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クローズアップ ホースマン達の勝負に懸ける熱き想い

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次世代を担う木村厩舎の3歳馬

 
木村厩舎には、3歳にもオープン馬がいる。
牝馬のユナチャンと牡馬のアウワだ。
 
ユナチャンは、園田プリンセスカップ7着、
園田ジュニアカップ5着、
兵庫クイーンセレクション3着と
重賞の度に着順を上げている。
「頑張っていますね、使うごとに力を付けて成長を感じます。
元々掛かり気味に走っていたところが改善されて
折り合い面で成長したし、体つきも変わってきた。
こうやって変わってきてくれたら嬉しいですよね」と話し、
「今は操縦しやすくて乗りやすくなっている」ところが
強みだという。
 
好走した兵庫QSも、レース前は「姫路への輸送がどうか」
との心配があったようで、厩務員さんとも相談しながら調整し、
松木騎手が乗った直前の追い切りでも工夫をして臨んだ。
その結果、「輸送で汗もかいていなかったし、
体重もそんなには減らなかった。
レースでは元々ササる所がある馬だけど
それも出さなかったし、初めての馬場も合うのかな」と、
遠征競馬でも力が発揮できそうな感触を得たという。
「結果的に輸送も大丈夫でしたし、この後は
グランダムジャパンのレースとか使っていきたいと思っています」と
他地区への遠征も視野に入れている。
 

そして、大晦日の園田ジュニアカップで
僚馬のユナチャンに先着し、
最低人気ながら4着に奮闘したのがアウワだ。
 
木村師も激走には「ビックリしましたね」とのことだが、
攻め馬でもレースでも「集中しない」という
幼さが残っている馬で、1/21の姫路戦は
「全然ハミを取らずに」11着大敗。
「全然息も上がってなかった」ということで、
真面目に走っていなかったようだ。
「(いい意味でも悪い意味でも)毎回期待を
裏切ってくれますね。全能力をどうやったら
発揮してくれるのか、(走る方に)持っていくのが
本当に難しいですね」と苦い表情を浮かべたが、
重賞で好走できるだけの素質を秘めていることは確か。
それをどう開花させていくのか、
木村師の手腕に期待したい。

 

クローズアップ

 

木村師に縁のある2歳馬

木村師と言えば、騎手時代に6年間で5度も
兵庫ダービーを制し、ダービー男としても名を馳せた。
オオエライジンで初めてダービーを勝った翌年、
2012年はメイレディとのコンビでダービーを連覇した。
牝馬によるダービー制覇という
12年ぶりの快挙を成し遂げたメイレディは、
現在北海道で母となっている。
 
そのメイレディと新種牡馬ビッグアーサーとの間に
生まれた牝馬が、今年木村厩舎に入厩予定だという。
「牧場で見てきたけど、いい体をしていました。
メイレディもスピードがあったし、
ビッグアーサーもスピードタイプの馬。
ダートがどうかだけど、今から楽しみですね」と
ダービー馬の娘を手掛けることに喜びを感じている。
縁のある馬の仔でタイトルを目指すのも、
ホースマンとしての醍醐味であるに違いない。
 
実は1つ上の姉「チェリーフラッシュ」が
JRAから兵庫に移籍し、メイレディがいた保利良次厩舎で
移籍初戦の時を待っているが、
こうやってダービー馬の仔が兵庫に帰ってくることを
喜ぶファンも多いことだろう。
「華麗なる一族」とも称されるイットー、ハギノトップレディの
血を受け継いでいる良血メイレディの仔たちが、
また兵庫県競馬ファンを楽しませてくれるはずだ。
 
木村厩舎からデビューするメイレディの仔にも熱視線を送りたい。

 

クローズアップ

 

ライバルに刺激を受け、
更なる飛躍を目指す

木村師は開業前、JRA笹田和秀厩舎の下で勉強し、
園田では田中範雄調教師からもトレーナーとしての
ノウハウを教わった。
開業から試行錯誤する中で、
「(田中範雄厩舎もやっている)長めからの15-15を
重点的に週2本位はやりたいと思っていて、
馬に負荷をかけて心臓を強くするという意味でも
それは大事だと思っています」と
木村厩舎のやり方を築いてきた。
しかし、「色んな厩舎を見るけど、
追い切りのやり方一つとってもがみんな違いますもんね」と
新たな知見も得ようという貪欲な姿勢も見せる。
 
「意識すると言えば、新子雅司君。
自分で追い切りも乗るし、乗って馬の状態を把握している。
すごいなと本当に思いますね。
(腰痛のことがあるからやりたくても)
なかなかあれができないのがね、
自分で感触掴めないのが・・・(残念)。」
さらに橋本忠明調教師に対しても、
「馬の作り方がすごい。
僕も乗せて貰っていたオオエライジンなんかも
脚下が強い方じゃなかった中、
間隔があいてもしっかり走らせていた。
レースに向けて逆算して馬をちゃんと作れるという面で
すごいなと思う」と率直なリスペクトの念を持っている。
(注:オオエライジンの現役時代、
橋本忠明調教師は橋本忠男厩舎での調教師補佐だった)
 
また、8歳年下の船橋・米谷康秀調教師と
開業同期ということで親交がある。
米谷師は昨年マカベウスで平和賞を勝ち、
重賞初制覇を遂げた。
その際に木村師も祝福のメッセージを送ったそうだが、
なんとその2日後にマコトパパヴェロで
木村師も重賞初制覇を果たしたのだ。
「一緒のタイミングで開業して、一緒に重賞も取って、
すごいなぁ!」と喜び合ったという。
色んなことを気軽に相談でき、
励みにも刺激にもなる存在が船橋にいる。
いずれ遠征競馬でお互いの馬が競い合う日が来ることを
楽しみにしている。
 

開業から2年半近くが経過し、
「調教師の仕事も初めはしんどいなと思っていたけど、
ちょっとは慣れたかな」と話す。
ただ、「騎手の時は重賞であってもプレッシャーは
感じなかった」という木村師も、
「今は変な緊張感がずっとある。
レースは常にドキドキするし、
レース後も脚下は大丈夫かなと不安になりますし、
色々と頭も使いますね」と、
調教師ならではのプレッシャーが日々あるそうだ。
 
「調教師の1勝は重みが違いますね。
普通のレースを勝つのも難しいので、
まずは年間30勝を目標に、いずれは重賞をいくつも
勝ちたいですね。去年の1つだけではなく一杯取りたいです。
でも、一番は故障馬を出さないように。
とにかく一所懸命走ってくれる馬の無事が一番ですわ。」
 
対談中何度も出た「とにかく無事に」という言葉に、
「豪快な」イメージだった嘗ての木村健“騎手”ではなく、
「繊細な」感覚を大事にしている
木村健“調教師”を見た気がした。

 
 

文 :三宅きみひと
写真:斎藤寿一

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