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クローズアップ ホースマン達の勝負に懸ける熱き想い

50歳竹之上次男が見つめる先は…

PROFILE

竹之上 次男(たけのうえ つぐお)
1970年4月28日、大阪府生まれ。

1998年から兵庫県競馬で
実況をスタート。
今年で22年目を迎える。
これまで、ラジオなどの
メディア出演や、
JRAや場外発売所施設などでの
イベントにMCとして数多く参加。
 
家族構成は、妻、二男、一女。
体内構成は、酒、競馬、子育て。
 
Twitter:@tsuguo_sonoda
Instagram:@tsugucap
 
ブログ
竹之上次男オフィシャルサイト
>takenoue.com
 
>楽天競馬日替わりライターブログ
(土曜日担当)

 
>YouTube

 

クローズアップ

 
ぼくが園田競馬に実況陣として加えていただいた1998年は、
まだ兵庫県競馬はアラブのレースだけでした。
その翌年にサラブレッドが導入されることになるのですが、
当時のアラブは規模を小さくしつつありましたが、
全国区の猛者が多くいました。
 
いまの競馬ファンの皆さんも同じだと思いますが、
やり始めたころの馬には特に思い入れが強いんじゃないでしょうか。
 
ぼくがファンとして競馬を始めたころは
JRAでオグリキャップやメジロマックイーンなどが隆盛を極めていて、
その後にトウカイテイオーやミホノブルボンなどの
スターホースが誕生してワクワクさせられました。
なので、いまも当時の馬たちには思い入れが強いです。
 
この仕事に就き始めてすぐのころ、
ナカトップアスワンという馬がデビューして、
その走り惹かれていきました。
 
新馬戦では800m(当時)を逃げ切って2馬身差の快勝。
続く2戦目では、同じく800mを2着馬に大差をつける大楽勝。
勝ち時計49秒0という当時のレコードタイムを叩き出し、
一気に虜となったんです。
 
筋肉質でスピードに長けた身体つきで、
スタミナ勝負には弱いけれど、
ケレン味のない逃げっぷりが魅力の馬でした。
 
あるとき、水の浮くような不良馬場で、
ナカトップアスワンはいつものようにハナに立って軽快に
レースを引っ張っていました。
 
ところが4コーナー、
水たまりに驚いたナカトップアスワンは外に逃げてしまい、
後続各馬に先頭を譲ってしまったのです。
 
一旦4番手ぐらいまで下がって万事休すと思われましたが、
そこからが凄い!踏ん張りを利かせて立て直し、
追い上げていくとみるみるその差が詰まり最後は各馬を
まとめて差し切り1着でゴールしたのです。
まさに“三角跳び”のような軽業。
あんなレースは初めて観たと驚愕した思い出があります。
 
その後にも思い入れのあるのは何頭もいますが、
仕事を始めたばかりのころの方が強く印象に残っていて、
忘れられない一頭なのです。
主戦を務めた谷川真生(まお)騎手も、
早くに引退して競馬界を離れていったけど、
いいジョッキーだったし、もったいないなと思った。
勝負師としては、少々優しすぎるところがあったかな。

 

クローズアップ

 
去年の『楠賞』で見せた、ホッカイドウ競馬の三冠馬、
リンゾウチャネルの強さ。
実況していて震えるような気持ちになったのは初めてでした。
 
地元の大将格ジンギが先手先手のレースをして、
2番手から抜け出した直線。
その後ろでマークするように追走していた
リンゾウチャネルが並びかけるのですが、なんと持ったまま。
懸命に追うジンギに対し、追うところなく楽々と先頭に躍り出る
リンゾウチャネルがあっさり抜け出して1馬身半差。
 
まさに赤子の手をひねるがごとくの勝ちっぷり。
着差をひろげるばかりが強さの証ではなく、
本当の強さというのはこういうことかと教えられました。
“三冠馬”の重み、凄味も感じさせてもらえた一戦でした。
 

クローズアップ

 
まったくないです!
別にカッコつけるわけではなく、
本当にないです。
 
もちろん、喋り終えてから、
まあまあできたかなと思うことはありますが、
すぐに忘れてしまいます。
なぜなら、競馬の実況は「覚えて忘れる」の繰り返しだからです。
 
第1レースで覚えた馬名を、
第2レースで口にするわけにいきませんので、頭の中で一旦消し去るのです。
その「ワイパー機能」がぼくだけでなく、
他の競馬実況アナウンサーにも備わっているのだと思います。
 
そもそも実況というのは、
ちゃんと間違わずしっかり伝えられて当たり前ということ。
つまり、採点があるとすれば減点方式だということ。
 
だから、ぼくが気を付けていることは
聴いてくれている人の邪魔をしないこと。
飾り立てる言葉を多用してみたり、
激しい抑揚をつけてみたりして、
耳障りにならないようにすること。
聴いている人たちの心に残る実況をしてみたいとは一切思わない。
むしろ何も残らないほど邪魔にならない実況をしたい。
それでいて、過不足なくレースを伝えられればと思っています。
それが一番難しいような気がしますが…。
 

クローズアップ

 
こんなに深い泥沼に入ったことがあっただろうか?
 
2007年の馬インフルエンザでも、
園田競馬や他地区の競馬も開催中止を余儀なくされましたが、
そのときは開催日でいうと7日間。
人間にうつる心配もないし、
封じ込めも効いて2~3週間で終息へと向かった。
 
しかし、今回のコロナ禍は長期化していて、
すでにいまこの原稿を書いている時点で、
レースこそ行われていますが、開催日28日間の無観客競馬。
それがさらにまだまだ続いていく。
一体どこまで続くのかは誰にも分からない。
 
JRAが5月一杯の無観客競馬を決定したが、
それが終わればもう大丈夫だろうと楽観する人は
ほとんどいないと思う。それほど深刻化している。

そんな中、無観客でも競馬ができているのは本当にありがたい。
今後もこの灯は消すまいと、感染拡大防止を十分徹底して、
開催を続けていくことが重要。
 
パドック解説や、展望番組もマスク着用で放送を行っています。
 
ファンの皆さまは、せっかくのナイター競馬開幕でさえも
CS放送やインターネットを通じてのご参加になりますが、
兵庫のジョッキーは変わらずアツいレースを展開しますので、
我々実況陣もしっかりとお伝えしていきます。
どうぞ今後も兵庫県競馬をよろしくお願いします。

 
 

写真:斎藤寿一
文 :竹之上次男

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