164戦26勝(重賞1勝を含む)、勝率15.9%。
これは中田貴士が遠征先の高知競馬(6月5日~9月5日)であげた成績である。
遠征すること自体、彼にとってははじめての経験で、
しかもわずか3ヵ月間でこれだけめざましい好成績を残し園田に戻ってきた。
中田はデビュー9年目だが、これまで8年間のキャリアハイは20勝(2011年)、
ここ数年はランキング20位台にとどまり、年間20勝に届いていない。
それを考えると、高知での活躍は目をみはるものがある。
好成績につながった要因はどこにあるのか――。
「そうですね、一番は園田で乗ってきた経験がすべて向こうで活きました」と端的な答えが返ってきた。
「園田って展開が読めないですし、騎手はそれを読もうとしてみんな動きが烈(はげ)しいんです。
馬群がバラけることが一切なくてギュッと詰まった状態。
そういうなかでいろいろ考えてこれまで乗ってきたんで…。
その点、高知はまわりがすごく見やすかった」
高知の競馬はレースの流れがスムーズで、そのなかで強い馬が前で残るというのが特徴であるらしい。
一方、園田は馬群を固め、機をうかがいながら直線まで力をためて、いかに自分の馬をラクさせて乗るか、
駆け引きの応酬がレースの妙味をつくっているといえる。
レースの流れ、展開に騎手の技量がためされる競馬なのだ。
どちらのテクニックが上ということではなく、それぞれ異なった特色をもっている。
「レースの流れがまったくちがったので、それをうまく活かせたと思います。
園田の乗り方を高知でつづけた結果、うまくハマったかなと」。
これまで園田で揉まれてきた経験が高知で活かせた、と中田は分析する。
「うまくハマった」要因がもう1つある。遠征初日にいきなり2勝したことが周囲にインパクトを与えたのである。
「人気薄の馬だったんですが一番後ろから差し切ったんで、まわりの見方が変わりましたね」。
あいさつ代わりの初日2勝は強烈な印象だったようで、次の週からいい馬に騎乗するチャンスが
めぐってきた。
7月24日の重賞競走『トレノ賞』では、5番人気のメイショウツチヤマに騎乗。
「本命対抗が先頭と二番手でやり合う形になったんで、その後ろでじっと我慢してて、直線で差し切れた。
ドンピシャの展開になったって感じでしたね」。
彼にとっての初の重賞制覇も、園田で学んだ我慢の競馬で勝利を呼びこむことができた。
遠征経験から得た手応えは「レースで俊敏に反応できる感覚的なもの」として彼のなかに蓄積されているようだが、園田での騎乗回数に恵まれない中田にそれを発揮するチャンスが少ないのは残念だ。
高知でのお手柄が園田で評価されることも一切ないという。
「よそでやったことなんで関係ないですよね。
ぼく個人も向こうでいい経験をさせてもらいステップアップできたというだけで、
それを今後ぼくがどう活かせるかということだと思う」と、中田自身は冷静に受けとめている。
そんな中、高知でつかんだ手応えを園田に戻って表現できたと感じるレースがあった。
9月28日に騎乗したマグリット(6番人気)で勝ったレースだ。
「あのときは自分のレースをしました」と、自らのステップアップを証明する満足のいく内容だったという。
「ペースの速い流れにのっていたのが、その流れにのらずじっと力をためて、
まわりに惑わされず自分のペースで乗れた」と満足げに振り返る。
「ただ、ぼくらみたいな結果をだしてない者がそれをしてレースをダメにしてしまうと、
評価がとんでもなく下がる。むずかしいとこなんです。
でも、そこは肚(はら)をくくってやっていこうかなと思ってます」
トップジョッキーなら「お前がそう判断したのなら仕方ない」と言われるところだが、
そうでない騎手は叱責をうけることになる。
しかし、結果をおそれず覚悟をきめて自分の考えたレースを押し通したい、
というあたりに中田の成長がうかがえる。
外界の水を飲んでひとまわり大きくなって戻ってきた男のたくましさを感じる。