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クローズアップ ホースマン達の勝負に懸ける熱き想い

開拓精神「とにかくやってみる」を貫く。/盛本信春 調教師

PROFILE

盛本 信春(もりもと のぶはる)
調教師
1974年8月2日、大阪府生まれ。
 
20歳のときに競馬を初めて観て、
この職業に憧れを抱く。
 
愛知県の乗馬センターを経て、
園田競馬場の故・久野進一調教師のもとで
厩務員として従事する。
 
2009年に調教師となり、
翌10年に開業した。
 
今年はキャリアハイの活躍を見せ、
すでに70勝を突破。
次代を担う若手調教師として
期待が集まる。
 
所属する小山裕也騎手が、
デビューから3年半でようやく
減量騎手を卒業。
今後の弟子の育成にも力を込める。

写真

20年の下積みを経て、いま上昇気流に――。

 終盤を迎えたリーディングトレーナー戦線――今年も新子厩舎で決まり、というのが衆目の一致するところだろう。
100勝に到達した昨年につづき、今年はすでに110勝(12月16日現在)を挙げ、2年連続リーディングは揺るがない。
それほどに新子厩舎の存在はとび抜けている。そこでクローズアップされるのは2位争いである。
田中範雄調教師に僅差でつけているのが開業7年目の盛本調教師。
昨年は58勝(キャリアハイ)で5位だったのが、今年はひと皮むけた感のある堂々たる躍進ぶりですでに74勝をマークしている。
 
 盛本厩舎が開業以来つねに目標にしてきたのが「前年以上の成績を残す」ということだった。
「去年58勝して今年はどうかなというところがあったんですが、いまのところ順調にきてますね」と、
年間を通しての好調ぶりをアピールする。
 
 新子厩舎を抜きにすれば、70勝ラインというのはリーディングを争える立派な成績だが、
考え方や意識の面で昨年までとのちがいはあるのだろうか。
 
「これまでも厩務員には勝ち気を意識させて普段から調教してるんですけど、それがさらに勝ち意識が高まり、勝つことによって馬主さんからもたくさん馬を入れていただけている。そこがうまく機能していると思いますね」
 
 今年はランドクイーン(牝6)で二つの重賞(園田FCスプリント、園田チャレンジカップ)を手にした。
この馬の魅力はなんといってもそのスピードだという。
「スピードだけやったら、いまの園田では負けないんとちがいますかね。
身体も牝馬やのに華奢な感じがないでしょ。パンと張ってますもんね」。
筋肉の付きのよさは父・サウスヴィグラス譲りの血統的なもの。鋭い先行ぶりに厩舎サイドが驚くほどだという。
 
 下級条件から7連勝で準オープンまで上がってきたウインピアチェーレ(牡3)はネットオークションで落札した馬。
この馬にかぎらず、オークション購入馬は金額からすべてを馬主から任されているのでそのぶんプレッシャーもあり、やり甲斐も感じている。
「ここまで連勝が伸ばせるとは思ってなかったですね。これなら納得して馬主さんにたのしんでいただけるかな、と思ってます」。
 
 盛本師は、もともと馬に関してはまったくの門外漢だった。
 
 大阪で生まれ、高校を卒業してからしばらく製菓会社の配達の仕事をしていた。馬に興味をもったのはハタチのころ。
競馬場(JRA)にふらっと遊びにいったとき「あっ、この仕事いいな」と感じたのが最初だった。
すぐさま愛知にあった牧場兼乗馬クラブのような施設に勤め、とりあえず馬の世界への入り口を見つける。
競馬初体験から即行動に移す直感力のたしかさが盛本師には備わっているようだ。
その後、園田の久野厩舎に厩務員として入門が許された。
以後、久野厩舎ひと筋、右も左もわからない競馬の世界で日々努力を重ね、入門から20年たった2009年に調教師免許を取得した。
 
 20年にわたる厩務員生活で「馬の勝つたのしさと難しさというのはよくわかってたつもりなので、厩舎を持ったとしてもそう簡単に勝ち鞍は増やせないだろうと覚悟はきめてました」。
行動力と直感力で道を決め20年の下積みを経て、いま上昇気流の中にいる盛本信春は、徒手空拳(としゅくうけん)から叩きあげた調教師だといえる。

 

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 今年の好調を支えるいくつかの要因を明かしてくれた。
 
「いっとき2着ばっかりのときがあって、2着の多い厩舎やったんです。それを変えられたらなと、2、3年前にふと思って……」。
そこから飼料内容や調教法の見直しがはじまったという。
 
「とにかくいいと思ったことはやる。やってみないとわからないですから。カイバを変えるのは怖かったですけどね。
2着が多かったことと厩務員が戸惑ってる時期があったりして思いきってカイバを変えた。それがいまのところはうまくつながってるかなとは思います」
 
 高知競馬のトップトレーナー雑賀正光調教師が園田に来たときに指導を仰いだこともあったようだ。
「同じ世界でやってる者同士、訊いても教えてもらえないと思うんです。
雑賀さんくらいになると、そこは余裕で、こっちとはレベルがちがうんで……いろいろ細かいことを訊いたりしました。
雑賀さんとか、名古屋の川西調教師とか、そういうトップトレーナーと話をしていると刺激を受けますね。
何か掴むものが必ずありますから」。人との出会いを大事にする盛本師の“学びの流儀”といえるかもしれない。

 

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