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クローズアップ ホースマン達の勝負に懸ける熱き想い

頂点を見据え駆けのぼる、若き調教師のプライド。/諏訪貴正 調教師

PROFILE

諏訪 貴正(すわ たかまさ)調教師
1972年9月19日 大阪府出身

龍谷大学卒業後、北海道の育成牧場に就職。

その後、笠松競馬の厩務員を経て、
1999年に兵庫県競馬の厩務員に。
2013年5月に開業。
6戦目で初勝利を挙げている。

今年はこれまでの年間最多勝利数の23を、
8月末時点ですでにクリアするほどの好調ぶり。
とくに2歳馬のブレイヴコールが
デビュー3連勝とし、
重賞路線での活躍が期待される。

趣味は楽しくお酒を飲むこと。
家族構成は妻、二女。

●ホームページ
http://suwa.p-kit.com/
●Facebookページ
https://ja-jp.facebook.com/takamasa.suwa

写真

厩舎全体を巨視的にとらえる――

諏訪厩舎が一番大事にしていること、厩舎運営のポリシーとは――?
「調教師がいい馬を探してくるのも大事ですけど、厩舎っていかに優秀なスタッフを集められるか、
気持ちよく仕事をしてもらえるかなんです。一番はぼくを含めたスタッフ全員での話し合いですね」

スタッフ構成の面では、ベテラン厩務員を軸に充実したチームを組めているのが諏訪厩舎の特徴だ。
ここの意見を尊重し、仕事のしやすい雰囲気づくりに努め、風通しのよい人間関係を心がけている。
「伸びざかりの山田(雄大)騎手に結構調教を手伝ってもらってるんですけど、
彼を含めいろいろ意見交換したりね。山田とは競馬全般についても本音で話し合えるんで指示もしやすい。
先ほど馬のレベルが向上してきたと言いましたけど、ここにきてスタッフもジョッキーも揃って
厩舎のカタチが出来てきたかなと思っています」

石の上にも3年というが、3年の歳月に積みあげてきたものがようやくカタチとして見えてきた。
「まだ完全じゃないですけど、だいぶ理想に近づいてきた」と感じはじめている。

ブレイヴコールともう1頭、2歳牝馬キューティハーバーも自信をもって送り出した馬だが、
どちらも1歳から目をつけてここまで期待どおりに力を付けてきた、これからが楽しみな馬だ。
「ぼくらは原石を見つけだすところからはじめられる。
あらためて仕事の面白さを感じましたね」と調教師という仕事の魅力を強調する。

厩舎経営者は馬のことだけに目を向けていればいいというわけではない。営業面や人材育成など
運営すべての重責を負うのだから大変なのだが、それらを含め「ムチャクチャやり甲斐がある」と。
「それがあったから人として成長できたと思います。いろんな責任感とかが出てきてね。
厩務員時代は甘えた部分があったと思うけど、もう自分がやるしかないので」。
馬だけを見るのではなく、厩舎全体を巨視的にとらえる経営者としての手腕、そこに妙味があるのだ。

諏訪厩舎の基本方針は「馬第一主義」である。
「だから、馬を愛してくれるオーナーさんなら満足してもらえると思ってます。
うちは馬に無理はさせないし、他の厩舎と比べて故障率は低いと思う。
ケガする率とかもね。そこが逆に課題でもあって、攻めきれない部分もひょっとしたらあるのかなと
思ってます」。馬に無理はさせない反面、調教時の攻めが甘くなるというジレンマ。
これは調教師がかかえる重いテーマなのかもしれないが、「馬は壊したくないですから……」と
諏訪師は愛情路線を押し通している。

ビジョンは何か、と訊くと「トップに立つような馬、ファンに愛される馬を出したい」と答えた。
イメージするのはオオエライジン。
「園田でデビューしてあれだけファンに愛された馬。ぼくのなかでは、やっぱり憧れの馬です」

 

見据える先は2歳馬の頂点

弁舌さわやかで人当たりがいい。よく気のつく有能な営業マンといった感じで、
従来の職人然とした調教師のイメージとはかけはなれている。
人としゃべるのが大好きで呼ばれたらどこへでもすぐ顔を出す、
というからフットワークも良さそうである。

「スタッフにはもっと厳しくしなきゃあかんのかな、と思いながら厳しくなりきれない。
そこは反省すべき点かな……」と、課題をもうひとつ口にした。
「自分が厩務員だったときは指示されるのが嫌でしたしね。自分がそうだったから余計にね……」

人との関係において気遣い、遠慮を大事にしているこの人に非情さは似合わない。
諏訪師にすれば、厩舎のムードを壊したくないという配慮もある。
まだ開業4年目、完成形をめざしいまは地固めの時期なのだから、これくらいの課題があって
当然かもしれない。

デビューから3戦3勝のブレイヴコールを見つけたのは俺だ、という自負が諏訪師にはあるだろう。
あって当然だ。もともと競馬大好き人間で、牧場での育成経験があるからといって、
そうたやすく馬を見る目が養えるとも思えない。相馬眼はどのようにして培ってきたのか。

「セリ場に行くようになって今年で4年目ですけど、ひたすら馬を見る。
それを繰り返し眼を鍛錬してきました」

信頼できる目利き(牧場関係者)に指導を仰ぎ、相馬眼を養ってきたという諏訪師。
ある意味、自分の眼に狂いはないと信じなければ、見巧者の群がるセリ場で“光る原石”は見つけられない
のである。その意味では諏訪師の炯眼(けいがん)をブレイヴコールが証明したことになる。

「ただ、これ一発で終わらないようにね。今年も新馬3頭ぐらい買っていいと言われてるんで、
1歳馬をね。来年のデビュー馬を、なんとか“光る原石”を見つけたい」

今年はブレイヴコールで重賞をめざす、と力強く宣言する。
兵庫若駒賞(10月27日)~兵庫ジュニアグランプリ(11月23日)~
園田ジュニアカップ(12月31日)とつづく道筋は出来た。

「今年の最終目標はジュニアカップです!」
見据える先は2歳馬の頂点。今年の終盤戦は、諏訪貴正の未来を占ううえでも重要なカギとなる。

 

文 :大山健輔
写真:斎藤寿一

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