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クローズアップ ホースマン達の勝負に懸ける熱き想い

小歓声が競馬場に戻る

 

 

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人を育てる喜び

厩舎スタッフの人材が足りず、
自分が落馬でもしたら厩舎が回らなくなると
危機感を覚えていた時期があったという。
 
「それを乗り越えて、現在は自画自賛じゃないですが、
良いスタッフに恵まれて、
ベテランも若手も頑張ってくれていて、
本当にありがたく思っています」
 
気分良く、コミュニケーションも取ることのできる職場の環境。
ガーデニングなどの外観だけではなく、
心を伴う環境づくりにも取り組んでいる。
 
「ミーティングをよく行うので、
自分がいなくても、共有した理念のもとで厩舎が動いて行く。
意思の疎通が取れるようになってきました。
開業して15、6年で試行錯誤して変化できたことですね。
最初はがむしゃらで、5年目まではそんな感じでした」
 
乗馬経験のなかったスタッフも、
競馬場の角馬場で乗馬の基本から教えてトレーニングして、
師が感心するぐらい上達している。
いまでは調教をつけられるくらいまで育った
スタッフもいるというのだから頼もしい。
 
「人を育てることって大事だし、
木本(騎手)の成長も含めて、喜びも感じています」
と確かな手応えも掴んでいるようだ。
 
木本騎手を抱えたときは、
乗り手がいなくて困っていたという時期ではなかった。
 
「ぶっちゃけ、彼の熱意がどれほどのものか分からなかったですし、
いい加減なモチベーションだったら、
形だけの所属になっていたかも知れません」。
森澤師にとって、一種の賭けだった選択。
 
「ぼくを含めたスタッフも木本を育てて
一緒に伸びて行こうと思えたのは、彼のヤル気、
本気度が伝わって来たからなんです」
 

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ここで木本直騎手にも話を訊いてみる———
 
「いい馬にすごく乗せてもらって、
森澤先生には感謝しかありません。
レースで下手に乗っても、
キツく言われることがないです。
褒めて伸ばすという感じで接してくれています。
ぼくもどっちかというとそっちが合うと思います(笑)」
と感謝の念が感じられるし、
のびのびとした仕事ぶりも窺えて好感が持てる。
 
「金沢遠征で大きく考え方が変わりました。
競馬に対する考え方を変えられました。
その金沢に森澤先生のところに移って一週間ぐらいで
行かせてもらったんです。
それが本当にありがたかったです」
 
「厩舎にはいい背中の馬がいっぱいいますね。
結果に繋げられていないですけど、
それでも乗せ続けてくれていますからね。
オープン馬にも乗せてもらって勝たせてもらい、
本当に感謝しかないです。
この経験を活かして、しっかり結果を残していきたいです」
 
感謝と反省を胸に、勝って恩返しするという決意を示す若者に、
熱いエールを送ってもらいたい。
 

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前向きな言葉でチームの士気を上げる

 
「ミーティングでよく言うことは、
前向きにいこうということ。
スタッフへも前向きな言葉がけで、
否定から入らないようにしています。
馬に対してもそうなんですけど、
負けたら馬のせいにするのではなく、
敗因をしっかり分析して気持ちを切り替えて次へと向かう。
木本(騎手)に関してもそう。プラスの思考で、
いいところを伸ばしていこうと思っています」
 
気持ちの持ちよう、言葉のかけ方でチームのヤル気、
馬の雰囲気は変わるものだという信念が芽生えたのだという。
友貴師自身も、
若いときと比べて改善できていると実感しているようだ。
 
「いろいろ悩んでいたときがあったけど、
気持ちの余裕がないときは否定的に捉えることが
多かったのだと思います。
どうしても悪い方のイメージを引きずっていました。
それだけでは結果が出なかったので、
ビジネスの書物を参考にして、
良いものを取り入れようと考えたのです」。
このような考え方が定まり、
成績も高いレベルで安定してきた。
 
「気持ちから先にプラスにもっていって喜んでしまえば、
結果がついてくるんじゃないかなと思う。
実験的な思いもあってチーム作りを意識してやっています。
厩舎の環境づくりも実験中。
それでうまく行けばいいなぁと思ってやっています」。
実験的とはいえ、結果が出ている以上、
この作戦は功を奏していると言える。
 
リーディングの常連だった父とは
競馬の話はあまりしないらしい。
競馬もほとんど観ないのだそうだ。
そんな父から昨年末に「まだリーディング獲ってないんか」
とチクリと言われた。
 
「ちょっと生意気なことを言ったら、
そんな偉そうなことを言うんやったら、
リーディングを獲ってみろと言われてしまいました(笑)」
 
スタートダッシュだけではなく、
リーディングを獲るためには最後まで勝ち続けなければならない。
 
「新子厩舎は凄い。
強力なライバルがいた方がうちのスタッフも燃える。
でも、実際は自分との闘い。
リーディングを獲ってもおかしくない質と数は揃えているので、
ライバル視するのではなく、
淡々と自分たちのすべきことを進めて行けば、
自ずと結果がついてくると信じています」
 
父に「よくやった」と言わせる未来は、
そう遠くはないだろう。
 

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文 :竹之上次男
写真:斎藤寿一

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