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クローズアップ ホースマン達の勝負に懸ける熱き想い

ダービージョッキー誕生秘話

 

デビュー18年目、通算15度目の挑戦。
スマイルサルファー(セ3・渡瀬寛彰厩舎)とのコンビで『兵庫ダービー』を制覇。
晴れてダービージョッキーの称号を手に入れた大山真吾騎手。
決して偶然に辿り着いた境地ではなく、積み上げてきた経験、記憶。
瞬時の的確な判断。
どれひとつ欠けてもなし得なかった世紀の大激戦制覇を振り返る。
 

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初の兵庫ダービー制覇

「ヤバーっと思った。ダービーやで~!」
と勝利が確定した瞬間、大山真吾はそう思った。
 
※以下、親しみを込めて真吾と呼ぶ
 
他人事のように聞こえるけど、それが真吾流の表現方法。
決して派手な立ち居振る舞いをする方ではないし、
感情を前面に出す方でもない。
 
とはいえデビュー18年目、
15回目の挑戦で掴んだダービーなのにそれ?と思わせる。
しかも、歴史的な大激戦を制して出る言葉だとは思いにくい…。
 
前回の取材時に、自己アピールが足りないとハッパをかけた。
それでも未だに「(アピールするところは)特にないです」と言う。
でも、誇るところが何もないのに、
年間100勝を何度もクリアするなど無理なこと。
他人より秀でている才能があるからこそできる芸当だ。
 
例えば直線でしっかりとゴールまで追い続ける豊富なスタミナ。
これも誇っていいひとつの才能だと思う。
 
「いつもそう言ってくれますけど、
自分でガンガン動かすタイプではないですからね。
そんなにスタミナがあるとはあんまり思ってないです。
ただ、半マイルをビシバシ追うよりも上がりの2ハロン、
3ハロンでスパッと脚を使わせるように重きを置いていますね」
とスタミナが豊富というより、配分が巧いということなのだろう。
 
そして真吾が持つ、もうひとつの才能。
それはあまり知られていないことだが、
記憶力が抜群にいいということ。
デビューしたころに乗った馬の成績や癖をいまでも覚えている。
自分の乗っていない馬の癖などもしっかり把握している。
これも誇れる才能だ。
 
実は、そのスタミナ配分や記憶力の良さが、
兵庫ダービー制覇に繋がっていたということが、
話を進めていくうちに分かっていくのだった。

 

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前哨戦で敗れる

兵庫ダービーの前哨戦となった5月14日の『オープン特別』で
菊水賞馬シェナキングにクビ差の2着と敗れていた。
展開はおあつらえ向きで、
流れを掴んで勝ったと思わせたところでの敗戦だった。
周りの目はあれで勝てないのならシェナキングを本番で
逆転するのは無理だろうという考えが大半を占めた。
 
ところが真吾は「シェナキングとは差が縮まったかなと思いました。
菊水賞は自分から先に動いて結果的には完敗(4着)していたので、
脚をためて末脚勝負ならやれると感じた」と決して楽観論ではなく、
持ち味を生かすことができさえればチャンスはあると
確かな手応えを得ていた。
 
「枠順は(3番枠)は良いなと思っていました。
ダービーに関しては、騎手をやっている以上、
いつかは勝ちたいレースでした。
18年で15回ですか、結構乗ってますね(笑)。
いままで騎乗したダービーは全部覚えてますよ。
怪我して休んでたときがありましたけど、
ほとんど乗せてもらってありがたいですね」
 
過去に2着と3着がそれぞれ2度ある。
とくに2017年の兵庫ダービーでは勝ち馬ブレイヴコールに
わずかアタマ差及ばずで涙を呑んでいる。
あのときはレース後「悔しい…」と珍しく感情が湧いているようだった。
それでもダービーを獲れなかったというより、
大きいレースで負けたということを純粋に悔しかったのだそうだ。
 
何がなんでもダービーを獲ってやるというほどの気迫はないし、
自信もないけどチャンスはあると思って臨んだ兵庫ダービーの幕が開く。

 

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ターニングポイント

川原正一騎手が騎乗するマンテーニャの動きが、
真吾は気になっていた。
最初のコーナーでかかっていたり、
1~2コーナーで頭を上げていたりするのも見えていた。
 
向正面でも再び頭を上げるシーンがあって一瞬スペースができた。
「ここや!」と思って進出を開始する。
 
「外に出すのにスムーズに行けた。あれが大きかったと思う」
 
あそこでもし、上手く外に出せなかったら、
ゴール前のハナ差は逆転されていたかも知れない。
 
周囲の動きを的確に捉え、冷静な判断でスパートを開始。
大舞台、特にダービーという特別な舞台でも浮つくことなく
落ち着いたリードで勝利へ導いた。
 
3~4コーナーでもターニングポイントが訪れる。
下原理(おさむ)騎手が騎乗していたエイシンイナズマが前方にいた。
 
4コーナーで下原騎手が外に持ち出したことで、
真吾はさらに外を回らざるを得なくなりロスが生じた。
ところが、それは織り込み済みだったという。
 
「外には振られたけど、理さんはシェナキングに
馬体を併せるとしぶとく伸びると思って外に出した。
レース後に『ごめん』と謝ってくれました。
でも大丈夫です、ぼくでも同じポジションだったら
外に出してたと思いますと言いました。
それが想定できていましたから」
 
菊水賞の勝ち馬シェナキングは、スパッと切れる脚こそないけれど、
馬体を併せての追い比べには強い。
寄せて行ったらしぶとさを発揮することを下原騎手は分かっていた。
そして、その行動に出るだろうということを真吾は想定していたのだ。
 
さらに「ぼくが早めに動いていたら、
理さんの動きにフタをすることはできました」と下原騎手の先手を
奪う選択肢もあったのだと。
それでも敢えて、その行動にはでなかった。
 
「早めに動いていたら最後の脚がなかったかも知れない。
理さんが外に出してくるのは分かっていたけど、
そこで脚を敢えて使って抑え込むより、
出て来てもらっていいよと思っていました」と、
あの激しい勝負どころでも気持ちに余裕があった。
そして次の作戦に打って出た。
 
「馬に余計な負担をかけるより、
リズムよくスムーズに追い上げる方を心掛けて、
さらに外を回って直線追い上げました」。
 
このターニングポイントでの選択がことごとく的中し、
歴史に残る名勝負、3頭大激戦の兵庫ダービーをハナ差で制したのだ。

 
 

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