大阪場所の拠点を園田競馬場に置くというユニークな発想の裏には小牧太騎手の存在があったという。
以前から田子ノ浦親方と親交のある小牧騎手が、稽古場を探していた親方の意向を聞き、
橋渡し役を買って出たのである。
地方場所といえば、その土地土地のお寺を借りるのが一般的なかたちだが、
今回のアイデアが実現したことで地方場所のあり方も今後は変わってゆくのかも知れない。
そう思わせるユニークな試みである。
2階のちゃんこ場に場所を移し、親方にコメントをもらった。
「これまで大阪場所は先代(鳴門親方)の時代から使っていたお寺だったんだけど、
もうそろそろ独り立ちしなきゃなあということで…。
園田さんのご協力のおかげで、すごくいい環境でやらせていただいてます」
親方は好感触を得たようだ。
「来年も来てくれって言ってほしいですよ。来いって言ってもらえばよろこんで…」
そう言って相好を崩した。
2階のちゃんこ場は、喫茶コーナーのあった厨房を利用しているので広さに問題はない。
「広いし、使いやすいし、まったく不自由はないです」。
稽古を終えた淡路海が言う。連日たくさんの見学客が詰めかけていることを聞くと
「刺激になります。いつも以上に頑張らなきゃと気が引き締まります」と答えた。
ちゃんこ番の力士たちも、ゆったりとした広さ、使い勝手のよさをくちぐちに言った。
夕方、全レースを終えた騎手たちが、ちゃんこ場に集まってきた。
この日は騎手を招いて力士との交流会が企画されていた。親睦を兼ねた食事会である。
給仕をつとめる若い衆がテーブルに料理を運んでくる。
まぐろの刺身、玉子焼き、豚肉と野菜の炒めもの、そして相撲部屋ならではの栄養満点のちゃんこ鍋。
ほかでは味わえない正真正銘、本場の味だ。
ちゃんこ鍋をひとくち啜った吉村智洋に感想を訊くと「いままで食べたことのない美味しさです」。
そのコメントでは食レポ失格やな、と切り返すと、
「中身の具材、これすべてが黄金比率だと思います」。
訳のわからないことを言う。
炊きたてのご飯が運ばれてきた。
このアツアツご飯の上にタラコと刻んだ長ネギ、ごま油を和えた一品をのせて食べるのが
部屋の定番になっているようだ。
これだとめしが何杯でもいける。
騎手たちは「うまい、うまい」を連発していた。
相撲ファンを自認する騎手が園田に二人いる。大山真吾と杉浦健太。
とりわけ真吾は大阪場所だけでなく、名古屋や福岡にも出かけていくほどの熱の入れようである。
「相撲ファンとしては部屋が園田にきてうれしいんですけど、なんか不思議な感じですね。
馬が走ってる横で力士が稽古してるというのは…。
今年も府立体育会館に行くのを楽しみにしてます」
同じく大阪場所を観戦するという健太のご贔屓は、寝屋川市出身の大関豪栄道。
「貴景勝も頑張って、日本人大関がふえてほしいので応援してます」と、ご当所力士にエールをおくる。
食事を終えた騎手たちは、力士と並んで記念写真を撮っている。
50キロそこそこのジョッキーと200キロ近くありそうな力士との対比が、なんともおかしい。
ぼくはにわかファンですけど、と前置きして永島太郎が言った。
「競馬は知らなくても大相撲を知らない人はいないと思うんです。
なんといっても国技なんですから。
地方競馬がまだまだ広く認知されてないなかで、
こういうコラボというのは両者の垣根を取っ払ったようレベルだと思う。
お互いがプラスになるようなことがあれば、それに越したことはない。
いまの段階だと、ぼくたち競馬場サイドのほうが恩恵をいただいている立場です。
個人的には来年も、そのずっと先も来ていただいて親交を深めたいと願ってます。
競馬場も今年はじめての試みだったので、来年はもっと居住レベルも上げられるだろうし…
この一歩は大きな一歩だと思います」
永島太郎のラブコールが、関西の相撲ファンの想いとひとつになって部屋まで届いてほしいものだ。
相撲甚句にはこう唄われている。
勧進元やら世話人衆 ご見物なる皆さまよ
いろいろお世話になりました
お名残り惜しゅうは候えど きょうはお別れせにゃならぬ
これからわれわれ一行も しばらく地方を巡業して
晴れの場所にて出世して またのご縁があったなら
再び当地に参ります そのときゃこれに勝りしご贔屓を
どうかひとえにヨホホイ ああ、願います
田子ノ浦親方、皆々衆よ。2020年も待っとります。
ハア、ドスコイ、ドスコイ。