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クローズアップ ホースマン達の勝負に懸ける熱き想い

3年連続リーディングの胸中

 

 

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姫路はちょっと苦手

昨年7年半ぶりに再開した姫路開催4週間の
リーディングは下原理騎手(25勝)が獲得し、
吉村騎手は23勝で2位に甘んじた。
今年は姫路リーディングも独走中だが、
昨年公言していた「姫路はちょっと苦手」は
相変わらずだという。
 
「園田開催と違って、当日移動がある」ことで、
生活リズムが崩れてしまうのが一因とか。
西脇所属の騎手は園田開催時にも
バスに乗って移動するが、
園田所属の騎手は姫路開催の時だけバス移動が生じる。
長い間姫路開催がなかったこともあり、
園田開催時のルーチンに体が慣れてしまっており、
姫路の移動競馬はリズムが掴みづらいと昨年感じたそうだ。
そもそもバスなどの乗り物があまり好きではないらしく、
今年は低反発のマットレスをバスに持ち込んで敷き、
防寒のための寝袋にも入るなどストレスを
なるべく軽減させてレースに臨んでいる。
 
そして、コース形態についても興味深い話をしてくれた。
「姫路だと砂の重い内側2,3頭分を開けてレースして
いますけど、それがあまり好きじゃないんです。
内が空いているとそこを使って来る騎手がいるでしょ。
それが嫌なんですよね、
これは他の人もそうじゃないないかと思いますけど・・・」
と、内も外も両方警戒をしないといけない分、
レースが難しくなるのだそうだ。
 
「昨年は、『園田よりも仕掛けを遅らせないと
いけない』と思って乗っていてもゴール前で差される
ことが多くて、結果的には微妙に仕掛けが速かった
と思うんです。
なので、そこは去年よりさらに意識して乗っています。
ただ、日によって馬場状態も変わるし、
1日の中でも馬場が変化することもあるので難しい
ですけどね」と、日々試行錯誤しながら、
今年は姫路でもトップの勝ち星を積み重ねている。

 

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歴史に名を刻んだエイシンニシパ

3/14、吉村騎手とのコンビで佐賀の重賞
「はがくれ大賞典」を優勝したエイシンニシパは、
重賞13勝目となり、兵庫県競馬における
重賞勝利数の新記録を樹立した。
これまでの記録は重賞12勝で、
アラブ時代のハッタダイドウとケイエスヨシゼンの
2頭が、サラブレッド導入後はロードバクシン
(兵庫在籍時に重賞12勝、他地区へ移籍後に1勝)
が兵庫競馬史に名を刻んでいた。
これらの大記録を塗り替えたエイシンニシパに吉村騎手も、
率直に「嬉しいですね。すごい馬ですよね」と讃えた。
 
「とても賢い馬です。
橋本忠男厩舎にいて新春賞を勝った時までは
僕が調教に乗っていましたが、
従順で乗りやすくてほぼ完璧な馬でした。
今は少し調教でかかるような面もあるみたいですが、
レースはゲートも大人しいですし、
何より本当に丈夫ですよね。」
 
エイシンニシパと吉村騎手と言えば、
2017年の「新春賞」を思い出すファンの方も多いだろう。
師匠の橋本忠男調教師にとってのラスト重賞を
ハナ差で勝利。
吉村騎手の男泣きと、師匠と交わした熱い抱擁は、
兵庫県競馬における名シーンの一つだ。
そして、息子の橋本忠明厩舎へと移った
エイシンニシパは、歴史に名を残す名馬へと成長を遂げた。
 
吉村騎手も「思い入れはかなりありますね。
今回は頼むぞっていう時に勝ってくれる勝負強さが
印象的です。
タイ記録ではあまり歴史に残らないので、
なんとかあと一つ重賞を勝ちたかった。
やっぱり肝心なところ勝ってくれたんで
やっぱり偉い馬ですよ」と目を細めた。
 
「6年連続でというのは他にないでしょうし、
兵庫県を代表する馬ということで間違いないですよね。
本当にこの馬には感謝しかないです。」

長男が父の背中を追う

昨年10月、吉村家の長男・誠之助君が
JRA競馬学校騎手過程に合格し、
この春めでたく入学する。
父と同じ騎手という職業に憧れを持って、
騎手になりたいと聞いた時は「素直に嬉しかった」
そうだが、「親心としては嬉しかったけど複雑でした。
怪我とかする姿を見たくないですからね」
というのが偽らざる本音だろう。
 
騎手になりたいと言い出したのは
小1,2くらいだったそうだが、
小5の時に「騎手になりたいと言うのはいいけど、
簡単な世界じゃない。
良い所ばかり見えるから格好いいと思うかも
しれないけど、骨折とか痛い思いもするし、
怪我はするものだと思いなさい。
それでも頑張ってなりたいというなら応援する」
と本人に話したそうだ。
それでも誠之助君の意志は固く、
小6から阪神競馬場の乗馬センターに通い始めた。
デアリングタクトで牝馬三冠を達成した
JRAの松山弘平騎手や、永島太郎調教師の次女で
今年JRA騎手デビューを果たした永島まなみ騎手も
通った阪神競馬場で力を付け、
JRA騎手への扉を自ら開いた。
 
「3月に入ってから一緒に暮らすのも
あと少しかと思うようになってきて、
どうしても寂しくなっちゃいますね。
やっぱり15年も一緒に過ごしてきましたから・・・」
と父親として寂しそうな顔を覗かせる一方、
「馬に乗っている姿はこれまでほとんど見たことが
ないんですが、本人は頑張ると言っているので
3年後の姿を楽しみに僕も頑張りたいし、
一緒のレースに乗りたいですね。
まぁJRA初勝利は息子の方が先でしょうけど。
僕はJRAで勝ったことがないんで(笑)」
と、楽しみな未来に思いを馳せた。

 

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今後の夢

今後の夢は、「グレードレースを勝つ」こと。
「どうしても1つは勝ちたい」と意欲を燃やし、
「今年はナリタミニスターでそのチャンスがある」
と感じている。
 
ナリタミニスターは、昨年頭角を現して重賞3勝、
暮れの「兵庫ゴールドトロフィー(Jpn3)」で
JRA勢相手に4着と奮闘した。
しかし、「最優秀4歳以上短距離馬」の
タイトル獲得はならなかった。
吉村騎手が“現役最強”と話すナリタミニスターは、
今年初戦の「兵庫ウインターカップ」を快勝し、
悲願のタイトル奪取に一歩踏み出した。
 
「脚質にも幅が広がっていて好位差しが主体ですけど、
競られずに逃げたらまず負けないと思います。
楽に行けるなら逃げるのも戦法の一つですし、
折り合いはつくのでレースはしやすいです。グレードでもハンデ戦なら
一発あるんじゃないかな」と色気を持っている。
今後は、4/9「東海桜花賞」(名古屋)をステップに、
5/3「かきつばた記念(Jpn3)」(名古屋)へ
向かう予定があるとのこと。
年末の地元でのリベンジマッチを含めて、
吉村騎手のダートグレード初制覇の瞬間を楽しみにしたい。
 
300勝をクリアし、350勝にも到達したとなると、
見ている側は400勝という大台をも求めたくなるが、
「去年が生涯のキャリアハイだと思います、
今年も狙ってはいますけどね。
ただ400勝までは言えないですね、
さすがに400はちょっと無理かな。
ここ2,3年が上手く行き過ぎじゃないですかね」
と否定されてしまった。
「ただ、今年も全国リーディングは狙っていますよ。
森泰斗騎手は上手いんで簡単じゃないですけど、
お互いに怪我なく1年通して乗った上で、
万全の状態で競い合ってもう一度取りたいですね。」
 
吉村智洋、36歳。
息子との競演も夢見ながら、
様々な数字を道標に更なる高みを目指す。

 
 

文 :三宅きみひと
写真:斎藤寿一

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