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クローズアップ ホースマン達の勝負に懸ける熱き想い

実は愛嬌があるんです

 

積極的に可愛がってもらう

永井騎手本人は、他の調教師からも可愛がってもらっていると
自覚している。調教師たちとの飲み会にも積極的に参加する。
 
「いまの若い人たちって嫌がる人も多いと思うんですけど、
ぼくはどんどん行きます。
酒は飲めないけど、ついて行くんです。
そうしてたら調教師の集まりにもよく呼ばれるようになり、
みんながベロベロになってる中、シラフでいるんです。
それでもすごく楽しんでいます。
帰りはもちろん、ぼくが運転手ですね」
 
楽しんでいるというところに、
決して調教師たちに媚びているわけではないのが分かる。
おとなしくて、コミュニケーション能力が決して高くない
と思っていたデビュー当時の印象とは違い、
しっかりと成長し、独自のネットワークを構築している。
 
「最初のころ、人との関わりが苦手だったので、
めっちゃ苦労しました。
とりあえず明るくしていこう、人前で笑っておこう精神で行きました」
と彼なりの努力が成果を上げているのだ。
 
一方で、厩務員さんとはなかなかうまく
いかなかったことが多かったという。
意思の疎通が上手く取れなかったのだと。
愛知県出身で、関西のノリの違いもあったか。
 
「元々ぼくの性格が超絶人見知りなので、挨拶だけでした。
第一印象として不愛想に思われていたと思います。
ただ、仲良くなれば可愛がってもらえて、
それが年々増えてきたような気がします」。
永井流のアピールが浸透していることを実感している。
 
筆者も、彼のことを引っ込み思案で消極的だと思っていた。
しかし最近はよく喋るようになると、
次第に可愛げがあるなと感じてきた。
だからこそ彼を取り上げようと思ったし、
意外に人心掌握術に長けているのかも知れないとも思っている。

 

クローズアップ

 

悔しさ残るエイシンイナズマ

今年、重賞レースで2着が2回。
コンビを組んで大舞台で好走した
エイシンイナズマの存在は大きかったと永井は振り返る。
 
「悔しさも大きかったです。
勝てそうで勝てなかったということより、
平松先生のことばっかりを考えて、
申し訳ないと思っていました。
一度先生に重賞の前のレース(2着)の騎乗ですごく怒られたんです。
もう重賞の騎乗はないと思っていたけど、それでも乗せてくれました。
そこでも勝てずにいて、さらに乗せてもらって…。
とにかく先生に申し訳ないなと思っていました。
オーナーさんにもずっと乗せてもらって
可愛がってもいただいて、それも申し訳なくて…」

同馬は『兵庫ユースカップ』『菊水賞』を
永井騎手でともに2着とし『兵庫ダービー』では
下原騎手に乗り替わり3着に。
その後は南関東に移籍した。
 
「重賞でぼくが勝てなかったのは
大舞台の経験の少なさが出たのだと思います。
ただ大舞台に出るだけではなく、
勝負できる馬に乗ることがこれほど難しいとは思いませんでした。
だからこの経験は本当に大きかったと思います。
だから、普段のレースで気持ちに余裕が出てきました。
プレッシャーがなくなりましたね。
すごく人気していたとしても、緊張がなくなりました。
エイシンイナズマとの経験で成長できたんだと思います」と胸を張る。
 
「エイシンイナズマはデビュー当初は
あまり大きな期待はされていなかった。
だから乗せてもらえたんです。
攻め馬にも跨り、ずっと乗せてもらえました。
道営からの移籍初戦が3着だったんですけど、
強い馬の3着だったので、もしかしたら走るかも知れないと、
このときに思いました」と初戦で手応えを得ていた。
 
「2戦目で勝ったときに強かったので、
これならやれるかなと思いました。
それからも馬の成長を感じていました。
めっちゃ賢いんです。レースのときだけスイッチが入るような馬で、
追い切りをしたらすごく状態が良くなる。
自分で身体を作るタイプなんです」
 
「レース後はカッカするところがあったので、
いかに落ち着かせることができるかということを考えていました。
レース直前に併せ馬をすると調子が上がるので、
そこまではできるだけセーブしていくことばかりを考えていました」
 
エイシンイナズマに成長にさせられたと感じていたが、
同馬の成長に十分すぎるくらい貢献していたのが
他ならぬ永井騎手だった。
 
「楽しいです。自分で考えて成長させられると嬉しい。
自分が乗れなくても、馬には頑張って欲しいと思う。
勝ったらぼくも嬉しい。
ぼくが乗って勝てなかったらぼくの責任なので、
それならばベテラン騎手に乗ってもらう方がいい。
結果が残せなかったら申し訳ないですから」と。
 
幼いころに感じた馬が好きと言うのは変わらない。
ただ、描いていたジョッキー像ではなかったという。
ハードスケジュールで、コミュニケーション、人間関係が大事。
そう思ったとき、ひょっとしてジョッキーに
向いてないんじゃないかとまで思ったことがあった。
 
「馬を見ていると手入れしたなくる。
そういう側に回りたいなとも思ったことがありました。
世話をしたい、馬を大事にしたい。
騎手は乗るだけですけど、世話をする立場になりたいと」
 
それでも騎手としてまた奮起できたのは、
期待してくれている人が多いことが支えとなった。
 
「周りの調教師もそうですけど、
先輩騎手にも可愛がってもらっています。
例えば笹田さんは、普段誰にも教えていないトレーニングを
教えてくれることがあるんです。
(大柿)一真さんはデビューの頃からぼくに厳しいんです。
ぼくの厩舎に以前から乗っていたことがあったからか、
気にかけてくれていました。
そういう人たちを裏切ることはできないですから」と表情を引き締めた。
 

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今後の目標

ルーキーが入って来て、乗り鞍が奪われることがある先輩騎手。
それでも永井騎手は大きな影響は受けていないという。
 
「ないことはないけど、少ない方だと思います。
ぼくから新人に乗り替わることはほぼないです。
調教師にベタベタして乗せてください!と言ってますし(笑)」
と自信をつけた愛嬌に物を言わせている。
 
今後の目標については
「やっぱりリーディング10位以内にはいたいですね。
それはここ何年かでクリアしたい。
そして5位以内につけて、常にリーディングを狙える位置にいたいです。
学さんと理さんを引退に追いやるぐらいの気持ちで頑張りますけど、
それは絶対に無理ですから、
引退してからが勝負です(笑)」とおどけてみせた。
 
私生活については「結婚願望は強い方だと思います。
タイプとしてはしっかりしていてサバサバしている人。
キツイ感じの方がいいんです。
でも、まず彼女がいないのでそこからですね。
お世話になっている調教師からは『いつも暇や言うてんなぁ』
と言われていますから(苦笑)」
 
これからがますます楽しみな成長株。
調教師からだけでなく、女性からもモテモテになるほど、
今後は熱視線が注がれるのではないだろうか
と期待せずにはいられない。

 
 

文 :竹之上次男
写真:斎藤寿一

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