2024 兵庫クイーンセレクション レポート

2024年1月25日(木)

全8週、26日間にわたって行われる今年の姫路競馬も2週目に突入。そのうち2度、4日間連続開催が組まれており、この2週目が最初の4日間開催となった。
今週は今季一番の猛烈な寒波が日本列島を襲い、日本海側を中心に積雪をもたらした。
振り返れば、まさに去年のこの時期、1月25日の姫路競馬が降雪により中止、27日に代替開催が行われたが、今年は雪が積もることもなく、4日間とも無事に開催された。

そんな中、25日(木)に行われた西日本交流重賞「兵庫クイーンセレクション」。
明け3歳の牝馬による一戦、今年は重賞ウィナー不在で混戦ムードが漂っていた。

去年のサラキャサリンは鞍上の松木大地騎手を背にここを勝って人馬ともに重賞初制覇。返す刀で次走の若草賞土古記念(名古屋)も勝利し、重賞連勝と飛躍を遂げた。

今年、ここから羽ばたくのはどの馬か、名古屋からニジイロハーピーただ1頭の遠征馬を加えた全12頭が重賞初制覇を懸けて激突した。

上位4頭が単勝10倍以下のオッズとなる混戦模様の中、単勝1番人気2.3倍の支持を集めたのは地元兵庫のプリムロゼだった。
ここまで5戦5連対と堅実な走りを見せ続けている。前走園田の1400m特別戦は逃げ粘るクライムエンジェルをゴール前で差し切り勝ち。走破時計も1分30秒9と優秀なものだった。陣営も元々ポテンシャルの高さを感じていたが、体質も改善され、ここに来て身も伴ってきた。一気に才能を開花させ、重賞初挑戦初制覇を狙う。

2番人気は名古屋からやってきた唯一の遠征馬、ニジイロハーピーが単勝3.0倍で続いた。
近2走は地元名古屋のゴールドウィング賞で3着、笠松のライデンリーダー記念で2着と牡馬やセン馬を相手に重賞で好走を見せる。重賞4戦目で待望の初タイトル奪取となるか。
鞍上の渡邊竜也騎手は笠松の若きトップジョッキー。昨年11月に落馬負傷し、
今週復帰したばかり。遠征先で復活Vとなるかも注目だ。

3番人気は差がなく3.8倍でクライムエンジェルが続く。
デビュー戦は、その後2連勝を飾るエイシンフォトンを5馬身突き放す快勝。
次走は、前述の通りプリムロゼに差されたが、序盤でやや競り合いながらもゴール前まで逃げ粘る負けて強しの内容。今回がまだキャリア3戦目、伸びしろが期待される。

メンバー最多4勝を挙げるラブミーテキーラが4番人気の8.5倍。
前走3歳Aクラス特別戦では世代の評判馬オーシンロクゼロに離されての3着だったが、これはスタートで躓き、自分の形に持ち込めなかったことも影響したか。ここまで逃げて好走歴があるだけに、課題のスタートを決められるかも鍵となる。2走前にはプリムロゼを破っており、ここでも能力は上位、巻き返しを図る。

出走馬

1番  ジャングルマリサ 永井孝典騎手
2番 ニネンイーグミ 井上幹太騎手
3番 クライムエンジェル 廣瀬航騎手
4番 (名)ニジイロハーピー (笠)渡邊竜也騎手
5番 ラブミーテキーラ 吉村智洋騎手
6番 ティラミスアイ 山田雄大騎手
7番 バインドロック 鴨宮祥行騎手
8番 インタールード 笹田知宏騎手
9番 ユナクレバー 大山真吾騎手
10番 エズヴィラージュ 下原理騎手
11番 スービーズ 田野豊三騎手
12番 プリムロゼ 杉浦健太騎手

レース

スタンド前

2コーナー

向正面①

向正面

3コーナー

3〜4コーナー

4コーナー~最後の直線

最後の直線①

最後の直線②

最後の直線③     

ゴールイン

凍てつくような猛烈な風が一日中吹き続けたこの日。午前中は時折小雪が舞う中、レースが行われたが、そこから天気が悪化することはなくメインを迎える頃には青空も広がっていた。

好天の姫路競馬場に今年、最初の重賞ファンファーレが鳴り響く。

好発を決めたのは内枠の2頭、ジャングルマリサとニネンイーグミ。そしてデビューから2戦連続で逃げの手を見せていたクライムエンジェルは躓いて痛恨の出遅れ。大外のプリムロゼも若干出負けで、地元勢の人気所は序盤後方からのレースを強いられた。


対する先行争いは、五分の出を見せたラブミーテキーラ、エズヴィラージュの2頭がまず上がり、南関東から転入2戦目のスービーズがそれに加わって3番手を形成。

差がなく4番手グループは内からバインドロック、名古屋のニジイロハーピー、そして巻き返したプリムロゼが続き、6頭一団で1コーナーのカーブへ。

中団には、これまた出負けからリカバリーを図るクライムエンジェル、インタールード、ニネンイーグミの3頭。そこから1馬身半離れて後方グループにティラミスアイ、ジャングルマリサ、シンガリにユナクレバーの展開で各馬、向正面に入る。

結局ハナに立ったのはラブミーテキーラ。吉村騎手がペースを緩め、自分の形に持ち込むと、そこから半馬身間隔でエズヴィラージュ、スービーズが2番手、3番手を追走。

バックストレート中央を通過し、このまま流れが落ち着くかに思えたその瞬間、4番手にいたニジイロハーピーの渡邊竜也騎手が一気に動いて先頭の外へ。前4頭横並びで3コーナーのカーブに入る。


その背後から馬群を捌いてクライムエンジェル、外を回ってプリムロゼ、さらにはインタールードが前を追って上昇開始。
後方集団からはティラミスアイも脚を伸ばして、4コーナーの手前にさしかかる。

向正面で早くも先頭に立ったニジイロハーピーは後続に2馬身つけて最後の直線へ。プリムロゼがじわじわ追い上げ、2番手に浮上。
その後逃げたラブミーテキーラの脚色が鈍る中、残り200mを切ったところでインタールードがこれを捕まえんと追い込みを見せる。

ゴール前、脚色が鈍ることなく単独先頭を守るニジイロハーピー。
プリムロゼも差を詰めるがここで勝負あり。

最後は2馬身差で名古屋のニジイロハーピーが早め先頭押し切り勝ち。
着差以上に余裕のゴールに見えた。

2着はスタート後手から巻き返し、長く良い脚を見せたプリムロゼ。戦前は混戦が予想されたが、終わってみれば人気馬のワンツーフィニッシュで幕を閉じた。

3着には後方から追い込んだインタールードが入った。姉のアイガットユーは去年このレースで7着。勝利こそ届かなかったが、姉を超える走りは見せた。母は2016年の菊水賞馬シュエット、血統馬の今後に期待だ。



勝ったニジイロハーピーは名古屋からやってきた今回唯一の遠征馬。自ら早めに動く強気の競馬で地元馬を一蹴して見せた。
ペースが落ちると見るや、早めに動いた鞍上の笠松、渡邊竜也騎手の手腕も光ったレースとなった。

◆ニジイロハーピーはこれで通算11戦2勝。
重賞は笠松のライデンリーダー記念で2着、地元名古屋のゴールドウィング賞で3着と、牡馬やセン馬を相手に好走を続けていたがこれまで勝ちには届かなかった。
今回4度目の重賞挑戦にしてついにタイトル奪取。遠征先のここ兵庫で重賞初制覇を飾った。


獲得タイトル

2024 兵庫クイーンセレクション

◆渡邊竜也騎手(笠松)は去年10月のネクストスター笠松以来の重賞制覇。
兵庫重賞は2019年の姫山菊花賞(笠松のストーミーワンダー)、2021年の兵庫クイーンセレクション(名古屋のニジイロ)に続いて通算3勝目となった。
このレースは3年ぶり2度目の制覇。しかも血統こそ違えど、同じ”ニジイロ”が馬名に入った馬での勝利となった。
昨年11月に落馬負傷し、今週22日に復帰したばかり。遠征競馬での鮮やか復活Vで今年最初の重賞勝利となった。

◆今津勝之厩舎(名古屋)はペップセで制した去年8月の岐阜金賞(笠松)以来の重賞勝利。
兵庫重賞は2008年の園田ユースカップ(サチコゴージャス)以来、2度目の制覇となった。

◆渡邊竜也騎手 優勝インタビュー◆
 (そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)

「素直に嬉しいです。名古屋の馬に乗せていただいて、大きいレースを勝てたので」と開口一番、静かに喜びを口にした渡邊竜也騎手。

「2度乗せていただいたことがあって早めにじわっと脚を使っていこうかなと思ったんですけど、思ったより手応えが良くて向正面で早めに先頭に立ってしまいました。でも、馬がよく辛抱してくれたなと思います」とレースを振り返った。

向正面から先頭に立つ強気の競馬にも見えたが、それはこの馬に騎乗したこれまでの経験と道中の感触があってのものだった。
「先頭に立ってしまった」と本人は表現していたが、結果を見れば、馬を信じた好騎乗と言えるだろう。

「すごく乗り味の良い馬ですし、まだ3歳で成長できるかなと思うので今後も楽しみにしています」と将来性にも言及した。

「こんな2ヶ月休んでいた自分に乗せていただいた(今津)先生と馬主さんと厩務員さんに感謝しかないですし、その中で結果を出せたのが、すごく自分にとって自信に繋がったなと思います」。
昨年11月の負傷から今週復帰したばかり。笠松で2日間騎乗した後、こちらに遠征してすぐの復活重賞Vとなった。


ちなみに3年前にこのレースを共に勝利したニジイロと、同じ名を持つニジイロハーピーでの勝利には、「意識せずにはいられなかったんですけど、もちろんそういうのもあってレースに向けて自分も強い気持ちで乗ろうと思っていたので結果を出せて良かったです」と、少なからず縁を感じて本番に臨んでいたようだ。

地元の笠松は前日に降雪のため中止となった。この日は無事開催となったが、
そんな地元のファンにも「笠松のお客さんもおそらく見てくれていると思うので皆さまの応援に応えることができて良かったなと思います」とメッセージを送った。

一昨年の2022年に164勝で初めて笠松リーディングに輝くと、昨年の2023年は183勝と前年を上回る圧倒的な数字で2年連続笠松リーディングを獲得。
今年は怪我で出遅れたが、復帰早々にこうしてタイトルを手にした。地元笠松も大いに沸いたことだろう。

今年の3月で24歳に、そして騎手生活8年目を迎える笠松の若きエースの活躍から目が離せない。

総評

前日からの雪の影響もあって、ニジイロハーピーの姫路入りは1時間ほど遅れたとのことだが、そんな影響を微塵も感じさせない快勝劇となった。
レース後、嬉しさを爆発させたのは、オーナーである小林伸幸さん。
「ここは獲りにきました!」と笑顔で話すと、「名古屋にはミトノウォリアーとミトノユニバースという2頭の強い牡馬がいて、なかなか重賞を勝てなかったんです。牝馬相手ならという気持ちで臨みました」と高揚感たっぷりに話を続けた。
渡邊竜也騎手は勝利インタビュー後の囲み取材の中で、「以前乗ったときよりも気が前向きになっていた分、早めに出していった」と向正面の進出についてより詳細に話してくれた。
筆者の私が勝利インタビューの際に「完全復活と見ていいですか?」と水を向けたとき、やや答えに窮する様子だったのだが、どうやら負傷した顎の感覚がまだ戻っていないようだ。
ただ、「騎乗には問題ありません」とのことだったので一安心、今後の活躍にまた期待したい。
ちなみに渡邊騎手は姫路競馬場について「(コースの向こう側を指差しながら)この景色良いですよね。すごく好きです」とも語ってくれた。
3年前の”ニジイロ”に続き、今回は”ニジイロ”ハーピーで、東海から姫路に再び虹のアーチを描いた渡邊騎手。勝負所で早めに動いていった姿は、3年前の騎乗と重なる部分もあった。
今後、地元重賞戦線やグランダムジャパン3歳シーズンを視野に入れているというニジイロハーピー共々、引き続き兵庫勢の脅威になりそうだ。

一方、ただ1頭の遠征馬に圧倒されてしまった兵庫勢だが、出遅れもあって力を出せなかった馬もいれば、展開が向かなかった馬もいる。そもそもまだ3歳になったばかりで各馬が成長途上。今後の巻き返しに期待したい。


 文:木村寿伸  
写真:齋藤寿一  

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