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クローズアップ ホースマン達の勝負に懸ける熱き想い

紆余曲折を経て見つけた場所

 

 

森澤厩舎で再出発

昨年10月に、様々な学びがあった金沢から園田に戻り、
森澤厩舎で心機一転再スタートを切った。
「途中で拾ってもらった存在であるにも関わらず、
育てたいって思いで乗せてもらっているんで、
すごく感謝しています。
自分のためだけではなく、森澤厩舎のために頑張ろうと思えますね。
先生のことをすごく尊敬していますし、二人でご飯とかも行きますよ」
と良い関係が築けているようだ。
 
「金沢で視野が広がり、引き出しは増えたかな。
騎乗フォームも綺麗になったねと言ってもらった」
と自身の成長を感じる一方で、
「去年は帰ってきてから2つしか勝てていないんですよ。
かなりいい馬に乗せてもらっていたのに・・・
技術のなさを痛感しました。勝てない自分が情けなかったですね」
とまだまだ未熟であることも認める。
 
森澤厩舎とは不思議な縁がある。
人馬転倒により競走除外となり、
幻のデビュー戦となってしまったダイシンクワトロは
森澤厩舎の馬だった。
「前の所属の時に初めてメインを勝ったのが
森澤厩舎のヨウライフク(昨年3/24)で、
その次にメインを勝ったのが今年姫路のステップシュート(森澤厩舎)。
しかも、この2頭兄弟なんですよ。
兄弟でメイン勝たせてもらって、そういうところでも
全部縁があるんかなって感じましたね。」

 

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愛馬ダイシンクワトロ

「ダイシンクワトロに乗せてもらえたのがすごく嬉しかったんですよ。
この馬で1度は勝ちたい」という想いを先生は汲んでくれた。
そう1年半前、騎手としての初陣で人馬転倒してしまい、
一緒に走れなかったあの馬だ。昨秋以降、
ずっとコンビを組ませてもらっている。
 
「一番思い入れある馬、大好きな馬ですね。
まじめすぎてレースの折り合いがしんどい子で、
5月のナイターでの最終レースなんかは引っかかって
めちゃくちゃ下手くそに乗ってしまって2着。
本当に技術のなさが情けなくて・・・」と悔しさを滲ませた。
 
「もう乗せ替えかなと思ったんですが、
それでも辛抱して乗せてくれて次こそは絶対決めたい」
と臨んだ次のレースで遂に勝利を挙げることができた。
「7/1 12レースの11番枠ですよ」とあの日のことは、
ゼッケン番号までも鮮明に覚えている。
ダイシンクワトロにとって2年ぶりとなる勝利を
エスコートできた喜びは大きな思い出の1ページだ。
 
「毎日調教でもガーっと行ってしまうので乗るのは
しんどいんですが、クワトロに跨るのは好きな時間ですね。
また牧場から帰ってきて、涼しくなったら走ってくれると思います」
と競馬場での再開を楽しみにしている。
 

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ヤングジョッキーズシリーズ、
トップに立つ

現在、ヤングジョッキーズシリーズの
トライアルラウンドの真っ只中に身を置いている。
先月、まずは金沢ラウンドで2着を取った。
「佐藤茂厩舎の馬が抽選で当たったのも大きかったですね」
と不思議な縁も感じた。
そして、園田ラウンドの第1戦を逃げ切りで勝利し、
堂々と西日本・地方騎手のトップ立った。
残すは11/18の名古屋ラウンドのみだが、既に全ての騎乗を終えており、
他の騎手の結果待ちという状況にやきもきしている。
 
「(ファイナルラウンドに)行ける確率の方が高いんですか?
7割くらいの確率はあるんですかね?
ここまで来たら乗りたいですよ。
JRAで乗るなんてないですもん」と12月の大井&中山競馬場での
騎乗に向けてはやる気持ちを隠せない。
 
「やっぱりち―君(兼子騎手)と出たいですね」
と現在6位の親友のポイントも気になる。
もちろん応援したい気持ちはあるが、
彼が圏外から出場枠に飛び込んでくると自分がファイナル出場の
4枠からこぼれる危険性も増してしまうから話は複雑だ。
 
「これで行けんかったらよほど運がないってことですよね。
行けなかったら笑ってください」と自虐的に話したが、
「(小谷)周平さんには行けんかもって言うてたら
ホンマにそうなってしまうから、
行けるって自信持っとけって言われました」と信じて前を向く。
 
ルーキーイヤーに続く2度目のファイナルラウンド進出へ、
1ヶ月半後の吉報を信じて待とう。

 

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今後の夢

「デビューした頃と比べて落ち着いて
乗れるようにはなったかな。
でも、追い出してからが課題ですね。
綺麗に追おうとはしてるけど、まだ理想とは違う形になって
しまってますね」と修正すべきポイントは自覚している。
「今は、川原さんに教えてもらった“1~2コーナーの入り”
と“馬のリズム”を意識して乗っています。
それを気にしだしてから馬が気持ちよく走るようになったんです」
と、少しずつ教えを吸収、成長できている実感はあるようだ。
 
そして、取材をした筆者が感じたのが、
ものすごく記憶力が良いということだ。
いついつなんという馬でこんなレースをして何着で・・・
という話が鮮明に次から次へとどんどんと出てくるのだ。
この記憶力は、自馬のみならず、
相手の特徴をも頭にストックしていくことで、
騎手として大きな武器になるはずだ。
技術がさらに向上した暁には、馬の癖を考えた
頭脳的な騎乗がどんどん見られるのではないか、
今後の成長に期待したい。
 
「これからも楽しくレースに乗って技術向上しつつ、
たくさん勝ち星を増やしていきたいです。
自厩舎で勝つのが一番嬉しいので、
いつかは森澤厩舎の馬で重賞を勝ちたいですね!」
 
今年は森澤厩舎のエイシンピストンで初のダービー騎乗も
果たした木本直騎手。
デビューから様々な紆余曲折を経て見つけた場所で、
恩師の期待に応えたい一心で地道に技術の研鑽に励む。

 
 

文 :三宅 きみひと
写真:斎藤寿一

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