2023 楠賞 レポート

2023年11月1日(水)

10月27日をもって今年のナイターシーズンが終了し、今週から火曜日スタートとなった園田競馬。月またぎの開催となる初週は金曜までの4日間連続開催となった。
JBCデーとなった3日(金)は、ここ園田でも8レース立てで開催があり、
元兵庫のレジェンドジョッキーにして現JRA騎手の岩田康誠さんのトークショーなどイベントも含めて大いに盛り上がりを見せた。


その頃、遠く離れた大井では、イグナイターが見事JBCスプリントを制し、兵庫所属馬初のJpnⅠ制覇という大偉業を成し遂げた。
ダートグレード複数勝利、JpnⅡ初制覇とこれまで兵庫の記録を更新し続けた”兵庫の雄”は交流GⅠ5度目の挑戦にして、ついに”ダートスプリント王者”にまで上り詰めた。まさに兵庫県競馬の歴史が変わった1日だった。

そんなエポックメイキングな勝利の2日前に行われた園田の全国交流重賞、
第57回楠賞。
そのイグナイターが2年前、初めて重賞タイトルを手にしたレースだ。

今年で57回目と歴史は長いが、2013から2017年に一旦中断した後、
2018年に1400mで行われる全国交流の3歳重賞として復活を果たした。

今年、このレースを勝って飛躍を遂げるのはどの馬か。
大井、船橋、川崎、門別から遠征馬5頭に加えて、地元馬7頭の全12頭、そのうち9頭が重賞ウィナーという豪華メンバーが顔を揃えた。

単勝1.7倍の1番人気になったのは門別のスペシャルエックスだった。
門別のイノセントカップとグランシャリオ門別スプリントを制し、ここまで重賞2勝。前走、地元1200mのA1戦を快勝して園田に乗り込んできた。
ダートグレードでも強敵に揉まれ、楠賞と同じ舞台設定となる去年の兵庫ジュニアグランプリ(JpnⅡ)では中央勢相手に2着と健闘した。そのレース以来の手綱となる兵庫、田中学騎手とのコンビで今回3つ目のタイトルを目指した。

2番人気は地方3歳牝馬トップクラスの実力を誇る船橋のサーフズアップが単勝3.8倍で続いた。
浦和のユングフラウ賞と、南関東牝馬クラシックの二冠目となる大井の東京プリンセス賞の勝ち馬だ。
前走の金沢スプリントカップでは3着も、休み明けで万全ではなかったようだ。
叩き2走目、そして主戦の御神本訓史騎手に戻る今回は前進が期待された。

3番人気は単勝7.0倍の大井ボヌールバローズ。
2歳時は笠松のラブミーチャン記念を逃げ切った快速馬。前走、名古屋の秋の鞍では、序盤から同じ先行馬3頭が競り合う形の厳しい展開になったものの、粘りを見せて差のない2着。負けて強しを印象付けた。

その秋の鞍を制した船橋のナイトオブバンドが4人気の12.6倍に。秋の鞍を勝つまで重賞では最高で2着4回。
逃げ粘るボヌールバローズを最後クビ差し切って、悲願の重賞初制覇となった。
今年に入ってから毎レースで鞍上が変わっていたが、ここにきて前走重賞制覇を成し遂げた名古屋の岡部誠騎手が継続騎乗。返す刀で重賞連勝を狙う。

5人気の15.1倍で地元兵庫のフクノユリディズが続いた。蓋を開けてみれば、兵庫の重賞ウィナー4頭を押し退けて、重賞初挑戦の同馬が高い支持を受けた形だ。門別から転入後、5戦4勝2着1回。まだ底を見せぬ魅力に期待は集まった。

出走馬

1番  (川)ラビュリントス (門)岩橋勇二騎手
2番 スマイルジョナス 笹田知宏騎手
3番 (船)サーフズアップ (大)御神本訓史騎手
4番 サラキャサリン 松木大地騎手
5番 ベラジオソノダラブ吉村智洋騎手
6番 (大)ボヌールバローズ (金)吉原寛人騎手
7番 レヴィアタン 廣瀬航騎手
8番 ヒメツルイチモンジ 下原理騎手
9番 フクノユリディズ (門)石川倭騎手
10番 (船)ナイトオブバンド (名)岡部誠騎手
11番 (門)スペシャルエックス 田中学騎手
12番 アドワン 田野豊三騎手

レース

スタート

スタンド前①

スタンド前②

2コーナー~向正面

向正面

3コーナー

3〜4コーナー

4コーナー

最後の直線①

最後の直線

最後の直線

最後の直線

最後の直線       

ゴールイン

この日より11月が始まったというのに、日中は夏日超えという季節外れの暑さとなった園田競馬場。西日が差し込むスターティングゲートに12頭が集結した。

ゲートが開き、好発を決めた大井のボヌールバローズがいつものように前へ。
陣営が逃げ宣言していた地元兵庫の2頭、サラキャサリンとフクノユリディズだったが、サラキャサリンはボヌールバローズがすんなり行ったことですぐ控える形に。
一方、フクノユリディズは外から門別のスペシャルエックスが来たことで窮屈になってポジションを下げた。この煽りをくらって、その内にいたヒメツルイチモンジなどもさらに内へと追いやられ、かなりごちゃつく展開に。

先手はボヌールバローズが取り、2番手にスペシャルエックス、インコースの3番手に川崎のラビュリントスと遠征馬が先団を形成。
あとは船橋のサーフズアップが続き、大方の予想に反して、さほどペースが上がらず各馬1コーナーに向かう。

このとき、アクシデントが発生。サラキャサリンが前を走る馬と接触して躓き、松木騎手はバランスを崩して落馬、競走中止に。(この件で松木騎手は11月7、8日の2日間騎乗停止となる)幸い、松木騎手はすぐに起き上がって退避できた。

場内がどよめく中、馬群は1コーナーのカーブへ。
この間にフクノユリディズが3番手浮上、ラビュリントスが4番手となり、このグループが後ろをやや離して2コーナーへ。
中団から後方にかけてサーフズアップ、スマイルジョナス、ナイトオブバンドが追走。
続いてベラジオソノダラブやヒメツルイチモンジ、アドワン、レヴィアタンと兵庫勢が後ろを固める展開に。

ボヌールバローズがハナに立って向正面へと入る中、カラ馬が外から勢いよく上がり、これに絡んでいってしばらく並走、その後追い抜いていった。

2番手のスペシャルエックスは田中騎手に促されながら2馬身差でこれを追う。
あとはフクノユリディズ、ラビュリントスが好位3、4番手。
中団後ろのスマイルジョナスとサーフズアップ、ベラジオソノダラブらが追い出して、ナイトオブバンド、ヒメツルイチモンジがそれらに続く。

カラ馬の影響を受けてか、ボヌールバローズが3、4コーナー中間でやや後退、代わってスペシャルエックスが先頭に躍り出る。

ラビュリントスがその間、3番手から2番手の外まで上がってくる。対するボヌールバローズもそれに抵抗しながら徐々に外へと進路を取って再び上昇、前は3頭広がって直線へ。

残り150mで、また勢いよく脚を伸ばすボヌールバローズが差し返して再び先頭へ。スペシャルエックスは離されての2番手、ラビュリントスも差を詰め切れずの3番手でそのまま大勢は決する。

最後は2着に4馬身つけて、ボヌールバローズが快勝のゴールイン。
スペシャルエックスが2着を死守。3着はラビュリントス、4着はそこからまた4馬身空いてサーフズアップが入り、遠征馬が上位独占。
地元兵庫最先着はヒメツルイチモンジの5着だった。
重賞3勝、兵庫の筆頭格のベラジオソノダラブはその後の6着に敗れた。

前に行った馬がそのまま残った結果だったが、中団から後方にいた馬たちは序盤の落馬の影響を受けていた感が否めない。

ただそれで言えば、勝ったボヌールバローズもカラ馬に来られてひるんでしまい、一旦後退。そこから巻き返して、最後は抜き抜けるのだから、この馬の強さに疑いようがないのもまた事実だ。

距離変更後の楠賞としては、初めて牝馬による勝利となった。

◆ボヌールバローズはこれで通算10戦4勝、重賞は去年のラブミーチャン記念(笠松)に続いて2勝目。その他の重賞でも2着3回。
大きく崩れた唯一のレースは、紅一点で臨んだ東京ダービーだった。
そこでも並みいる牡馬らを引き連れて果敢に逃げの手。あのミックファイアに背後からつけられる形で道中を進み、交わされてからも残り300mまでは2番手で食い下がっていた。
高い能力を示し続ける3歳牝馬の更なる飛躍に期待したい。


獲得タイトル

2022 ラブミーチャン記念(笠松)
2023 楠賞

◆吉原寛人騎手は前週の兵庫クイーンカップを”金沢の女傑”ことハクサンアマゾネスで制したのに続いて2週連続で兵庫重賞制覇。そのハクサンアマゾネスとは7月に兵庫サマークイーン賞も勝利しており、今年の兵庫重賞3勝目、通算では7勝目となった。

◆福永敏厩舎は4月の佐賀ヴィーナスカップを下原理騎手騎乗のジュランビルで制して以来、今年の重賞2勝目。
通算11勝目の重賞タイトル。嬉しい兵庫重賞初制覇となった。

◆吉原寛人騎手 優勝インタビュー◆
 (そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)

勝利インタビューの開口一番、「すごい根性を見ました」と話した吉原寛人騎手。鞍上も驚きの走りだったようだ。

「前にカラ馬がいてカットされたときに馬がひるんじゃったんで、その隙を突いて(スペシャルエックスに)来られちゃったんですけど。
まだ脚を使ってない状態だったんで外に切り返す隙間があったんでそこからまた伸びてくれたんでね。これなら良いかなという感じで」。

レース前は先陣争い激化という大方の予想の中、すんなりと先手を取ったボヌールバローズ。
「スタートだけなんとかならないかなと思って。そしたらね、すごく良いスタートですんなりとハナを取れて、マイペースで走れる格好になったので、これなら勝負できるなということで、ちょっと色気を持って乗っていました」と笑みをこぼした。

無事に先手が取れ、良いペースで逃げようという矢先、2コーナーから向正面に入っていくあたりで外からカラ馬がすごい勢いで近づいてきた。
「ちょっと何が起きたのか分からなかったので、いろんなことを考えながら…」
と、アクシデントに巻き込まれても、冷静に状況判断しながら騎乗していた吉原騎手。
「馬が大変なことになっていたので、事故が起こらなくてよかったなという感じですね」と、まずは怪我人などが出なかったことに安堵していた。

この馬とコンビを組むのは前走秋の鞍に続いて2度目。

「前走であれだけハイペースの中、粘って2着に残ってくれていたんで、
今日もしっかりと自分のペースで行ければと。力はあると思ったんで結果が出せてよかったです」と馬の能力を信じて騎乗した吉原騎手。
「とても楽しみです」今後への期待も口にした。

これで自身はハクサンアマゾネスで兵庫クイーンカップを制したのに続き、2週連続の兵庫重賞制覇となった。
今年だけで3勝、通算7つ目の重賞勝利ということで、園田の競馬ファンにとってもお馴染みのお立ち台になってきている。

これに話が及ぶと、歓声を上げる場内のファンに一礼し、「園田大好きです。ありがとうございます!」と答えた吉原騎手。この日一番の笑顔が弾けた。

総評

表彰式の後、管理する福永敏調教師は「やっと勝てました」と笑顔で一言。
何度か挑戦している兵庫の重賞で初めて勝利することができた。「競馬のレベルが高いところなので、遠征しても返り討ちにされていましたが、今日は勝ててよかったです」と喜びを口にした。
「カラ馬に前に入られて砂がかかってひるんだみたいで。そんな厳しい状況でも外に出してからまた伸びてくれて。これまでと違う面が出ましたね」と福永師。これまでは逃げてどこまで粘れるかというレースを続けてきたが、今回は一旦前に出られてまた差し返す競馬を見せた。怪我の功名というべきか、ピンチに直面したことで、師の想像以上の勝負根性を発揮した。
「遅生まれで、オーナーと大事に大事に使ってきたんで。現状はまだ自分のペースで逃げてという形ですが、またレースにも幅が出ればもっと良くなると思います」と目を細める。

また、園田の深い砂に対して心配もあったそうだが、「名古屋でこれだけ走れれば大丈夫です」という吉原騎手の言葉が不安を払拭してくれたようだ。名手のサポートはレースだけにとどまらない。

次走はコンディションを見た上で、暮れに行われる大井の東京シンデレラマイルを目標に置くとのこと。園田で見せたハイパフォーマンスをぜひ地元の大舞台でも見せてほしい。

そして今回は落馬の影響を受け、不完全燃焼のレースとなった馬が多数いた。他陣営の巻き返しにも今後期待したい。


 文:木村寿伸  
写真:齋藤寿一  

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