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クローズアップ ホースマン達の勝負に懸ける熱き想い
03夢を目標にかえる男 新子雅司

新子雅司

職人軍団のチーム力を武器に

人間、勢いに乗ったときは、いい顔をしているものだ。端正な顔立ちに黒いスーツが似合っている。
取材のための正装かと思っていたら、そうではなかった。レースのある日はいつもスーツを着用する。
競馬関係者にふさわしい服装、勝負の場に臨むマナーを守っているにすぎない。
これも角居厩舎の研修で身につけた心構えのひとつだ。

 厩舎が成長を続けている要因をたずねると、第一に馬主さんに恵まれている点、第二にスタッフとの結束力を挙げた。

「ぼくが感じているのはスタッフのレベルがどんどん上がっている点です。技術も意識もね。
つまり、チームとして成長しているのが大きい。
スタッフが一番困ることというのは、厩舎内でコミュニケーションがとれてないことだと思うんです。
それぞれの思いや考えを伝えたけれども全然聞いてくれないのが、スタッフが一番困る。
だから、ぼくはなるべくみんなの意見を尊重しますし、ぼくの考えも言います」

一見クールにみえる新子だが、自分の仕事の本質を見失わず、締めるところは締め、
リーダーに不可欠な骨太の包容力も備えているようだ。そんなところにスタッフとの信頼関係も深まるのだろう。

タガノジンガロを筆頭に、移籍馬再生能力は周囲も認めるところ。
その秘訣をたずねると「移籍馬の結果を出せるのが厩舎力でしょ」とさらっと言ってのける。
強気な発言、自身に満ちたコメントは彼の持ち味でもある。
「やってることに自信があるというよりも、厩舎で一番大事なのはスタッフの力ですから。いい馬を入れても
スタッフがダメなら走らないですし。その点、ぼくのところは充実したメンバーが揃っていると思うんです。
そこから生まれる自信ですよね。逆に、ぼくが弱気な発言をすると、頑張ってくれているスタッフに失礼だと思うんです」

あえて強気な発言をすることで自分自身とスタッフを鼓舞する手法は、サッカー日本代表の本田圭祐選手を思い起こさせる。
「個」の力を高めるために自信に満ちた発言をくりかえす本田とどこか似ていて、
ともに求道者の厳しさを内包しているように思えるのである。
と同時に、馬を鍛え強く育てあげる厩舎の連携作業というのは、サッカーと同じチームスポーツのようなものだと感じた。

真のプロフェッショナルをめざして

ところで、移籍馬再生もいいが、新子厩舎でデビューした新馬がたくましく出世していく姿を見たいと
ファンも期待していることだろう。

 「馬主さんともそういう話をしています。実はうちの厩舎、開業してから新馬戦で連対をハズしたことないんです。
3頭でしたけど、2勝2着1回という成績。うちは意外に2歳戦も強いんですよ」と胸を張る。
彼の思い描くビジョンはハッキリしている。「兵庫デビュー馬で『兵庫ジュニアグランプリ』を勝って、
『全日本2歳優駿』を制して、JRAの『ヒヤシンスS』を勝つ。そしてドバイへ。
実際その路線がドバイへの選定レースですからね」

根拠のないただのビッグマウスではなく、大いなる実現性を信じて計画を立てている姿勢がたのもしい。

今年は70勝をめざしている。ひと月6勝ペースでいけば達成可能な目標設定だそうだ。
昨年は50を目標にして、終わってみれば61勝。70を目標に置いたとすれば80勝に手が届くのではないか。
80いけばトップを争いに食い込んでいける。
 好漢、新子雅司。調教師人生のレースはまだゲートを出たばかりだ。リーディングの、その先を見据えた夢に向かって、
新子の流儀で新子の考えるプロフェッショナルをめざしてほしいものだ。

文 大山健輔
写真 斎藤寿一

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