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クローズアップ ホースマン達の勝負に懸ける熱き想い

夢を叶えたダービージョッキーが目指す未来とは…

 

無観客競馬スタートから5ヶ月

3月から始まった無観客競馬は5ヶ月が経過した。
杉浦騎手に訊くと、
「寂しさもあるけど、無観客に慣れてきてしまいました・・・」
と苦笑いを見せた。
「やっぱりお客さんいてくれて歓声あった方が乗っている僕らも楽しいし、
盛り上がるので、(ファンのいる日常が)早く戻ってきて欲しいです。
ヤジとかもあってこその競馬場なんで・・・寂しいですね」と話す。
 
無観客競馬が始まった後、4月にオーストラリア産の白い砂に
園田競馬場の馬場が生まれ変わった。
しかし、このナイター照明に映える綺麗な馬場をまだ一度も生でファン皆さんに
見ていただけていないという状況が本当に残念でならない。
 
新しい砂に対して、「いい砂だ」という感想はどの関係者からも聞かれるが、
杉浦騎手も例に漏れず「乗りやすい印象。
少し深くはなっていてスピード競馬にならない。
水捌けもいいし、馬の脚下にも負担がかからない良い馬場だなと思う。
内外もそこまで変わらないし、展開一つで変わってくるのでレースが楽しい」
と高評価を与えている。
 
以前の砂は雨が降り不良馬場になると、
砂が泥と化し、馬が脚を滑らせてしまう危険性があったが、
新しい砂になって随分それは解消された。
それだけではなく、「以前は、馬が蹴り上げた泥がベチャっと
ゴーグルに付いてしまって前が見えなくなってしまうことが多かったが、
今の砂は粒が大きいのであまり付かない」と、
騎手の視界確保の点でも安全性が高まっているそうだ。

 

クローズアップ

 

かっこいいパパを目指して

家に帰れば、杉浦騎手もパパの顔になる。
マイタイザンの名前の由来ともなった奥様・舞さんとの間に
生まれた長男・豪太郎君は先月2歳になった。
その成長に杉浦パパは力を貰っている。
子供が生まれてからの自身の変化として「寝る時間が減りました」
と笑っていたが、「日々子供の成長が見られて楽しいし、
最近はレース画面を見ながら色で分かるのか
“ピンクと黒の勝負服”を見つけて指をさしているらしいです。
重賞で優勝して一緒に背中に乗って口取り写真を撮るという夢は叶えられたので、
今度は物心つく頃にしっかりと活躍していて、かっこいい姿を見せたい」と話す。
 
かっこいいパパを目指す。そのためにはもっと成績を上げたい。
日々奮闘中の杉浦騎手に、最近レースで意識していることを尋ねると、
「力が五分の馬同士だと、内側や馬群を綺麗に捌いて来られるかで結果が変わってくる。
それが理想的な勝ち方だと思うので、最近はそこを気にして乗っている」と話し、
「その進路の取り方が上手いのは学さんや理さん」と
田中騎手や下原騎手の名前を挙げた。
また、リーディングジョッキーの吉村智洋騎手とは
調整ルームでよく一緒にご飯を食べるそうで、
「いい話をたくさんしてくれて、吉村さんの考えはすごく理に適っているし、
考えて乗っているんだな」と勉強になっているとのこと。
デビュー当時は、木村健騎手が目標と話していた杉浦騎手だが、
「木村さんは魅せるレースができた騎手。ちょっとでも近づきたいと思っている」
と今もその思いは変わっていないという。
 
トップジョッキーのそれぞれの良い所を盗み、
自分のものにしようとする姿勢がうかがえる。

 

クローズアップ

 

目標は年間100勝

今後の目標を訊くと、「100勝です!」と杉浦騎手は即答した。
2016年以降この4年間の年間勝利数は、82→82→74→85勝。
毎年年間100勝を目標に掲げながらあと少しという成績が続き、
昨年はキャリアハイの85勝を挙げたがもちろん満足はできていない。
 
今年ここまで50勝(7/27現在)という勝ち鞍については、
「いつも通りというか・・・(苦笑)
もう少し急がないとまたチョイ足らずで終わってしまう。
何年言い続けてんねん・・・ってなってしまうので」と、
今年こそという思いが強い。
 
100勝の壁を突き破るためには、
「勝てるところでちゃんと勝つのが大事。
ああしておけば勝てていたのにという2着を減らす」ことがここ数年の課題だった。
例年1着数より2着数の方が多かったが、
今年はここまで1着の方が多く、前進は見せている。
 
さらに今年は1番人気馬に騎乗しての勝率が昨年を大きく上回り、
それは下原理騎手や田中学騎手を超える数字であることを伝えると、
驚きと喜びの表情を見せた。
「人気馬で勝つのは意外と一番難しい。
マークされる中を潜り抜けて勝てるジョッキーがすごいと思う。
さらにレベルアップしてきっちり結果を出せたらなと思う」と、
勝利の中身についても一定の手ごたえはあるようだ。
 
勝率、勝利の質は上がっている。
しかし、勝利数自体は昨年とほぼ同ペースに留まる。
それは騎乗数が15%程減っていることに起因する。
「松木(大地騎手)や井上(幹太騎手)も移籍して来て、
その分で乗り鞍が分散してしまっているというのもあるかな。
でも後輩には負けたくないし、もっと頑張らないといけない!」
と危機感を募らせている。
 
11年目で27歳。後輩騎手も増えてきた。
「やっと若手の枠からちょっとずつ抜け出してきてるのかなとは思っているが・・・
まだまだ若手で行きますよ、気持ちは!元気良さが売りなんで!」
 
 
 
杉浦騎手がひたすら追い続けている年間100勝。
最後に、それを達成した先に何を見ているかを訊いた。
「100勝を達成しても、それを続けないといけない。
続けるとトップ5が見えてくる。」
 
例えば兵庫で行われるJRA交流戦で遠征してくるJRA馬には、
現状、吉村・下原・田中といったトップジョッキーに騎乗依頼の声がかかる。
トップ5入りを果たすと、そういったチャンスが出てくる。
また、地方他地区で行われる重賞レースに乗りに来て欲しいと
他の競馬場から声がかかるようにもなるだろう。
 
そんな未来に向けて、
「全国の遠征も色々と経験させてもらっている中で、
遠征でもしっかり勝って名前を売りたい。
全国の人に杉浦健太の名前を知ってもらいたい」と
その足掛かりを作っていきたいと考えている。
 
「もう4年近く遠ざかっているJRAでももっと乗ってみたい」 
「交流重賞に呼ばれるなど、色々と声かけてもらえるようになりたい」
 

ダービー制覇という大きな夢を一つ叶えた杉浦健太騎手は、
早くも次の夢を描く。
その夢に向け、若きダービージョッキーは残り5ヶ月、
まずは我武者羅に100勝を目指す――。

 
 

文 :三宅きみひと
写真:斎藤寿一

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