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クローズアップ ホースマン達の勝負に懸ける熱き想い

勝利への渇望

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節目の開業10年目での快進撃

5月31日終了時点、兵庫リーディングトップの39勝。
勝率は31.7%で地方全体の2位、
連対率56.1%、
複勝率66.7%は共に1位。
毎年右肩上がりに成績を伸ばしてきたが、
今年は特にブレイクスルーの戦いぶりを見せる
保利良平厩舎。
 
5月11日には地方通算300勝のメモリアルを飾るなど、
節目の開業10年目での快進撃について、
保利良平調教師ご本人にお話を伺った。
保利師にここまでの好成績について尋ねると
「今年がうまくいきすぎているので」としながらも、
「ただ、この10年の節目にあたってやり方を変えています」
という興味深い言葉が続いた。
 
“数字は気にしていない。
1頭1頭を勝たせたいという思いの積み重ねが
今の成績につながっている”と話す保利師。
取材中、何度も聞いた「勝ちたい」という言葉が印象的だった。
 

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背水の陣で臨んだ厩舎改革

保利師が語る最大の転換点、
それは厩務員が担当する馬の頭数だ。
保利良平厩舎では今年の1月から厩務員が担当する頭数を
4頭から3頭に減らした。
1頭にかける時間を増やすためだ。
夜1時に起きて、
1頭あたり1時間半ほど見ていたところを、
2時間かけられるようにした。
こうすることで1頭ごとの運動量も上がり、
厩務員の目がより行き届く。
規模は違うがJ R Aでは一般的に厩務員の担当は
2頭であること、
兵庫県競馬の賞金が上がっているということも考慮した。
 
実際この決定には賛否の声が飛んだという。
多くの頭数をやりたい者もいれば、
年齢的に4頭はしんどいという者もいた。
去年の暮れ、厩舎の集まりの中で、
保利師はスタッフにこう伝えた。
「うちの厩舎は来年の1月から1人3頭持ちにするから、
4頭やりたいなら、よその厩舎に移ってくれても構わない。
その代わり、僕も頑張って馬の采配をして、
良い馬を入れられるように頑張るから」と。
とてつもなく大きな決断だった。
 
しかし、結局誰一人として厩舎を離れることはなかった。
「良い仕事をしてほしいから、給料は下げることなく、
きちんと出す。その分、オーナーに預託料を交渉しながら。
それが功を奏したんでしょうね。
厩務員も騎手も、僕もですけど勝ちたいんですよ。
勝つための最善の手段を取ったというか」。
“勝利が最優先”という共通認識がより強く浸透した、
“シン・保利良平厩舎”の2022年が幕を開けた。
 

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改革への助走期間

こうした改革の“助走”はすでに去年の4月から
始まっていた。
馬が夏負けしないように馬房全体に4基のエアコンを設置した。
馬に良いことは全部取り入れようという
保利師の考えの表れだった。
それでも夏負け気味の馬は出てきたが、
脚が腫れたり、使えなくなったりするほどではなかった。
「そこでおそらく厩舎が勢いに乗ったかなという感じ
はあります。
そうしたことが実を結び、結果が出るようになって、
オーナーも認めてくれるようになったというか。
自分の考えはこうですと強く主張できるように
なりました。
 
“今は体調がすぐれないから一回リフレッシュさせてもらいたい”
とか、昔だったら言いづらかったけど、
“お前が言うならそうさせよう”と言ってくれる
オーナーが増えたことが大きい。
ただそれも本当に最近のことですけど。
うちはリーディングでも10位が9位になるなど
成績が毎年何か1つ上がっているんです。
それを言うと成績が落ちた時が怖いんですけど(笑)
 
同じような失敗はしないと常に思っている。
前回はこういう負け方したから、次はこう対策すると、
それを厩務員に伝えて。厩務員も勝ちたいんで、
それがみんなに伝わっているんかなと思いますね」と、
今年の好調を分析する保利師。
厩舎では毎週必ず一度、ミーティングをしている。
馬の状態などの情報を共有し、
それを調教師から馬主に伝えるという形だ。
このミーティングも去年の姫路開催の終わり頃から
始めて1年以上になる。
「自分の担当馬でなくても、はたから見ていて、
“あの馬調子悪そうやで”といった気になる声があれば
馬主さんに伝えたい。
体調の悪い時にいくら調教しても身にならないんで。
オンとオフだけはしっかり取らせたいと思っています」。
 
加えて、勝利のためには、他厩舎の馬も入念にチェックする。
「自分が見てこれは強いなという馬はしっかり見ています。
“先行したらしぶとい”とか。
上に行ったらぶつかるのはわかっているけど、
下級条件ならなるべくロスなく勝てるところに持っていきたい
と思っているんで」。
 
ちなみにここまで緻密に計算して愛馬を送り出すが、
騎手には基本指示はしないという。
「やっぱりうまくいかないんですよ。
例えば、行き切って欲しいけど、
行かれへんかったらしゃあない。
あとは自己の判断に任せます。
僕もジョッキーやってたから心の中で乗っているんですよ。
あそこ内入ってたら勝てたかなぁとか、
一応レース後には話はしますね。
騎手と今後のことを話し合いながら、
この馬を勝たせるには次にどうしたら良いか、
作戦は考えます」。
騎手の気持ちが分かるところも保利師の強みだ。

 

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