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クローズアップ ホースマン達の勝負に懸ける熱き想い

夢を叶えたダービージョッキーが目指す未来とは…

 
2020年6月11日、1着2000万円という過去最高賞金と未来永劫続く
ダービー馬の名誉を懸けて争われた21回目の兵庫ダービーは雨の中の決戦となった。
今年新たに白く生まれ変わった砂は、雨に濡れて重馬場のコンディション。
 
年明けから続くコロナウイルス禍の影響により、
無観客での開催を余儀なくされた前代未聞のダービーを制したのは、
ディアタイザンと27歳の杉浦健太騎手だった。
 
ディアタイザンは重賞初制覇が兵庫ダービーという快挙。
杉浦騎手はデビューから丸10年、5度目の挑戦でダービージョッキーの称号を得た。
 

夢を叶えたダービージョッキーが目指す未来とは
・・・今月のクローズアップは杉浦健太騎手に迫る。
 

いざ5度目の兵庫ダービー挑戦へ

競馬に携わる者なら馬主だけではなく、騎手、調教師、厩務員、生産者など
ありとあらゆる関係者が夢見るダービー制覇。
もちろん杉浦騎手も例外ではない。
 
「ダービーはデビュー時から遠い目標だったが、
一番強く勝ちたい思ったのはマイタイザンで負けた時。
取れるかもと思っていながら勝てなかったので、
その悔しさでより一層勝ちたいレースになった。
ずっと取りたかったレースだったので、素直に嬉しかった」と
その瞬間を振り返った。
 
2016年の兵庫ダービー。兵庫若駒賞優勝などの実績が買われて
ダービーで1番人気の支持を受けたマイタイザンに跨った杉浦騎手は、
この時がダービー初騎乗。
「周りからも“勝てるんじゃないか”と言われていたし、
自分自身も“勝てる”と期待していた。
(1番人気でのダービー初騎乗にも)意外と緊張はせず、
スタートだけ気を付けてマイタイザンのレースができれば勝てるはず」
・・・そう思ってはいたが、結果は7着で「ショックは大きかった」という。
 
その後、ダービーには毎年騎乗し、イオタイザン4着、
テルタイザン7着と来て、昨年はテンマダイウェーヴで2着。
「(ダービーへの思いが)乗るにつれてどんどん強くなって、
どんどん現実味を帯びているというか、
手の届くところに来ている実感はあった。
毎年良い馬に巡り合えて、ダービーに乗せてもらって、
もうすぐだなとは思っていた」中で、
今年巡り合ったパートナーがディアタイザンだった。
 
ディアタイザンは、ダービーまでに11戦5勝、勝利は全て逃げ切り。
逃げた時とそうでない時で成績が大きく異なるタイプだが、
ダービーには同じ脚質のステラモナークが出走してきた。
重賞4連勝を飾った世代屈指の快速牝馬は、
ディアタイザンにとってまさに目の上のたんこぶのような存在。
菊水賞では逃げたステラモナークが後続を5馬身ちぎっての優勝。
一方のディアタイザンは逃げられず2番手追走となり、結果5着だった。

 

クローズアップ

 

夢に見たダービーを制覇

“最も運のある馬が勝つ”…ダービーにおいて、
時にそう言われることがある。
勝負事において大きな要素を占める“運”、
今年の兵庫ダービーにおいてそれを引き寄せたのは紛れもなく
ディアタイザンだったように思う。
 
枠順抽選の結果は・・・7番ディアタイザン、9番ステラモナーク。
「枠順は一番気にしたが、理想通りのところを引けた。
ステラモナークより内に入ったことが一番大きかった。
ここ最近は充実して走れていたので、力で劣るとは思っていなかった」という杉浦騎手は、
菊水賞とは内外逆転の並びを得たことで自信を持って本番へと挑んだ。
 
果たしてディアタイザンは、スタートをしっかりと決め、
内の利を存分に活かして逃げの手に打って出た。
「(ステラモナークも)道中突いて来るだろうと思っていたが、
どれだけ力ませずに走らせ、最後に脚を残せるか」を考えながら、
馬とのリズムを大事に乗った。
 
ディアタイザンは、「後ろから馬が来た分ムキになっていくタイプ」
だという。
それは時に諸刃の剣となるだろうが、
「相手が来る分だけ勝負根性も出してくれるので、
そのいい部分を出してあげた方が良いと思っていた。
なので、(強いステラモナークが突いてくれたことは)余計に良かった。
あの馬にとって理想の競馬をしてあげることができた」と、
愛馬の力を100%引き出してのダービー初制覇に杉浦騎手は胸を張った。
 
ゴール後には大きなガッツポーズも飛び出した。
“タイザン”の冠で知られる平野オーナー、
デビューからお世話になっている碇先生に恩返しできたことに加え、
「ディアタイザンを担当する大山厩務員はデビューした荒山厩舎所属時代から
ずっとお世話になっていた人。
その大山さんの担当馬でダービーを勝てた」ことも何より嬉しく、
幾重にも重なった感謝と歓喜があの派手なガッツポーズには込められていた。
 

クローズアップ

 

ダービー馬の未来

世代の頂点に立ったとはいえ、ディアタイザンはまだ伸び盛りの3歳馬。
「まだ全力で走っていないような気もするし、まだまだ奥がありそう」
と杉浦騎手は話す。
ここまでの6勝は全て逃げ切りだが、
ただの逃げ馬で終わらせたくない思いがあるようだ。
それは、デビューからずっと手綱を取り続け、
「どの馬よりも思い入れが強く、一生忘れない馬」と
話す重賞7勝のマイタイザンに跨る中で感じた後悔に由来する。
 
「マイタイザンは、(スタートダッシュの)スピードを持っていたので
ずっと逃げの戦法で来たけれど、逃げるだけじゃなくもっとパターンがあれば、
もっとすごい馬になっていたんじゃないかという思いがずっとあるんです。」
 
勝てるが故にその戦法をあえて変えることはせず、
“逃げる”道を極めんと邁進したマイタイザン。
「マイタイザンに成長させてもらった」杉浦騎手は、
重賞制覇を積み重ねる中でも、その栄光にただ満足することなく、
将来を見据えた教育の重要性を痛感していたようだ。
 
「ディアタイザンには、クラスが上がった時に同じようになって欲しくはないので、
今からしっかり逃げ以外のレースも教えていきたい。
マイの経験をディアタイザンに使って、レベルアップさせてあげたい」と、
ダービー馬の未来を見据えている。

 

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