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クローズアップ ホースマン達の勝負に懸ける熱き想い

師弟愛で掴んだダービー

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ターニングポイント

笹田騎手には、未だに忘れられないレースがある。
それは、木村健騎手からバトンを受けて
エーシンサルサに騎乗した2015年の摂津盃。
エーシンサルサはこの時既に重賞4勝馬で、
のちにこの年の園田金盃を勝って年代表馬(当時の呼称)に
輝くことになる強豪牝馬だ。
主戦の木村騎手が騎乗予定だったが、
摂津盃当日に突如腰痛を発症して6R以降騎乗できなくなり、
笹田騎手に急遽の騎乗依頼が舞い込んだ。
兵庫デビューから5年目、
重賞初制覇の千載一遇のチャンスが訪れた。
 
しかし、結果は2着。3番手追走から、
前にいた11歳馬ダイナミックグロウを捉え切れなかった。
 
「ゲートが難しい馬だったけど普通に出せて、
ソツなくは乗れているんですけど、
実際ただ乗ってきただけなんですよね、
今の僕から見ると。
木村さんが乗っていたら絶対勝っていただろうし、
今の自分が乗っていたら勝たせてあげられていたんじゃないかと。
今ならもっと早くから仕掛けられていただろうし、
今の筋力だったらもっと馬を動かせていたと思うんです。
普段負けてもそんなに引きずらないんですが、
あの夜だけは引きずりましたね。
いかに当時の自分が頼りなかったか、
痛感させられたレースでした。
(結果が出せず)申し訳なかったんですが、
乗せてくれた忠男先生(橋本忠男調教師)には感謝しています。」
 
とにかく悔しかった。
このままじゃダメだという気持ちになった。
そして、普段の取り組み方にも変化が生まれ、
翌年の菊水賞、シュエットでの重賞初制覇につなげた。
 
もう一つ、自厩舎のエイシンホクトセイに騎乗した
2018年新春賞も印象深いレースだったという。
マイタイザンの2着に敗れた一戦だ。
 
「上手に乗っているんですよ。
すごく上手に乗っているんだけど頭差届かなかったんで、
まだ足りないなという気持ちになりました。」
ファンの評価は7番人気だったが、
自信を持って臨んでいただけに悔しさが募った。
 
逆に会心のレースはあるかと話を向けたが、
「う~ん・・・・・・あまりないかもしれませんね。
反省点の方を見つけてしまう。
勝ったレースだけ見て満足していては上手くはなれないので。
勝ったレースの中にも反省はあるので」と常に課題を見つけて、
その改善に取り組む姿勢が
右肩上がりの成績に現れているのだろう。

 

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ダービージョッキーのこれから

最初の重賞を勝つ前後くらいに
「もう少し下半身を鍛えろ」と師匠に言われ、
常に自分に足りない筋肉を探しながら重点的に
トレーニングを積んできて今がある。
数多く悔しい経験をしながら、
少しずつ実績も積み上げてきた。
 
現在36歳。
「自分ではまだ実感はないけれど、
衰え始めてもおかしくない年齢なので衰えないように。
若い騎手からも見られる立場にあるので、
目標にしてもらえるように努力はしないとと思っている」と、
若い子よりも長い距離が追えるよう、
体力面で衰えないようにしっかり意識している。
 
ダービーを勝ち、「ダービージョッキー」という称号を得た。
「自分の自信に繋がりますし、
ダービージョッキーに恥じない成績を挙げないと、
という気持ちになります」と
いう笹田騎手の次なる目標は・・・。
 
「やっぱり目指す所は一番上ですよね、リーディング。
今現在、自分よりも上の人たちがいるので、
近付きたいし追い越したい。
上3人(吉村騎手、下原騎手、田中騎手)は強敵ですし、
学ぶ部分は多いです。
ここ(兵庫)ですら4位、
全国で見ればまだまだ上の人たちがいるので、
少しでも近づきたい。
吉村騎手は全国リーディングでトップ争いをしている人なので、
同じ騎手として目標としないといけないと思う。
体を見てもしっかりトレーニングされていると見えるし、
勝ちたいというハングリー精神が誰よりも強いと思う。
そこは見習わないといけない。
人にできて自分にできないことはないと思っているので、
努力一つでどうにでもできると思っている。
今でも乗っていてこういう筋肉が欲しい、
こういう柔らかさが欲しいと思う部分があるので
そこを補っていきたい」と貪欲に高みを目指す。
 
「常に自分に足りない何かを探し続ければ、
それは技術の向上に繋がると思うし、
馬の勉強や一緒に乗る人の勉強(癖を知ること)も
必要だし、何事も常に勉強を続けていれば
結果にはつながっていくと思っています。」
 
「皆しんどい時期を経験して成長する、
そこで腐るか這い上がるかは自分次第。
這い上がっているのか、先生に釣り上げてもらっているのかは
分からないですけど。(笑)
僕自身一度は諦めていますから。
それでも、馬に乗る楽しさが忘れられなくて、
こうやってここにいるので。
元々は中央しか考えていなかったですが、
園田にいさせてもらって、楽しいし難しいし、
なかなかいないんじゃないですかね、
両方の良さを知っている人間って。」
 
 
厳しいながらも父の愛情を受けて育った
“競馬界のサラブレッド”は、紆余曲折を経て出会った
尊敬する師匠の下で、中央地方の垣根を超えた
“競馬界のハイブリッド”として益々活躍の場を広げていく。

 

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文 :三宅 きみひと
写真:斎藤寿一

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