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クローズアップ ホースマン達の勝負に懸ける熱き想い

苦節15年を乗り越え、見えてきたもの。/広瀬 航 騎手

PROFILE

広瀬 航(ひろせ わたる)騎手
1984年3月22日、大阪府生まれ。
 
板野騎手、竹村騎手の同期として
2001年4月にデビュー。
 
通算勝ち鞍は300勝余りで、
板野の700勝、竹村の450勝から見ると
大きく後れを取っている。
 
しかし、昨年の終盤から勝ち鞍を量産中で、
現在のリーディングでは彼らを上回り、
8位にランクインしている。
 
キャリアハイだった昨年の35勝に、
7月25日時点であと2勝に迫っている。
 
今年は間違いなく自身の最高の一年となりそうだ。
 
積極的な前付け、向正面からのマクリなど、
レースぶりにも変化が目立ち、
注目度急上昇中の騎手のひとり。
 
お酒はあまり飲めない…。

写真

50勝クリアを目標に、後半戦に挑む!

 16年目にしてキャリアハイ、今年はさらなる飛躍が…。
2001年にデビューして17年目を迎えた今年、
広瀬航はようやく通算300勝を達成(6月21日)した。
同期デビューの板野央、竹村達也がそれぞれ702勝、448勝(いずれも6月末現在)して
いるのに比べると、ちょっと遅すぎたようだ。
 
「のんびりしすぎたね」と水を向けるとー
 
「メチャメチャ遅い。恥ずかしいですよ」
 
気まずさをごまかすように、照れ笑いで答える。
 
同期の二人におくれをとったものの、しかし今年にかぎっていえば板野、竹村を
上まわる数字(26勝)をあげ、勝ち鞍ランキングで現在10位。
過去にはなかった好位置につけている。
 
デビューから一昨年までの15年間、10~20勝ラインにとどまる
目立たない存在だった広瀬が飛躍を見せたのは昨年のこと。
35勝のキャリアハイを残し、周囲の見る目も変わってきた。
そして今年、勢いそのままに大幅に躍進する期待がもてるのだ。
この2年間で彼のなかで変化するものがあったのだろうか。
何か手応えを掴んだのか。
 
「ウーム、ないんですよね。波が来てるというぐらいで…」ひと言ふた言あって、
言葉が途切れる。どうも反応がわるい。
歯切れがよくない。
 
「去年35勝あげたけど、何か思いあたる要因は?」
しばらく間があって「ウーム、むずかしいねえ」
 
どうも話をするのが苦手らしい。
普段は騎手仲間とふざけ合う陽気な一面があると聞いていたが、
パブリックな場所に出ると戸惑うようだ。
が、しばらく接していると、彼の素直さ、真面目さが見えてくる。
朝の攻め馬における姿勢にもそれがあらわれている。スタートは午前0時半、
それから8時半までびっしり24、5頭。体力的にきつい仕事を献身的につとめる。
自厩舎、他厩舎を問わず頼まれれば断ることはない。
攻め馬はジョッキーの仕事の基本、という考えが根っこにあるのだろう。
8時間かけて24、5頭というのは間違いなくトップクラスである。
その努力が騎乗チャンスにつながり勝ち鞍に結びついたひとつの要因と見る。
 
最近の広瀬の競馬を「スタートよく飛びだし好位置につける積極性と技量が一段と
よくなった」あるいは「向正面からマクって行くレースぶりで好走が際立っている」
と見る向きが多い。
本人は「ただガムシャラにやってるだけです」と素っ気なく答えるが、
これまで精進を重ねキャリアを積んで身につけたものにちがいない。
口数の少ない彼は自分から話すことはしないが、細かく訊いてゆくと、
努力の跡が見えてくるのだ。
 
体力強化では2、3年前をピークに精力的に取り組んできた。
ランニングを中心にした下半身強化や器具を使っての筋力アップ。
そうした集中的な筋トレの成果がいまになって積極果敢な騎乗スタイルにあらわれている。
とくに過酷なランニングが心肺機能を高め、スタミナアップにつながったと見るべきだろう。
 
レース後、調整ルームでその日の騎乗DVDを何度も見返すのも習慣になっている。
その点、ほかの騎手たちは彼ほど熱心ではないらしい。
これなども彼の真面目さを示す一側面といえる。
 

「死ぬ気で維持していきたい」

小学2年のときから中学3年まで、広瀬は器械体操に打ち込み、
厳しい規律に耐えた経験がある。
負けず嫌いの性格はその時期に培われたようだ。
 
騎手に目を向けたのは福永祐一のドキュメンタリーを見たのがきっかけだった。
夢を抱いて入った競馬界、しかし現実は厳しく、スポットライトを浴びることなく
15年間が過ぎていった。
悔しさに耐える時期は長かったが広瀬はクサらず、努力を忘れずに頑張りぬいた。

 

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