まだ記憶に新しい11月4日、
1日2勝を挙げて、節目の100勝と、
減量卒業となる101勝を達成した、
兵庫の2年目、大山龍太郎騎手(※以下、大山龍騎手)。
競馬関係者からは“龍ちゃん”などの愛称で親しまれ、
可愛がられている19歳だ。
その名に込められた“龍”の文字の勇ましさとは裏腹に、
どちらかと言えば龍は龍でもインドネシアに生息する
“コモドドラゴン”のような愛らしさがある風貌だ。
まだ少年のあどけなさが残る若人は、
その後もあっさり102勝を決め、
一般騎手となっても着実に勝ち星を積み重ねている。
9月8日には、中央、地方の若手減量騎手が腕を競う
ヤングジョッキーズシリーズのトライアルラウンドが
園田で行われ、大山龍騎手は8月に行われた
T R佐賀を含めて4戦2着3回、
4着1回と好成績を収めた。
西日本・地方で堂々1位通過でのファイナルラウンド進出だ。
惜しくも兵庫からの出場は大山龍騎手のみとなったが、
その分16日の名古屋、17日の中京で大いに暴れてほしい。
そんな師走の大一番を前に大山龍騎手に胸の内を聞いた。
「ヤングジョッキーズシリーズは色々あって
初めて出場するんですが、
初めてで1位で出られるのは嬉しいですね。
いつも先輩方と乗っているときは、
自分の戦法とかがバレているんで、
戦いにくいんですけど、初めての方達と乗ったら、
結構やりやすかったです。
どこで仕掛けるかとか先行が得意とか多分知らはらへんので」。
ただそれでも不思議と勝利には届かなかった。
「そうですね。めっちゃ悔しかったですね。
全然勝てなくて…。
難しいなと思いましたね。やっぱり勝ちたいですよね。
勝ってなんぼなんでこの職業は」。
勝ち星こそ上げられなかったが、トライアルはトップ通過。
ファイナルへ向けて自信にはなったのだろうか。
「J RAのこととか、競馬の流れとかが全然わからないんで、
ずっと不安でしかないです。
周りからは『距離を間違えるなよ』と、
坂本調教師をはじめ、みんなに言われますけど、
本当にそこしかないです。
一番は正直そこですね」。
大山龍太郎騎手を深く掘り下げようとするとき、
否が応にも触れざるをえない苦い過去がある。
去年、自身が引き起こしてしまった距離誤認のレースだ。
騎乗停止に加えて、停止明け後も限定免許となり、
他地区で騎乗する資格を一時失ってしまった。
そのため去年はヤングジョッキーズシリーズに
出場することはできなかった。
すでに101勝に到達し、一般騎手となった
大山龍騎手にとっては、
今回が最初で最後のヤングジョッキーズシリーズとなる。
「反省はもちろん、いろんな方に迷惑をかけてしまったので…。
今回は逆に良い騎乗で注目してもらえるように、
信用してもらえるように頑張りたいです」。
今も時々距離誤認のレースを見返すという。
「鳥肌が立ちます。ちょうど緊張もほぐれてきて
慣れてきた時期で…バカとしか言いようがないです」
と神妙な面持ちで語る大山龍騎手。
「気持ちはそこから変わりましたね。
騎乗停止が明けて復帰してから。
勝つというより、レースをちゃんと回ってくるというか、
そこに意識が向いちゃって当時はあまり勝ててなかったんです。
今も一番はそれを考えて乗っていますね。
次やってしまったら、終わっちゃうんで。
この職業を続けるためにもしっかりやろうと」。
まだ10代とはいえ、立場はプロ。苦い記憶が覚悟を生んだ。
逆に勝利を求めれば、
自ずと距離誤認などは起こらないはずだが、
自身もそれは理解した上で、個々の課題にも取り組んでいる。
師匠である坂本和也調教師からも再三指導が入るが、
特に注意を受けるのは、最後の直線での鞭の使い方について。
“絶対に鞭を右に持ち替えてしまう”という癖だ。
「その癖がデビューしてからずっと治らなくて。
外に張る馬にそれをやっちゃうんですよ。
そうすると内が空いて勢いのある馬が入ってくる。
それで何度か着順を落としているので」。
今は普段の調教でも鞭を左手に持つなどして
改善に取り組んでいるところだ。
そのような成長途上の中でも11月4日、
節目の100勝達成、そして減量卒業の101勝目を
1日のうちに成し遂げた。
自身の100勝が迫っても緊張感というのはなかったが、
本命視されていた馬で2度チャンスを逃したことで、
次第に『勝ちたい』という思いが強くなり、
焦りを生んだ。
しかし、ついに100勝達成の時は訪れる。
それも、普段から騎乗しているムーンコムレードとの勝利だった。
縁を感じる勝ち星に感慨深いものがあった。
そしてその後の101勝を境に一般騎手として
歩み始めた大山龍騎手。
ここまでに感覚的な違いはあるのだろうか。
「1キロはそんなに変わらないんですよ、
感覚的には。でも周りの目が一番変わるんじゃないですか。
『減量無くなったから用ないな』みたいな。
そこで先輩方も勝ち鞍がなくなる時期があったんじゃないですかね。
実際冗談半分でそう言われますし、
僕が調教師でもそう思います。まだ未熟ですし。
だからこそ、僕はこの減量が取れた最初の週が
一番大事だと思って。
『減量が取れても勝てるぞ』というところが見せられたら」。
本人にとっては減量卒業間もない今が正念場だ。
同期の中にはいち早く一般騎手になった佐々木世麗騎手がいる。
「意識はしてないですけど、絶対通算勝利は抜かしたいと思います。
まだまだ遠いですけどいつかはと思っています」
と大山龍騎手。
結局のところ、しっかり意識しているようだ。
「佐々木騎手はライバルですね。自分にないものは
『あらゆる意味での積極性とトーク力』ですね。
見習うところが結構あります。
長尾翼玖騎手は、同期ですけど向こうが2歳年上で、
僕を弟のように思っているらしいです。
頼り甲斐があって面倒見がいいんですよ。
お兄ちゃんのような存在でもありますね。
仕事でもプライベートでも、いつも感謝しています」。
一口に同期と言ってもみんな個性派。
様々な形で影響し合っているようだ。