫ゴールドトロフィー優勝」
ということで、それに向けてローテーションを
組んでいくことになった。
引き続き1400m戦線を歩むということで、
次走予定は新名古屋競馬場1500mのかきつばた記念
と決まった。距離延長も「100m位なら問題ない」とのことだ。
「今年いっぱいは1400m路線で行って、
来年は南関東に挑戦したい。」と現実的な夢を語った。
来年は、「東京スプリント、東京盃、JBCスプリント(大井)」
と1200m戦線を歩み、G1制覇を目論んでいる。
実は、黒船賞優勝直後に取材をした際に、
近くにいた鴨宮騎手から「来年のサウジはどうですか?」
と水を向けられ、「ゴールドトロフィーに勝てたら
選ばれる可能性あるよね。
ドバイと違って完全招待だから費用もかからないしね。」
と新子師はサウジアラビア遠征についても
まんざらでもない様子だった。
もちろんオーナーの意向が最優先とはなるが、
コパノキッキング、ダンシングプリンスと日本馬が
2年連続で優勝したリヤド・ダートスプリント(G3)も、
来年の選択肢の一つとなる可能性がある。
兵庫から海外へ、そしてG1へと広がる大きな夢。
イグナイターとは「点火薬」のこと。
兵庫が誇る新時代のエースが打ち上げる
“満開の夢花火”にこれからも期待しよう。