トライアル序盤の金沢(2着1回)と高知(2着2回)で
60ポイントを稼ぎ、事実上の王手をかけていた石堂は、
今年は総合2位という好成績で見事に初進出を勝ち獲った。
「絶対負けたくなかったんです、今年は」。
もう一歩のところでファイナルを逃した昨年の悔しさをバネに、
今年こそはという強い意志を示した結果である。
金沢と高知では自身も驚くほどの熱い闘志をぶつけたようだ。
「金沢も高知も走る機会って少ないじゃないですか。
1回1回の着順が重要になるこういう大会では落とせないと思った。
だから、乗る馬のVTRを見たり、前走を乗ったジョッキーに
意見を聞いたりしてメチャメチャ入念に準備しました」
悔しさを味わった昨年、ファイナルのレースがあった日に、
石堂は阪神競馬場のイベントに招ばれ
即興でレース実況をやったらしい。
彼の得意技である競馬実況は広く知られているところだが、
次点に終わった騎手が自分の出たかったレースを実況するなんて、
心中おだやかではなかっただろう。
悔しさを噛みしめ、モニターを見ながら難なく喋った
というから見上げたものだ。
「悔しいというようなレベルじゃないですよ。
もう、クソッって感じ…」
ところで今年10月、JRAに初参戦した。
そのとき出走ゲートが隣同士になったのが武豊騎手だった。
長年憧れつづけている騎手と同じレースに乗れる緊張と
大いなる喜びを石堂は味わった。
と同時に、12年前の思い出が甦ってきた。
小学3年のとき、朝日新聞紙上で武豊と対面したときの思い出である。
「将来、自分がなりたいと思ってる職業の人と会って
話ができるという企画コラムがあって、
それに応募したら当選したんです。
で、武豊さんと京都競馬場でお会いできることになって。
大きくなったら騎手になりたいと言ったら、
頑張れよって励ましてもらった。ぼくの大切な思い出なんです」
それから12年。
騎手デビューした石堂は同じ京都競馬場で再び憧れの騎手と出会い、
今度は騎手同士おなじレースで競い合うことができたのである。
それが10月の出来事だった。
それから1カ月あまりでYJSファイナル出場が確定した。
ひとつひとつ夢を叶えつつある石堂響は、
今回のファイナル挑戦にも闘志満々である。
「大井と中山で1勝、それが目標です。
とくに走るチャンスのない中山では、是が非でも1勝したい。
大いに暴れてきます!」
「佐賀が終わった時点でもう大丈夫だと思ったんで
気がラクになりました。
園田で勉強させてもらってることが存分に出せたと思います」
トライアルラウンドで断トツの100ポイントを獲得した松木は、
余裕の1位逃げ切りでファイナル進出にはやばやと名乗りをあげた。
前半の佐賀ラウンドを終えて、すでにこの時点で76ポイントを
獲得しているが「結果的には楽勝だったんですけど、自分では
どのレースももうちょっと出来たかなという部分があるんで…」と、
勝ったレースであっても反省点を見つけだし、
つぎに生かそうとする貪欲さがうかがえる。
YJSへのエントリーは今年で3度目。
過去2度は5位、3位と堂々たる結果で、昨年は中山で勝利している。
中山で勝った喜びはさぞ大きかったのでは…?
「もちろんうれしかったですけど、
ぼくは園田で勝つほうがうれしいです」ときっぱり言いきる。
園田の馬場で熟練の騎手たちと競い、駆けひきを覚え、
技を高め合いながら勝利する、
そのことのほうが何倍も喜びは大きいと松木は感じている。
今年2月に高知から移籍し、
3カ月間の研修を経て園田デビューを果たした。
勝ち鞍は11月19日現在で50勝。
「こんなに乗せてもらえるとも勝てるとも思ってなかったです。
もっと勝っててもおかしくないぐらいいい馬に乗せてもらってるので…」。
自分は恵まれている、と周囲への感謝を口にした。
「デキすぎの1年だった」とも。
移籍1年目から結果を残せた背景には、
周囲への気配りと不断の努力が積み重なっているにちがいない。
誠実さを重んじる彼の人間性に依るところが大きいように思う。
YJSの出場資格(デビュー5年以内、100勝未満)でいえば、
今年が最後のエントリーになる。
ファイナル3度目ともなると競馬のコツも呑み込んでいることだろう。
「みんなが前掛かりになる傾向があります。
勝ちたい勝ちたいで、前に行きたがる。
それを見極め、焦らずに乗ることが大事」だと言う。
「去年いい思いさせてもらったので、
今年は(ファイナル進出できなくても)ええかな
ぐらいに考えてたんですけど…。
一番年上ですし、若い騎手がいっぱいいるんで。
今年はそんなにガツガツしてないです。
去年は(3位になって)高知競馬のアピールができた。
今年は園田の競馬のおもしろさを全国にアピールしたいですね」
YJS最後の年となる松木大地は、結果はさておき、
大井、中山の舞台で充実した時間を感じたいと考えているようだ。