2025 兵庫ジュニアグランプリ(Jpn2) レポート
2025年11月27日(木)
毎年11月に実施される2歳馬によるダートグレード競走「兵庫ジュニアグランプリ(JpnⅡ)」。川崎競馬場で行われる全日本2歳優駿(12月17日)に向けてのステップレースとなっている。
JRAからは、なでしこ賞を勝ったローズカリス、エーデルワイス賞(JpnⅢ)2着馬のトウカイマシェリなど5頭がエントリー。他地区からはネクストスター門別を制したスペシャルチャンス、同レース2着馬のゴッドバロックの北海道所属馬2頭に高知のサンフラワームーンが参戦。地元からは兵庫ジュベナイルカップ、ネクストスター園田を連勝したエイシンイワハシルが登場。兵庫所属馬初の兵庫ジュニアグランプリ制覇に期待が集まる。その他にも将来を期待される素質馬が揃いフルゲート12頭で争われた。

1番人気(単勝2.4倍)はJRAのローズカリス。芝のデビュー戦で4着に敗れると、次戦はダートへ矛先を向け、未勝利戦(小倉・ダ1000m)で後続に7馬身差をつける圧勝劇で勝ち上がった。距離延長となったヤマボウシ賞(阪神・ダ1400m)はクビ差の2着。メンバー強化の一戦で手応えを掴むと、前走のなでしこ賞(京都・ダ1400m)は鮮やかに逃げ切って2勝目を挙げた。小回り対応と同時に同型との先陣争いとなりそうで序盤の位置取りが鍵になる。
単勝4.9倍の2番人気はJRAのラッキーキッド。デビュー戦(東京・ダ1600m)はスタートを決めて楽に2番手を追走。徐々に加速すると最後は2着を3馬身差をつけての完勝だった。跳びは大きく490kg前後の迫力がある馬体で将来性を感じさせる。ただ、今回は小回りの園田競馬場。器用さを求められる舞台でどんな立ち回りを見せるのか?園田のダートグレード競走で3勝を挙げている戸崎圭太騎手がどう導くのか注目だ。
3番人気(単勝5.0倍)はJRAのトウカイマシェリ。デビューから3戦は函館の芝1200mで2、1、7着の成績。3戦目の函館2歳ステークス(芝1200m・GⅢ)は敗れたが、前が止まらない高速馬場でありながらも良い末脚は使っていた。前回のエーデルワイス賞(門別・JpnⅢ)で初めてダート戦に起用。ゲート出は速くなかったが促すとスッと加速して2番手外を追走。勝ち馬は捕らえられなかったが2着を確保した。今回は距離延長とコーナー4つのコースへの対応がポイントになるが、乗り慣れた鮫島克駿騎手とのコンビで初タイトルを狙う。
兵庫の吉村智洋騎手を鞍上に迎えるJRAのエコロレーヴが4番人気(単勝5.1倍)。ダートへ矛先を変えた2戦目で2着と好走すると、次走(阪神・ダ1800m)で逃げ切って初勝利をマーク。前走のオキザリス賞(東京・ダ1400m)もハナを主張して3着。最後は脚色が鈍ったが持ち前のスピードを発揮した。今回は同型との兼ね合いが鍵となりそうだが、行ききれれば不気味な存在だ。
5番人気以降はゴッドバロック(北海道)、エイシンイワハシル(兵庫)、スペシャルチャンス(北海道)の順で続く。重賞勝利経験がある地方勢も侮れず、軽視はできない。
出走馬












レース













11月27日(木)は「兵庫ジュニアグランプリ」と「園田金盃」の同日開催ということで場内は賑わいをみせた。朝から晴れて最高気温は18℃まで上昇。馬場状態は2日前に降った雨の影響で「稍重」の発表だった。しかし、重賞の時間が近づくにつれて西から雨雲が接近。兵庫ジュニアグランプリの発売中にひと雨はあったが締切と同時に止んだ。ブラスバンド「H.B.B」によるファンファーレの生演奏が行われ、場内からは拍手と歓声が起きる。枠入りはスムーズに進んで大一番のゲートが開いた。
スタートはクリスタルピットのみが出負けしたが、他はまずまずの飛び出しをみせる。大方の予想通り逃げ、先行タイプの馬達が前に出てきた。スピードを活かしてエコロレーヴが先手を主張して直後にローズカリス、外にスペシャルチャンスがつける。一列後ろに内からサンフラワームーン、ストロングボンド、エイシンリガーズが追走。前の6頭が固まってゴール板前を通過。中団の外にエイシンイワハシル、内にラッキーキッド、直後にトウカイマシェリがつけている。後方の3頭はゴッドバロック、サフラナール、クリスタルピットの順で1コーナーを通過した。馬群全長は20馬身弱。今年は序盤から速い流れとなって長い隊列となった。
主導権を握ったエコロレーヴ、ローズカリス、スペシャルチャンスの3頭が後ろを離す形で向正面に入る。5馬身後ろにサンフラワームーン、エイシンリガーズが続く。ストロングボンドは早くも勢いが鈍りズルズルとポジションを下げていった。避けるように内へ切り替えたエイシンイワハシル、外にラッキーキッドが追走。その後ろでじっくり脚をためるゴッドバロックはインから、トウカイマシェリは外から進出を開始して前との差を詰める。離れてサフラナール、クリスタルピットが続き先頭が残り600mを通過した。
後続に3馬身弱の差をつけたエコロレーヴが先頭で3コーナーへ。後ろにいるローズカリスは追走で一杯の感じで差を詰められない。スペシャルチャンスは脚色が鈍り勝負圏から脱落した。そこに良い勢いでゴッドバロック、トウカイマシェリの2頭が3、4番手に浮上し前の2頭に接近する。エイシンイワハシル、ラッキーキッドの2頭もようやくエンジンが掛かって追撃を開始。しかし、先頭とは10馬身以上の差がある。以降は大きく離された状態で残り400mを通過した。
懸命に逃げていたエコロレーヴが先頭で4コーナーに差し掛かるが、追い上げてきたトウカイマシェリ、ゴッドバロックがすぐ直後まで接近してきた。ローズカリスも抵抗しようとするがこの2頭の勢いには敵わない。エコロレーヴの外に持ち出したトウカイマシェリが勢いそのままに捕まえると直線で先頭に躍り出る。経済コースを通ってきたゴッドバロックも負けていない。直線も内を選んでトウカイマシェリの1馬身後ろから懸命に追い掛ける。1着争いはこの2頭に絞られた。3着争いはしぶとく粘るエコロレーヴ、ローズカリスに追い上げてきたラッキーキッド、エイシンイワハシルの争いになる。
残り100mを過ぎると先に抜け出したトウカイマシェリに内からゴッドバロックがじわじわ差を詰めてくる。しかし、トウカイマシェリの脚色も負けておらず3/4馬身差のリードでゴールを通過した。器用な立ち回りをみせたゴッドバロックが2着。最後は勝ち馬に迫ろうとする場面もあって見せ場たっぷりの内容。将来を期待させる楽しみな1頭だ。3着争いを制したのは内から良い伸びをみせたラッキーキッド。幼い面をみせていたとの事だが小回りコースでも高い能力をみせた。地元兵庫のエイシンイワハシルはクビ差の4着。道中で後退してくる馬がいてスムーズさを欠きながらも最後はJRA勢と差のない競馬をした。今後の大舞台に向けてこの経験を糧としてほしい。1番人気のローズカリスは5着、エコロレーヴは6着に終わった。
兵庫ジュニアグランプリは9年連続でJRA所属馬の勝利。なお、牝馬の制覇は4頭目。2010年のリアライズノユメ以来、15年ぶりの勝利となった。

◆トウカイマシェリはドレフォン産駒の牝馬。重賞2度目の挑戦で初制覇。母は2011年北九州記念(小倉芝1200m・GⅢ)勝ち馬のトウカイミステリー。
獲得タイトル
2025 兵庫ジュニアグランプリ(JpnⅡ)


◆JRAの鮫島克駿騎手は兵庫のダートグレード初制覇。
地方重賞は3勝目。(カシノランペイジで勝った2018年たんぽぽ賞(佐賀)、オーロラテソーロで勝った2022年クラスターカップ(盛岡)に続く勝利)
◆JRAの高柳大輔厩舎も兵庫のダートグレード初制覇。
地方重賞は3勝目。(テーオーケインズで勝った2021年帝王賞と2022年JBCクラシック(盛岡)に続く勝利)
◆鮫島克駿騎手 優勝インタビュー◆
(そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)

「デビュー前から調教に乗せてもらっていた馬で、北海道(函館、門別)でも一緒に戦ってきて、結果を出せて良かったです」
雨が止んだ西ウイナーズサークルに鮫島克駿騎手が登場すると、ファンエリアから「おめでとう!」と温かい声援が飛んだ。
「ペースは流れると思っていたので、できるだけ前半はリラックスさせて、終いの競馬に徹しようと思っていました」
序盤戦は9番手付近を追走。1~2コーナーのスパイラルカーブをスムーズに回ると、向正面に入ってから一気にエンジンを点火。良い勢いで先行勢に迫っていった。
「向正面に入った時はだいぶ前と離れていたのですが、勝手に馬のギアが徐々に入っていって、仕掛けるというよりは、馬が競馬を理解しているような感じでした。前回よりも我慢が効いていたので、陣営を含めて1400mに向けて良い調整ができましたね」
門別遠征から今回のレースまで約1ヵ月間という短い期間であったが、距離克服に向けて行われた入念な調整がすぐに結果となって表れた。

「距離については、今日乗ってみても1400mがギリギリではないかというところはありますけど、今後の成長力に期待しています」
心身ともに成長を続けるトウカイマシェリは、この勝利で賞金加算も成功し、この先のレース選択の幅が広がった。
「重い芝でも走れますし、ダートも走れますので、選択肢が広がったのではないかと思います。2歳の重賞を勝つことができましたので、今後も活躍していってくれたらいいですね」
父のドレフォンはアメリカ産馬で2016年のブリーダーズカップ・スプリントなど、ダートの短距離GⅠを3勝している。
母のトウカイミステリーはJRAで22戦6勝。2011年に北九州記念(芝1200m・GⅢ)を制したスプリンターだが、初勝利と2勝目はダートの短距離戦で勝ち鞍を挙げている。
両親の素晴らしいDNAを引き継いだトウカイマシェリは来年どの舞台を選ぶのか?今後の動向に要注目の二刀流牝馬だ。

JRAの鮫島克駿騎手は園田のダートグレードレースは初勝利。地方のダートグレード制覇はオーロラテソーロで勝利した2022年のクラスターカップ(盛岡JpnⅢ・ダ1200m)以来。今年はGⅡのプロキオンステークス(サンデーファンデー)に続く重賞勝利となった。
「園田はプライベートでも遊びに来る場で、関係者もファンも温かくて居心地がいいですね。今年も終わりに差し掛かっていますが、ここまで不本意な成績なのでこれを機に挽回していきたいです」
2024年は大台の100勝にあと一歩届かなかったが年間99勝を挙げてJRA全国リーディング7位と好成績を収めた。今年は11月末時点で年間59勝と勝ち鞍が伸び悩んでいるが、この勝利をきっかけにさらなる飛躍、そして悲願のGⅠ制覇を達成してほしい。

総評

「良い雰囲気、状態でレースに持ってくることができましたね。北海道からの輸送もあったので、疲れを取りつつ精神面を整えてきました。レースに臨むにあたって、距離、ツーターンなど、いろいろ考えるところはありましたが、全部吹き飛ばしてくれる一戦でした」と、振り返ってくれた。
まだ芝でもという気持ちがあります。距離は1400mがギリギリですかね。JRAでは使えるレースも無いので休養して次走に向かいたいと思います」と、無理せず一息入れて更なる成長を促す予定だ。

なお、今後の2歳重賞は大晦日に園田ジュニアカップが組まれている。兵庫生え抜き馬が優先で選定されるため、エイシンイワハシルなどの他地区から兵庫に入ってきた馬までに順番が回ってくるかどうかは分からない。
兵庫生え抜き馬で牝馬のココキュンキュンはグランダムジャパン2歳シーズンの対象重賞で3勝を挙げる活躍をみせてポイントトップタイにつけている。大晦日のシリーズ最終戦「東京2歳優駿牝馬」に向かう予定で不在になる。
兵庫ジュベナイルカップとネクストスター園田に出走したリーガルタイム、ゴッドフェンサーの2頭が出走となれば間違いなく人気を集めることだろう。リーガルタイムは重賞で連続2着とタイトルに手が届きそうな位置まで来ている。ゴッドフェンサーは既に1700m戦を経験済み。この強みを活かしたいところだ。
さらに1700mで2勝、2着1回と抜群の安定感を誇るシェナマックスなど、これから重賞に挑もうという新興勢力も控えている。
激戦必至の2歳戦にもご注目いただきたい。
文:鈴木セイヤ
写真:齋藤寿一