2025 兵庫ゴールドトロフィー(Jpn3)
2025年12月25日(木)
兵庫に4つあるダートグレード競走の最後を飾る暮れのハンデ重賞「兵庫ゴールドトロフィー(Jpn3)」。
このレースは特にJRA勢の壁が高く、地方勢は苦戦が続いていたが、昨年は川崎のフォーヴィスムが勝利し、創設から24年目にして、ついに地方馬の初戴冠となった。
今年も中央、地方の垣根を越えた実力馬たちが揃ったが、このクリスマス決戦で栄冠を手にするのは果たしてどの馬か。イグナイターでさえ手にできなかった地元兵庫悲願のタイトル奪取となるかにも注目が集まった。

1番人気(単勝2.0倍)の支持を集めたのはJRAのマテンロウコマンド。3連勝中の勢いをもって臨んだ5月の「兵庫チャンピオンシップ(Jpn2)」では、2歳タイトルホルダーのハッピーマンを破り見事重賞初制覇。ダート3歳短距離王の座に輝いた。相手が強力だった前走古馬混合の「武蔵野ステークス(G3)」こそ10着と大きな着順となったが、それ以外は崩れず安定した走りを見せ続けている。今回は得意とする1400m戦、今春快勝を見せた舞台で久々の勝利を狙う。
差のない2番人気(単勝2.7倍)がJRAのサンライズフレイム。一昨年の夏から秋にかけて1勝クラスからオープンクラスまで怒涛の4連勝。その後は重賞を含むオープンクラスの戦いで常に入着圏の走りを見せ続け、2走前の「テレ玉杯オーバルスプリント(Jpn2)」でついに重賞初制覇。早め先頭からの押し切りで強さが光った。ハイレベルに加え、マイル戦とあってか、前走の「武蔵野ステークス(G3)」では4着に破れたが、それでも勝ち馬とはわずか0.6秒差。良績残す1400m戦で即反撃へ。
3番人気(単勝5.4倍)はJRAのハッピーマン。昨年11月には今回と同じ舞台の2歳重賞「兵庫ジュニアグランプリ(Jpn2)」を勝利。今春の「兵庫チャンピオンシップ(Jpn2)」は2着と、園田では2戦2連対。その後は若干不調で佐賀、浦和の遠征では成績を落としたが、前走京都のオープン特別「オータムリーフステークス」で9番人気を覆す復活Vを飾った。脚質の幅も出て、復調ムードの重賞ウイナーが相性の良い園田で自身2つ目のタイトル奪取を目論む。
4番人気以降は人気が大きく乖離しているものの、重賞4勝の地元の大将格エコロクラージュ(兵庫)、鋭い末脚を武器に今秋の園田チャレンジカップを制したロレンツォ(高知)、重賞6勝のスペシャルエックス(北海道)、一昨年優勝、昨年は惜敗2着のサンライズホーク(JRA)と、タイトルホースが続いた。
出走馬











レース











前日から天気は下り坂。この日も雨が降り続いたが、時を合わせるかのようにメインレース発走前には雨が上がった園田競馬場。ブラスバンド「H.B.B」の演奏によるダートグレード競走の生ファンファーレが響き渡り、場内からはそれに呼応するように拍手と歓声が起こった。
ところどころ水の浮く「不良」の馬場コンディションの中、スタートが切られた。
人気を背負う大外枠のマテンロウコマンドが外に寄れると、鞍上の松山騎手はすぐさま矯正しつつ先行態勢へ。対するもう1頭の人気馬サンライズフレイムはスタートは出たがダッシュは効かず、こちらは後方ポジションとなる。
先行争いはスペシャルエックス、バウチェイサーの地方馬2頭が演じ、その後ろ3番手の内にハッピーマン、外にマテンロウコマンドの中央勢が付ける形に。地元兵庫のエコロクラージュはそれらを見ながらの中団ポジション、サンライズホークとサンライズフレイムの同じ勝負服2頭がその背後に付けて、後はケイズレーヴ、ロレンツォ、オマツリオトコ、さらにサンライズグリットが後方に構えて、1コーナーのカーブに入る。
隊列は12馬身ほど。スペシャルエックスがハナを取るも、それに終始競りかける感じでバウチェイサーが続き、向正面へ。マテンロウコマンドが外の3番手。そしてそのインに構えていたハッピーマンと坂井騎手が向正面の中央にさしかかるあたりで一気に進出。早めに先頭に並びかけると、ここから各ジョッキーの手が動き出してペースが上がる。
3コーナーで先頭を奪ったハッピーマン、これに2番手で食い下がるスペシャルエックス、そしてバウチェイサーが後退していく中、代わってマテンロウコマンドが3番手に上がって前を追う。この間にインを突いてオマツリオトコ、外からエコロクラージュも並んでスパートをかけて、先頭との差3馬身の4番手に浮上し、いよいよ4コーナーから最後の直線へ。
後続に1馬身半と差をつけ、押し切りを図るハッピーマン。2番手グループは馬群密集、外からマテンロウコマンド、内にオマツリオトコ、その間のスペシャルエックスも食い下がって、残り200m。
離れた4番手あたりからエコロクラージュ、ケイズレーヴも懸命に追うが前との差は詰まらない。
残り100m、マテンロウコマンドが単独2番手に上がって、前に迫るもここで勝負あり。体半分差で凌いだハッピーマンが早め先頭からの押し切りを決めた。
なんといっても向正面に入ってほどなく動いた坂井瑠星騎手の好判断が勝利に導いた。これでハッピーマンは得意の園田で2つ目のタイトルを獲得し、前走の復調ムードからの完全復活。2着のマテンロウコマンドは今春の兵庫チャンピオンシップでの借りを返された形だが、能力の高さは示した。3着は後方から一気にインを突いて上がってきたオマツリオトコ。前走はレース中の落鉄の影響もあって不完全燃焼だったが、下原騎手らしさが光る好騎乗もあり、今回は見せ場たっぷりだった。
このレースの3歳馬の勝利は、いずれもJRAのシーキングザダイヤ(2004)、スマートファルコン(2008)、デュープロセス(2019)に続く4頭目で、3歳馬によるワンツーフィニッシュは初となった。

◆ハッピーマンは重賞2勝目。昨年の兵庫ジュニアグランプリ(Jpn2)以来となる兵庫のダートグレード制覇となった。
獲得タイトル
2024 兵庫ジュニアグランプリ(Jpn2)
2025 兵庫ゴールドトロフィー(Jpn3)


◆JRAの坂井瑠星騎手は12月のチャンピオンズカップG1(ダブルハートボンド)に続く重賞48勝目。兵庫のダートグレードは昨年の兵庫ジュニアグランプリ(ハッピーマン)以来の2勝目。
◆JRAの寺島良調教師は3月の船橋ダイオライト記念Jpn2(セラフィックコール)以来の重賞10勝目。
兵庫のダートグレードは坂井騎手と共に制した昨年の兵庫ジュニアグランプリ(ハッピーマン)以来の2勝目。
◆坂井瑠星騎手 優勝インタビュー◆
(そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)
レースでは序盤からポジションを取りに行き、インの4番手に付けた坂井騎手。
「馬場的にもある程度良いところに付けたいなと思っていて、そんなにレースプランも決めつけてはなかったんですけど、上手くいきましたね」

向正面に入って間もなく、インコースから先頭に並びかけていった。この時に判断が勝利に繋がったように見えたが、
「ここだ!って感じで行きました。せっかくのクリスマスなんで乗りに来て良かったなと思いました」」と、本人が狙い澄ましたタイミングが最高の結果をもたらした

「1年前もここで勝つことができて、本当に園田が合っているんだなと思いますね」
ハッピーマンにとっては昨年のジュニアグランプリに続き、およそ1年ぶりの重賞制覇。歓喜の舞台はまたもやここ園田だった。今春のチャンピオンシップでも2着と好走し、これで園田は3戦2勝、2着1回。この場所は水が合うようだ。

今年はフォーエバーヤングとのコンビで、アメリカ・デルマー競馬場でのブリーダーズカップクラシック制覇という、日本馬初の大偉業を成し遂げた坂井騎手。
「たくさんの良い馬に乗せていただいて、おかげでサウジ(カップ)もアメリカも勝たせてもらいましたけど、僕自身はまだまだなので、(中央競馬も)残り1週ありますけど、しっかり乗りたいなと思います」
相棒とともにダート世界一に輝いた今も、あくまで謙虚。その瞳は遥か遠く先を見つめているようだった。

悪天候にも関わらず詰めかけた多くのファンへ、最後に一言求めると、
「メリークリスマス!」と、笑顔で答えてくれた坂井騎手。
その瞬間、園田ではあまり聞き慣れない黄色い歓声が響き渡った。
その手綱捌きもさることながら、この人気の高さ、これが“世界の坂井瑠星”なのだと思い知らされた。

総評


賞金を加算したことで、今後のレースの選択肢も増えてくるが、「距離の延長も含めて、さらに上のクラスに挑戦したい」と、穏やかなテンションながら、今後に対する熱も感じられた。
もう兵庫でもおなじみになってきたハッピーマンにはぜひここからさらに出世してもらいたいし、枠の影響もあってか2着に敗れはしたが、マテンロウコマンドも力のあるところはしっかり見せた。こちらも今後巻き返し必至だろう。
そして兵庫勢ではオマツリオトコが3着と健闘するも、兵庫生え抜きのエコロクラージュは6着、兵庫ダービー馬のバウチェイサーは10着という結果で、またしても地元兵庫勢の戴冠はならなかった。いつかはこの分厚い壁を超えてほしいと切に願う。
文:木村寿伸
写真:齋藤寿一